パーティー2
まさかサラ・トルヴィーニまで参加してくるとは思わなかったわ。
しかも最後に登場するなんて。
だけど主役は奪わせない!
たとえトゥシューズに画びょうを入れてもね!
「ファラーラ様、招いてくださって、ありがとう。嬉しいわ」
「……トルヴィーニ先輩、ようこそいらっしゃいました。アルマー先輩も、どうぞ楽しんでくださいね」
「ありがとう、ファッジン様」
前に並んでいるアルマー先輩よりも先に声をかけてくるなんて、失礼じゃないかしら。
アルマー先輩は本当にサラ・トルヴィーニでいいの?
ストラキオ先輩は離脱されたのか、少し前にいらっしゃってイチゴのパイを頬張っていらっしゃいますよ。
アルマー先輩からピンクのバラを受け取って、係の者に渡す。
そこですでに挨拶を終わらせたはずのポレッティ先輩がにこやかに声をかけていらっしゃった。
「まあ、トルヴィーニ様までいらっしゃったの? あなたは失恋の痛手でいらっしゃらないと思っていたわ」
「失恋って何のことでしょう? 最近は根も葉もない噂が流れていて困っているのです」
ケンカをやめて。
私のために争わないで!
おかしいわね。
今日は快晴のはずなのに、なぜこんなに暗雲立ち込めているのかしら。
あ、私の上にだけね。
お二人とも、せめて「こんにちは」って言いましょうよ。
世界の国からでなくても、挨拶は基本というか、マナーというか、笑顔があふれる「こんにちは」でしょう?
あ、笑顔だけはあふれているわ。
怖いくらいに。うふふ。
こういうの、なんて言うのだったかしら。
ああ、そうそう。前門の虎後門の狼ね!
そんな私は生贄の子ヤギです。メエメエ。
だけど子ヤギだって反撃するのよ。
大きな古時計の中でプルプル震えているだけだとは思わないで。
ここにいる私の可愛い子ヤギさんたちのために鋏だって使うんだから。
馬鹿と鋏は使いよう。
もちろん私は使う側よ。
針と糸は使わないから、二人の間を取り持つことなんてしないわ。
「ポレッティ先輩、お茶会はどうでしたか? あとでお話を聞かせてくださいね?」
お茶会は可もなく不可もなくだったと聞いているわ。
要するに地味だった、と。
ポレッティ先輩は満面の笑みを浮かべて頷かれた。
こ、怖くなんてないもの。
次よ、次。
「トルヴィーニ先輩、失恋ということは、リベリオ様に振られてしまったのですか? お気の毒に」
サラ・トルヴィーニはさっと顔色を変えたけれど、それは一瞬で無邪気(に見える)な笑顔が返ってきた。
なかなかやるわね。
「私とリベリオはただの幼馴染よ。誰が流したのか知らないけれど、いい加減な噂には本当に腹が立つわ。もちろん、私は失恋もしていないの」
あらあら、それは殿下のことかしら。
あんなにはっきり妹宣言されておいて?
諦めない気持ちは大切よね。
私はすっかり油断していて、差し出された黄色のバラを迂闊に受け取ってしまったのよ。
こちらが画びょうを仕込む前に、仕掛けてくるなんて。
ほんと油断大敵。
まさか棘が処理されていないなんて思いもしなかったから。
ちくりと指に痛みが走り、思わず顔をしかめてしまったのは仕方ないわよね。
その瞬間のサラ・トルヴィーニの愉悦に歪んだ表情は一生忘れないと思うわ。
主催者として騒ぎを起こすわけにはいかない。
ここは何事もなかったように微笑んで誤魔化すべき。――と思ったら、大間違い。
ここで泣き寝入りするわけないでしょう?
だって、私はファラーラ・ファッジンだもの!
 




