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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅱ.雨宮奏、魔法少女になる
9/62

#8



 すらっと背の高い、長い銀髪の女の口元は黒いマスクで覆われ、中央に伸びる長い前髪で分断された両目は、右は赤、左はアメジストのような紫色をしている。

 全体的に謎に包まれた容姿だが、ローブとマスクの間からのぞく目元から、神秘的な美しさが滲み出ている。


 彼女の言う『それ』が、奏が手に持っている叡珠を指しているのは間違いない。


「何だてめぇ⋯⋯またアイツらのグルか?」


「私は野蛮な事はしない。ただそれらを求めているだけだ」


 女は表情一つ変えず、淡々とした口調で言った。


「だから、それを寄越せ」

 

 小さいながらも強い芯を持ったその声は、冷たい刃のごとく、夜の静謐な空気を切り裂く。


「はっ、どこの誰かもわからん奴に、大事なものをやすやすと渡す馬鹿がどこにいるってんだよ」


 ヤビイにそう言われてもなお、女は身じろぎひとつしない。


「教える筋合いは無い。私の邪魔になりかねない者に」


「あぁ? ケンカ売ってんのかてめぇ!」


「ちょっと、よしなよ」


 もしヤビイが人間だったら、きっと女の胸ぐらか首根っこを掴みながらキレていただろう。


 それでも女は精霊お構いなしに、奏に視線を移す。


「今日のところは諦めよう。そこの小さいのを怒らせすぎても面倒な気がしてならん」


 そして彼女はこちらに背を向けてから、言った。


「七つの叡珠を揃えるのは、私だ」


 彼女は結局名乗らないまま、ローブを翻して風のように去ってしまった。

 てめぇふざけんな、 精霊馬鹿にするんじゃねえ!と、怒りで我を忘れたヤビイを奏は何とか宥めすかす。


「何だろう、今の人⋯⋯?」


「忘れろあんな奴。どうせろくな奴じゃねえ」


 ヤビイは吐き捨てるように言った。

 本当にろくな奴じゃないのなら、叡珠を強奪するくらいは平気でするのでは、と奏は思ったが、何も言わないでおいた。

 恐らく彼女は、悪い人ではない。そう信じる事にした。




 家にたどり着き、仕事からすでに帰ってきていた親に、何処へ行っていたのかと聞かれたが、部活のミーティングが長引いた、と誤魔化しておいた。

 

 夕食、入浴を済ませ、部屋で一段落着くまでの間、あの黒いローブの女の姿が奏の頭から離れることはなかった。

 ミステリアスな美しさに惹かれていたのもあったかもしれないが、何よりも引っかかったのは、彼女も奏達と同様、七つの叡珠を求めていると言っていたことだ。

 それに彼女も変身した奏同様、片手に武器を持っていた。

 

 彼女もまた、魔法少女なのだろうか?


 気になることは色々あったが、今の奏に真相を知る術はなかった。

 いずれわかる日が来るだろう。




「いやあ、本っ当によかったぜ」


奏がスクールバッグに明日の荷物を入れていると、ヤビイがつぶやくように言った。


「ん、何が?」


 奏が振り向く。


「お前が生き延びて、本当によかったよ」


 ヤビイの言葉には、どこか不穏な空気が漂っていた。


「そんな、大げさだよー。確かに苦戦はしたけど、そんなに心配しなくていいってば」


「攻撃の当たり所によっちゃ、ただ事じゃすまなかったからな。変身してる状態で叡珠を破壊されたら即死だ、って完全に言いそびれてたよ」


 奏の表情が、一瞬にして青ざめた。


「今なんて言った⁉」


 即死。即ち死す。

 ヤビイがさらりととんでもなく恐ろしい言葉を発したのを、奏は聞き逃さなかった。


「どういう事なの!」


 と、奏は水色の光にずいっと迫る。

 分かった、説明するよ、とヤビイは委縮しながら言った。


「変身している間は、胸に着いている叡珠から流れる魔力が奏の肉体と完全に融合する。つまり魔法少女としてのお前にとって、魔力が血となり叡珠が心臓になるわけで、それが破壊されれば、もちろん魔法少女としてのお前はアウト、その反動で人間としての機能も⋯⋯って訳だ」


「二度と変身できなくなる、じゃ済まないの……?」


「ああ。何しろ衝撃が大きすぎる」


 もし、これまでの戦闘で敵の攻撃の当たり所が悪かったら、と考え、奏はゾッとした。


「何で最初に言わないのよ⋯⋯。何が『おいおい説明する』よ⋯⋯!」


「悪かったって。まあでも、叡珠もそんなに脆い訳じゃないし、怪物の攻撃一つや二つじゃ割れやしないぜ。ダイヤモンドよりちょっぴり軟らかいくらいだ」


「何そのふわっとした強度設定⋯⋯。第一ダイヤモンドも余裕で砕く怪物だっていつ現れるか分からないでしょ?」


 両手で顔を覆い、もうやだよー、と奏は今にも泣きだしそうである。確かに、現実的にありえないはずの現象が実際に起きている時点で、世界一硬いとされる物質すらいとも容易く砕いてしまうものが現れても、なんらおかしくはないのだ。


「大丈夫だって。いざと言う時もお前を護る為に、俺が傍にいる訳だし」


「だいたい能力があっても、その体でどうやって守れるの!」


「んなっ⋯⋯」


 核心を突いた彼女の言葉がグサッと刺さり、続いてローブの女に『そこの小さいの』呼ばわりされたことまで思い出し、ヤビイはとうとう我慢が出来なくなったのか、


「じゃあ、じゃあ言うぞ! 本当はもっと後になってから言うつもりだったけどな!」


 と突然切り出した。

 奏が驚いて顔を上げると、ヤビイは一呼吸置き、言った。



「これは本当の俺じゃない。あくまで仮の姿だ」


 水色の宙に浮く球体は、堂々と言った。どこを向いているかは判別できないが、ヤビイはほぼ間違いなく、奏を真っすぐに向いていた。



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