表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/251

悪夢1

 

「ファラーラ・ファッジン。申し訳ないが、あなたとの婚約を解消させてもらう」

「……エヴェラルド殿下、何をおっしゃっているのですか? 殿下と私の婚約は国王陛下がお決めになったのですよ? 解消などできるわけがございませんでしょう?」



予想もしなかった言葉に腹が立って、手にあるカップの中身を殿下にぶちまけてしまいたかった。

 だけどここは私が大人になって我慢しなければいけないわ。



「いや、できる。昨日、父である陛下に願い出て、許可もいただいた。よって、今までのような振る舞いは許されないことを理解してもらいたい」

「な、何を……何を馬鹿なことを! 冗談ですわよね!? ちっとも面白くありませんけれど、私を困らせようとしてそんなことをおっしゃっているのでしょう!?」

「いや、全て本気だ。先ほどあなたのお父上であるファッジン公爵にも伝えたところだ。公爵は賢明にも理解してくれたよ」



 また殿下は我が儘をおっしゃっているのね。

 殿方は気まぐれだし軽率で子供っぽいところがあるから、寛大な気持ちで殿下の過ちを許してあげないと。



「……殿下には何かお悩みがあるのではありませんか? 最近、考えに耽っていらっしゃることも多かったですものね。私でよければいつでもご相談に乗りますのに」

「私の悩みはあなただった。しかし婚約を解消できた今、すっきりした気分だよ」



 もう我慢できない。

 たとえ殿下でも、こんな侮辱を許していいわけがないわ。

 そう思った私は思わずカップごと殿下に投げつけた。

 そのカップを殿下は片手で受け止めたけれど、中身は飛び散り上等な衣服を濡らしてしまった。

 でも謝るなんてプライドが許さない。



「で、殿下が悪いのですわ」

「……そうだな。今回はあなたを――あなたのプライドを傷つけたのだから、私が悪い。だが今まであなたにいったいどれだけの人が傷つけられただろう? 私もそのうちの一人だ。これきり縁が切れると思うと、この無礼も許す気になれる。嬉しいよ。それでは失礼する」



 まさか嘘でしょう? 本気のわけがないわ。

 だって私はファラーラ・ファッジン――ファッジン公爵の娘なのよ?

 だけど殿下は振り向くこともせず、居間から出て行ってしまった。


 ここは見送るべき?

 婚約を解消されたのに?

 まるで追いすがるみたいじゃない。

 そんなのプライドが許さないわ。


 だから殿下から謝ってくるまで待っていてあげる。

 謝ってきたら、優しく許してあげるんだから。感謝してほしいわ。


 つんと顎を上げたまま殿下が出て行くのを待った。

 そのとき部屋の隅で真っ青になった顔で控える侍女のシアラと目が合う。



「何をぼうっと突っ立って見ているの!? さっさとここを片付けなさい!」

「は、はい! 申し訳ございません!」

「ほんと鈍くさい子ね。今の話を誰かにしたら許さないわよ? わかっているわね?」

「は、はい……」



 シアラには本当にイライラさせられるわ。

 ああ、腹が立つ。

 やっぱり我慢できない。



「――きゃっ!?」

「このグズ! 早く片付けなさいって言っているでしょう!?」

「申し訳ございません! 申し訳ございません!」



 焼き菓子が綺麗に盛られた手つかずのお皿をシアラに投げつけたけれど、怒りが収まらない。

 シアラはいつも謝るばかりで何も変わらないんだから。

 私の躾が甘いのかしら?


 床に這いつくばって散らかった焼き菓子を拾うシアラを見ていると、余計にイライラしてくるわ。

 ここはこの場を離れなければ。


 こういうときは気分転換が一番よ。

 そうだわ。お父様に今のお話をして、殿下を叱ってもらいましょう。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ