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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅴ.もう一人の魔法少女
53/62

#52

 



 ――ふざけるな……!


 巨大な影は、怒りに震えている。


 ――僕がお前のために生まれてきただと……?


 この時になってようやく聞かされた、自身のルーツ。

 それをようやく聞かされて得られたのは、生みの親に対する不信感だった。


「あなたは本当に、よく機能してくれました」


 そう言うと同時に、巨大な影から伸びた腕が青年の身体を捕らえた。

 だが、それは動作主の意思によるものではない。


 ――何をする!


「言ったでしょう? 今の私は、あなたをわがものにしたいと……」


 ――冗談じゃない……。


 だが、影がどんなに抵抗しようとも、その腕から青年の身が離れることはない。



 キールは糸を引くように右手を動かし、自ら巨大な影に接近する。


 ――僕は……僕の自我はどうなる?


「聞くまでもないことでしょう」


 と、キールは涼しい顔で言った。


 冗談じゃない……。

 影は青年を解放しようと試みる。


 が、それはどうあがいても果たせなかった。

 己の意志とは反対に、腕は青年を強く縛り付ける。


「私に抵抗できるとでも?」


 ――そんな馬鹿な……。


「この闇の魔力も、元は私が分け与えたもの……。肉体があやふやになり、いまや魔力の塊と化したあなたを操るなど、容易いことですよ……」


 影は自分の意思とは関係なく、腕を自在に操られている。

 大いなる影に引きずり込まれる、白髪の青年。


 ――ああ、キール!

 お前はどこまで身勝手で、残酷な男なんだ!


 影は魔力を操られながら、声なき声でそう叫ぶ。


「……ククク、何とでも……何とでも言いなさい!」


 キールの声はすっかり狂気に震えている。


 糸を引くように右手を動かし、意のままに、自分の身体をきつく包み込む。


 闇。漆黒の闇。無限の闇。

 ほとばしる快楽と少しの畏怖に、身震いする。

 今まで感じたことのない、恐ろしいほどの刺激。


 クククク。

 紳士の皮が剥がれた青年の不気味な笑い。


「必ずや、この星を闇に葬り去りましょう」


 あとわずかで、青年の身体は取り込まれる。

 影に為す術はなく、ただ、時間の経過を待つことしかなかった。


 かつてノイジアという名を持っていた影は、自らの意思とは反対に、その手で青年を中に取り込もうとしている。


「嗚呼、いよいよ……いよいよ果たされるッッ‼」


 堪らない表情で、キールは声高らかに言った。


「この闇が私のものに、っ……!」


 青年の肉体が、巨大な闇に触れた。


 この……!


 自らの生みの親に意思を乗っ取られかけている影は、最後に叫んだ。


 この人でなし男がぁぁああああああああああああああああ――!



「ッはははははははハハハハハハハハハハハハハハハハ――‼」


 理性は音を立てて砕け散った。

『穏やかな青年』を装っていた仮面はとうに割れていた。


「ああ、嗚呼……。かつてここまで幸せな瞬間があっただろうか……。ここまで満足したことがあっただろうか……」


 キールは感慨深そうに両手で顔を覆い、黒い魔力の蠢く天井を仰いだ。


「これであなたは私のもの……!」


 そして影は、さらなる進化を遂げることとなった。


 キールという、人格を持った影がそこに加わった分、魔力はより膨張し、さらなる混沌の怪物へと変化してゆく。


 さらに、青年の高笑いに呼び寄せられたかのように、今や生みの親にすら忘れ去られた、連なる繭に眠っていた飛行生物たちが、次々とそこへ飛び込んだ。


 新たな世界での再会をキールと交わした、シャドーラの魔力を吸い上げた怪物たち。

 彼らが加わり、巨大な魔力の集合体は、黒い風を起こしながら、天井を突き破って天高く浮上した。




 終末へのカウントダウンが始まった。



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