ここは何処? あなたは誰?
「何処? って何よ」
しゃがみ込んで額を擦っている委員長をそのままに、もう一度辺りを伺う。
薄暗い中、目を凝らして覗き見る。
土の地面に土の壁に土の天井、ソコはやはり、洞窟だった。
「洞窟だ……」
「なにがよ……」
そう言い掛けた委員長も立ち上がり。
「何処? ここ」
首を振りつつ辺りを確認しながら。
「暗くて良くはわかんないけど……洞窟っぽい」
「何でよ!」
もう、それはさっき俺がやった。
今さらだと委員長を見ていると、それだけで少しは冷静になれた気がする。
「もしかして……さっきの委員長の頭突きで、俺達は死んじゃった?」
「そんな事……有るわけ無いじゃん」
語尾は少し不安げだ。
「今、流行りの異世界転生?」
「まだそんなの流行っているの?」
その手のラノベは委員長の趣味では無いらしい。
「じゃあ……これは?」
掌で辺りを指ししめす。
キョロキョロと首を振り。
その混乱した委員長が少し可愛く見えた。
「何処よ!」
ループしている。
思わず笑ってしまった。
それと同時に、俺の抱えている不安も笑い飛ばされた。
この洞窟を受け入れたわけではない。
完全に現実逃避だ。
それもちゃんと理解出来る。
そう、今は冷静なのだ。
「とにかく、出口を探そう」
「出口なんて……在るの?」
今の一言には、新たに不安が襲う。
「あ、在るだろう?」
最後の方が疑問系に為っている。
委員長が俺を見て。
辺りを見て。
「そうね、ここに居ても仕方無い様だし」
そう言いながらに歩き出す。
「探しましょう」
洞窟の前後? もしくは左右? の片方を進む。
「出口がわかるの?」
あまりに自信満々に歩き出す委員長に着いていきながら。
「わかるわけ無いじゃない」
進行方向に指を立て。
「勘よ!」
委員長を先頭に二人はユックリと暗い中を進む。
「真っ暗じゃなくて良かったね」
そう委員長に、後ろから声を掛けた。
「良かないわよ」
「どうして? 真っ暗じゃ歩けないじゃない」
「この明かり、辛うじて辺りが見えるわよね?」
「うん」
「それは……おかしくない?」
立ち止まり、振り返り。
「洞窟の中に光の光源に成るものは何処にも無いのによ」
ん? と首を捻る。
「本物の洞窟なんて、真っ暗の筈よ!」
俺の顔前に指を立てて。
「この不自然な明かりは変なのよ」
言われて見れば……変か。
ほんの少しの明かりだが、近付けば委員長の顔も見える。
足元も、目を凝らせば見える。
「本物じゃないって事?」
「見た目は本物っぽいけど……怪しいって事よ」
「やっぱり……死んじゃったのかな?」
「死んでないわよ!」
声を荒げて足音を響かせ歩き進む。
その委員長の足下で「プギャ」と、小さな叫びが聞こえてきた。
「あ! なんか踏んだ……柔らかい何か……」
と、その場を飛び退いた。
俺は、その場所を顔を近付けて覗き込む。
一枚のカードがソコに落ちていた。
「カードだ……」
拾い上げて委員長に指し示す。
「踏んだのはこれ?」
ジッと、見て。
「違う、もっと立体感が有って、柔らかくて、プチって感じで……」
よくわからんが……カードしか見付けられない。
踏んだのは別の何か? か。
そのカードには、ランタンを抱えた……フェアリー? らしき絵が描いてある。
それを、そのまま額に当てた。
「なにしてんのよ」
委員長が鼻で笑う。
「カードは額に当てるんだろ?」
あの変なオジサンも言っていたし、それを委員長もやったじゃないか。
「そんな変なオマジナイみたい……な……事……」
「信じて頭突きしたんじゃ無いのかよ」
そう言いながら、委員長の態度がオカシイ事に気が付いた。
「なに?」
その委員長。
俺の頭の上を指差している。
「出た……」
俺も、その指の先を辿り上を向く。
……。
なんか……居た。
身長が手のひらサイズで、背中にトンボの羽が着いている……小人。
想像通りのフェアリーってヤツだ。
それが、俺の頭上で羽ばたいて飛んでいる。
その手には、ランタン。
「何で?」
「今、カードから出てきた」
委員長が呟いた。
「額に当てたカードから、煙みたいなのが出て来て、それが集まって形に成って……その子に成った」
そのフェアリー、いそいそとランタンをいじっている。
だが……明らかに不器用だ。
なかなか火が着かない。
片手でランタンを支えて、ガラスの筒の部分を持ち上げて、火を着けようとするのだが……着けようとすると、ガラスが落ちる。
見かねて、小さなランタンを摘まんで支えてやることにした。
フェアリーが小さくお辞儀をして、左手でガラスを持ち上げ、右手で火を突っ込む。
良く見れば、その右手の人差し指の先に火が浮いている。
まるで魔法の様に。
そして、ボワッと明かりが広がる。
そのランタンの取っ手の部分を両手で持ち、俺の頭上に翔び、頑張って静止している。
「で……誰?」
上を見上げて声を掛けた。
キョロキョロと辺りを見渡すフェアリー。
そして、ジッと委員長を見る。
「イヤ、違うから」
大袈裟に手を振り。
「あなたの事を聞いてると思うよ」
「私?」
そう答えて自身を指差した。
頷く俺と委員長。
このフェアリーっぽいモノは喋れる様だ。
自分で聞いたのだが、その事に少し驚いた。
だが、そのフェアリーっぽいモノは小さな首を傾けて唸っている。
何を考えているのか?
「あなたの名前は?」
委員長がそう訪ねるのだが。
俺としては、何者かを聞きたい。
種族? もしくは分類。
フェアリーで良いのだろうか。
「名前……って、なに?」
ランタンを掲げてわからないと言う。
「そう……無いのね」
冷静な委員長の受け答え。
「あなたを呼ぶときの記号みたいなモノよ」
冷静じゃないな、イラついているのだな。
「じゃ、これからはランプって呼ぶわよ」
目を細めて睨み。
「そう呼ばれたら自分の事だと思って返事をしてね」
「……はい」
威圧されたフェアリーっぽい……ランプちゃん?
「で……ランプちゃんに質問」
委員長が続けた。
「ここは何処? あなたは何者? カードってなに?」
続け様に聞くのだが、すべての答えに小首を傾げるだけのランプ。
そんな様子に。
「使えないわね」
吐き捨てた。
当たりが強い気がする。
コレが噂に聞く女子特有のマウンティングってヤツか?
って事は、このランプちゃんは女の子なのかな。
そういえば、白いワンピースの様な服を着ている。
「ランプちゃんは、得意な事は有る?」
俺は、委員長の様に高圧的には為らない、だから優しく聞いてみた。
そのランプちゃん、答える代わりに自分の持っているランタンを指差し頷いた。
「つまりは明かりだけの子なのね」
フンと鼻息を荒げる委員長。
「あなたの名前……提灯持ちにすれば良かったかしらね」
イヤイヤ、それは酷いと思うよ。
別の意味も着いてくるし。
と、見れば、ランプはわからないと言う顔のまま、しかし怒られているとは感じたのか俺の後ろに隠れようとする。
それを見た委員長が声を荒げて。
「あなたの仕事は明かりでしょ! もっと高くに飛んで照らしなさいよ」
「大丈夫だから、怖くないから」
「誰が怖いって?」
キッと睨まれた。
それに怯んだ俺とランプ。
その態度に溜め息一つの委員長。
「いいから……照らしてくれる?」
俺も頷いて、ランプを即した。
チラチラと委員長を気にしながらも、高くに上がるランプ。
そして、辺りが明かりで見え始めた。
ハッキリと見えても、ソコはやはり洞窟の中。
想像していたそのまま。
だが、少し想像と違うモノが見えた。
前方の地面に所々に見える、色とりどりの握りこぶしサイズの柔らかそうなグミの様な物体……それが這うように移動している。
「スライム?」
それにしか見えないと、呻いてしまった。
「私が踏んだのは……あれかしら」
委員長も、目を細めている。
「スライムです」
ランプが普通に答えてくれた。
「スライムって、知ってるんだ」
その事の方に驚いてしまった。
何を勘違いしのか、ランプが照れ笑い。
別に……誉めたわけでも無いのだが。