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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅴ.もう一人の魔法少女
50/62

#49

 



「気をつけろ、カノン」


「ええ、分かってる」


 黒いローブを纏う少女が仰ぎ見る先。

 そこには、高さ数メートルに及ぶ長髪の影が、大鎌を持って地上の者たちを見下ろしていた。


 紅い瞳が、影の中で妖しく光る。



「計画が狂わされたのは不本意だけど、叡珠の気配を感じるのなら、やるしかないよね……」


 巨大な影は蛇のような髪をうねらせながら、既に小さな二人の戦士を相手にしていた。


「魔法少女たちを倒すのは、一旦お預けだね」


 白昼堂々起きた異様な光景に、人々はおののき、中にはもの珍しさで小型の端末でフラッシュを焚く者もいる。


「行くよ!」


「ああ、確実にやれ」


 ローブを纏った華音は高く跳躍し、戦闘用の姿に切り替わる。

 銀色の髪をなびかせ、黒い槍を構えた。


 黒いロングブーツで、空中でステップを踏む。


 それに合わせ、紫に光る魔法陣が、足場となって現れる。


 華音が標的に接近した時、影はサイドテールの少女に向かって大鎌を振り上げていた。



 ――「はぁあッ‼」


 槍は勢いよく風を切り、影に向かって無数の炎を放つ。


 影は一瞬怯み、動きを止めた。


 二人の戦士が華音に気づいた。



「テメエも来たのか……」


 と、半ば不機嫌そうな水色の髪の戦士。


「せいぜい俺らの助太刀に来たってか?」


 ヤビイが話す傍ら、相棒の少女は反撃に出た。


「あんたたちを助けたわけじゃない。そこら辺は勘違いしないで」


 と、華音は真っ向から否定する。


 するとヤビイは顔をしかめ、引き気味に言った。


「おい、口調どうしたんだよ……。なんか声も変だぞ?」


 素直に事情を説明するのは、何となく(しゃく)だった。


「今は関係ないでしょう」


 と、華音はため息交じりに言った。


「ああそうだな! こんな緊急事態に呑気に立ち話してる場合じゃねえもんな!」


 ヤビイはそう言いながら、その場から素早く回避した。


 泥のような真っ黒な魔力の塊が、ヤビイのいた場所に真っすぐ落ちてきた。


 その直後に華音のもとにも魔法攻撃が落ち、彼女も素早く回避した。


 気を取り直し、槍を構える。


「ともかく、あの厄介な奴が落ち着くまでは……」


 ヤビイは次に紡ぐ言葉を慎重に選んだ。


「せいぜい、そのまま戦っててくれよな」


 と、ヤビイは吐き捨てるように言った。


「……あんたに言われなくても!」


 黒い槍の先に、紫色の炎が燃え上がる。


「それくらい分かるっての!」


 ヤビイが攻撃を引き付ける隙に、空中から槍を振りかぶり、燃え盛る槍の先端を押し当てる。


「私は私で、戦わなきゃいけない理由があるんだから……!」


 華音の紫色の瞳の中で、炎が音もなく揺らめく。



 炎はいずれ、過去の記録をもろとも焼き尽くすだろう。

 私から何もかもを奪った、あの遠い日の悲劇も。

 そして結果的に最愛の弟を失った、私自身の過ちも――。


 そんな彼女の強い思いが、さらに威力を増幅させる。


 万能の七つの石を再び集結させれば、過去の出来事を望む地点まで焼却できる。

 そして、私の望む世界をそこに上書きできる――。


 黒い影が振り向き、今度は攻撃の的を華音に切り替えた。


「来るぞ」


 と、レイが彼女の中から警告した。


 華音は急いで槍を離し、後ろに引いた。

 その直後、華音の目の前で殺意を纏った大鎌の切っ先が、鋭く空を切った。


 刃を回避した華音は冷や汗をかいた。


 が、安心したのも束の間。

 巨大な刃を覆っていた魔力は文字通り、弧を描いていて、それはまだ彼女の前に横たわっていた。


 嫌な予感が彼女の脳裏をかすめたと同時に、暗色の魔力が一斉に爆発した。



「ぁああっ!」


 華音は爆破攻撃を喰らい、大きく吹き飛ばされた。


 すかさず体制を立て直し、反撃に出ようとするも、大鎌は続けて華音に向かって飛んできた。

 槍を構え、防御技を出そうとしたその時。



 ――「『パレスウォール』!」


 サイドテールの少女・奏が間に入り込み、強力な防御技を繰り出した。


 華音は透き通った城壁によって、斬撃から守られた。


 防御技が間に合った奏は、安堵のため息をついた。


「……どうして?」


 華音は小声で言った。


「助けに来たわけじゃないって言ってるのに……」


 華音は追撃を免れて安心した反面、自分の敵でもある者から助けられた悔しさもあった。


「それに私は、あんたにとって……」


「わかってるよ」


 奏は俯きがちに言った。


「あなたが何を望んでるかは聞いたし、私はそれには賛同しない……」


 奏ははっきりとそう言いながら、白いステッキからバリアを張っている。


「けど、今は目的がお互い一致してるでしょう?」


 奏は真っすぐに顔をあげた。


「最終的に望むものは違っても、共通の敵と戦っているなら助けたっていいはず……。少なくとも、私だったらそうするよ」


 奏はそう言うと、真っすぐに向けていたステッキを構え直し、横一文字に切り裂くように振り払った。


 ピンク色の魔力が軌道を描き、その中から魔法陣が次々と花開くように出現した。



「『キャノン』!」


 奏は力強く詠唱した。

 すると、それぞれの魔法陣から砲撃が勢いよく飛び、城壁もろとも影に向かって吹き飛んだ。


 華音は一瞬、自分の名を知らない筈の彼女に呼ばれている気がしてドキリとした。


 影は声もなく怯み、両腕で顔を覆った。


 奏はそれを目視すると、ゆっくりと華音のほうを向いた。



「今は、あれを倒すのが最優先だから……」


 奏は華音に信頼を寄せるでもなく、また軽蔑するでもないような、複雑そうな表情を浮かべていた。


 華音が返す言葉を探しているうちに、奏は自分の持ち場に戻った。



「不本意ながら助けられちゃった……」


 華音は呆然としたように呟いた。


「ぼんやりしている場合じゃないぞ」


 レイは平坦な声で言った。


「……分かってるよ」


 華音は一瞬赤面しながら言った。

 槍を構え直し、高く跳躍する。


「私は決して心変わりはしない。だから恩を返したりはしないし、同じ分だけ他の誰かを守ったりはしない……!」


 次々飛んでくる魔法攻撃を華麗にかわす。


「ただ、己のために戦うのみ!」


 大きく振り上げた槍の先端で、紫色の炎が燃え上がった。


「はあッ!」


 突き刺すように、燃え盛る槍の先端を影に強く押し当てる。


「七つの叡珠は、誰にも揃えさせない――‼」


 炎がさらに強く、わっと燃え上がる。


「今までの不幸を焼き尽くし、全てを取り戻すために!」


 その時、華音の胸に飾られた、紫色のひし形の石が強く光り出した。

 妖しい光は華音の強い気持ちに反応し、彼女に必殺技の使用を許可した。



「『闇の炎はあらゆるものを焼却し、やがて死をも覆さん』――」


 巨大な黒い翼が、華音の背中から大きく広がる。

 烏の翼は勇ましく羽音を立て、あちらこちらに羽を散らした。


 舞い散る羽の中で華音は身を引き、天高く掲げた槍に炎を纏わせた。


「『クロウファイア』!」


 華音は詠唱と共に、燃え盛る槍を真っすぐ投げ、影を刺し穿(うが)つ。


 影は闇の炎に拘束され、身動きが取れなくなった。


 為す術もない影を背に、華音は華麗に着地する。



「――『バーンアウト』」


 華音が目を伏せてフィニッシュを決めると、火柱がわっと天に伸びた。

 影は灼熱の渦に耐え凌ぎ、己を消滅させまいと必死に身を固めている。



 やがて影は蒸発したように、静かに姿を消した。


 火柱が収まり、それと共に戦闘は収まった。



「逃げたな」


 と、レイは落ち着き払った様子で言った。

 彼女が敵の逃亡に気づいたのは、そこにあるはずの叡珠を落とさなかったからだ。


「……倒しそこねたね」


 華音は悔しさを露わにして言った。

 が、彼女はすぐに照準をすぐに切り替えた。


 光の魔法少女と、その力の源と一対の精霊である剣士。


「けど、私が倒すべき相手は他にもいる……」


 二人は華音の鋭い視線に気づき、身構えた。




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