学園3
真っ白に……燃え尽きたわ。
なんてことをしてしまったの、私……。
まさか、まさか、この私が緊張してしまうなんて!
出だしがいけなかったのよ……。
『はじめまして――』
そう言った途端、頭の中で「はじめましてじゃない子が大半だわ」って変なこと考えちゃったから。
そこからパニックになって、自分の名前を噛んでしまうなんて!
『――ファ、ファララファッジン、です。よろしくお願いするわ』
って、何なの!?
しかも! 今まで聞いているんだか聞いていないんだか、教壇の前に置いた椅子に座って足と腕を組んで目をつぶっていた先生が噴き出したから。
みんなまで笑ったのよ!
そこは教師がフォローしなさいよ!
おのれ、ブルーノ・フェスタ。
この恨み、末代まで祟ってやる。
あの後からミーラとレジーナの見る目が変わった気がするもの。
それにクラスのみんなも。
いいわ、いいわ。どうせ私はみんなに陰で笑われる運命なのよ(堂々と笑われたけれど)。
自己紹介が終わったあとは、そのまま授業に突入。
式典はなくてもいいけど、休憩時間は欲しいわ。
このひと月、先生に来てもらって勉強していたからいいけれど、その前のような生活をしていたらこれは拷問だわ。
ほら、女子の中にはだらけてしまってぼうっとしている子が多いもの。
男子はまあ、それなりに家庭教師をつけていたんでしょうね。
それよりも本気で勉強しているのが、一般出身の子。
学院の生活でかかる諸費用は全て国が負担してくれているはずだけれど、やっぱり本気になるわよね。
この学院をきちんと卒業すれば、官僚になれる道も開けるんだもの。
女子はシアラのような侍女になるのがほとんどだけど、王宮の女官になれることだってあるものね。
(お腹すいたわ……)
まさかお昼休憩がないってことはないわよね?
いつもならそろそろ授業が終わって、シアラが食事の用意をして待っていてくれるのよ。
ああ、離れてわかるシアラのありがたみ。
本当に悪夢の中の私は悪魔だったわ。
他のみんなはお腹がすいていないのかしら、と気になってこっそり教室の中を見回す。
そこで改めて気付いた。
(制服の子が少ない……)
今さら思い出したことだけれど、この学園では制服はあっても、貴族の子女は自分のドレスで登校していたんだったわ。
私も毎日違うドレスを着ていたもの。
なんて贅沢な話なの。
蝶子の記憶で学校には制服で行くものって思っていたから。
それでシアラに制服を着てみたいって言ったときに、あれだけ慌てていたのね。
急きょ用意された制服は可愛くてすぐに気に入ったけれど、こうしてみれば男女ともに制服を着ているのは一般の子たちだけね。
ああ、また思い出した。
悪夢の中の私は制服を着ている子を貧乏人とか下賤の者とかって馬鹿にしていたんだわ。
思い出せば思い出すほど、最低な私。
はあってため息を吐いたら、まさかのお腹がぐうって鳴った。
けっこうな音量で慌てて周囲を見たら、隣の子とばっちり目が合ってしまった。
聞こえた? 聞こえたわよね?
だって、こっそり笑ってるもの~。
下賤の分際でこの私を笑うなんて!
って、ダメダメ。傲慢な私よさようなら。
制服を着ているってことは、一般の子よね?
さっきは真っ白に燃え尽きていたから、自己紹介を聞いていなかったわ。
何ていう子だったかしら……。
うーんと考えていたら、その子がこっそり右手を私の机に差し出して、ぽんと何かを置いた。
何、これ?
安っぽい紙に包まれた小さな何かに驚いて隣を見れば、その子は同じものをこっそり開いて口に入れた。
それからにっこり笑う。
た、食べ物だわ! 配給品だわ!
まさか一般の子に恵んでもらうことになるとは思わなかったけれど、背に腹は代えられないもの。
ええ、お腹と背中が引っ付いては一大事よ。
おそるおそる包み紙を開くと、よくわからない茶色の塊が出てきた。
何、これ?
石のようだけど、このままだとまたお腹が鳴ってしまいそう。
そう思って勢いよく口に入れたら、ほんのり甘い砂みたいだった。
今まで食べたことないくらい口当たりが悪い。
だけど、今まで食べた中で一番美味しいかも。
ちらりと隣の子を見ると、にっこり笑顔が返ってきた。
ひょっとして、ファラーラとしても蝶子としても、人生初の友達ができたかもしれないわ。




