魔女
逃げ込んだそこは、今の俺達のサイズの廊下だった。
その先に、下へと続く階段が見える。
目的の地下だ。
「委員長にはまだ出会えてはいないが……進むしかないか」
「戻っても……探すよりも先に巨人に追い回されるだけだと思うぜ」
猫も頷いていた。
「取り敢えず、進むか」
肩を竦めて。
「委員長の事は後で考えよう」
「それがいい」
返事と共に歩き始めた。
階段は比較的に短いものだった。
あの一階からこのサイズでの事を考えるなら、地下室というよりも床下か? と、思われる。
体感的には一階層下なのだが、地下室で良いのだろうか?
そんな感じの扉に突き当たる。
他に道も無い。
ソッと開けて、覗き込む。
壁に吊るされたランタンのみの明かりの窓の無い小さな部屋。
その中央にはベッドが1つだけ、他は何もない。
そして、その前には1人? 1体? のスケルトンが立っていた。
こちらを見ている。
首には白い蛇腹の首巻き、食堂の暖炉の上に飾られた絵の中の男と同じものの様だ。
すわっと、パチンコを手に持ち直し。
猫も鎧君も剣を構えた。
しかし、そのスケルトンは溜め息と共に話始める。
「いい加減に静かにしてくれんのか?」
ベッドの前から動こうとはしない。
まるで守っているようだと……良くみてみればソコには人が寝ていた。
老婆だ。
身動きの出来ない、寝たきりの様にも見える。
生きているとかろうじて判別出来る、そんな感じだ。
「さっきの娘といい……騒がしいのは勘弁してくれ」
「さっきの娘?」
委員長もここに辿り着いたのか!
「今、何処に?」
「もう居ない……私の渡したカードでここを去った」
そう言って1枚のカードを差し出した。
「君もここから出ていってくれ」
チラリとスケルトンの後ろの老婆を見た。
「私の孫娘はもう永くは無いだろう」
そう答えて、ベットを覗く。
「今はもう寝たきりで……意識もろくに無い」
「しかし……」
この世界の魔物のボスなのだろう?
「私達は、君達には何もしていないではないか……配下のモノには、ただ君達をここに招待をするようには命じたが……」
ああ……確かに、思い返せばそうかも知れない。
近付いて来ただけっだような気もする。
見掛ければ、逃げるか……一方的に攻撃をするかだった。
「私は孫娘が最後の寿命をまっとうするのを見守りたいだけなのに」
ランタンの揺れる炎に照らされて優しそうに。
そして、骸骨に落ちる影が、どこかもの悲しそうな顔に見える。
俺は、差し出されたそのカードを貰う事にした。
魔物であっても肉親を……老婆であっても孫娘をと、その気持ちは胸に刺さる気がする。
黙って、手だけを差し出した。
謝る事は出来ない、魔物は倒すべきモノだと思う。
他に掛ける声もない、同情はしても……正義は俺達の方だと思う。
このカードの世界ではその筈だ。
チラリと俺を見た骸骨……だが。
カードを出す代わりに、大きな声を上げた。
「ああああああぁ」
その変化は俺にもわかった。
老婆が薄く、煙に成り始めている。
骸骨の叫びと、鳴き声とが混ざっての叫び……。
そして、見た。
今までピクリとも動かなかったその老婆が、手をほんの少しだけ動かしたのを。
そして、それは骸骨も見たのだろう、その手をソッと握ってやった。
最後の最後に、温かみと柔らかさが感じられたかどうかはわからない。
その瞬間に命が終わったようだ。
煙を掴む骸骨……。
死んでいる骸骨が、最後まで生きようとした孫娘に泪の1つも流せないのはとても悔しいのだろう。
最後はそんな叫びに聞こえた。
そして……誰も居なくなった。
骸骨もすぐに後を追うように煙に変わってしまった。
老婆が寝ていたベッドには、そこに生きていたと言う証の様に1枚のカードが残されていた。
そして、俺は終わりにすることにした。
黙って、静かにカードを額に当てた。




