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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅱ.雨宮奏、魔法少女になる
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#4




「で、私はこれで魔法少女としての役目を全うし⋯⋯」


「んなわけあるかい!」


「ですよねー」


 先程は石の光に惑わされたとはいえ、街を脅かすほど壮大なスケールの怪物を倒すという大役を、この自分があっさり引き受けてしまって大丈夫なのだろうかと、改めて不安になる。


「ああ、言い忘れてたな。俺の名前はヤビイ。人魂じゃなくて精霊だ」


「まだ引きずってたのね⋯⋯」


 乱暴な口調の割に案外可愛らしく、精霊らしい雰囲気の名前だ。


「お前の使命は、今みたいに悪を倒す事ともう一つ。『叡珠』と呼ばれる七つの石を集める事だ」


 『叡珠』――それは膨大な量の魔力を宿した不思議な宝玉の事で、全て揃えると、どんな願いも叶うという。


「なんか、ファンタジー系の物語で結構ありがち……」


「そしてお前が変身に使ったやつも同じ『叡珠』だが、それはちょっとばかし特殊で、七つのうちには入らない」


 奏がわざと大きく言った独り言は、(おそらく意図的に)あっさりスルーされてしまった。


「手がかりはあるの?」


「恐らく、七つのうちほとんどは、奴らの手に回ってる筈だ。ハッキリとした在処は分からないが、まあ、その辺は奴らと戦っていくうちにわかるだろ」


 人に大きな使命を与えておいて、そんなアバウトで大丈夫なのか、と少し呆れた奏は、はあ、とため息をもらす。


「⋯⋯という訳で、これから当分の間世話になるぜ」


「え、まさか私の家に居候するつもり?」


「そりゃそうだ。敵が出没したらすぐ伝えられるし、世界平和の為に戦う、偉大なる戦士を護衛する役目も俺にはあるからな」


 精霊は得意げに言う。


「何か嫌味っぽい⋯⋯」


「そんな事はないぞ。んじゃ、改めて宜しくなっ!」


 そんな訳で、新生魔法少女・雨宮奏と、護衛気取りの謎の精霊・ヤビイの同居生活が幕を開けた。

 奏は水色の光を従え、家路についた。



*******



 時計のアラーム音で意識が戻り、目を閉じたまま体を少しだけ起こし、手探りで音を止める。

 脳が半分眠ったまま、再びベッドにだらしなく倒れ込む。


 どうして急に、魔法少女に変身する夢など見たのだろうか。朝になれば内容をほとんど忘れてしまうような普段の夢とは違い、妙にリアルで印象的だった。

 両手にも、怪物を倒したときに使用した白いステッキの感触がかすかに残っている。


 心の何処かで、平凡で退屈な日常を抜け出して、何かあっと驚くような不思議な体験をしたい、という願望を心の何処かで抱いているのかもしれない。実際は、平凡ではあれど特に退屈とは感じておらず、日常生活に大きな不満も無いのだが。

 今日は何曜日だったかと、靄のかかった頭で思い出そうとした時、


「――おい、遅刻するぞ」


 家族のものとは違った、聞き慣れない声。

 体の上に何となく重みを感じ、そちらに手をやる。モフモフとした、クッションのように柔らかい感触だった。

 

 

 重い瞼を開けるとそこには、窓際にあるはずの熊のぬいぐるみが、奏の顔を覗き込んでいた。

 冷たい水を顔にかけられたように、一気に目が覚めた。


「ひいっ⋯⋯」


 肩をビクリと震わせ、慌てて布団を被った。

 これは夢だ。目が覚めたと思ったらこれもまた夢でした、というよくある展開に違いない。現実世界でこんな怪奇現象が起きてたまるか。


 すると奏は、はたと思い出す。

 夢で私を魔法少女に任命した、あの水色の精霊の声と同じだ、と。


 

 ――やはりあの出来事は、本当に起きたということになるのか。

 いやいや、まさか。


 ぬいぐるみが布団をめくり、奏の頬をぺしぺしと叩く。


「ちょっと、何するの!」


「つねられるのとどっちがマシだ?」


 この精霊、ひょっとしたらSなのかもしれない。

 どうやら全ては現実だったようだ。にわかには信じがたいが、奏はそう確信した。

 つまり私は本当に魔法少女に――。


「ってやめれー!」


 奏はガバリと起き上がり、ぬいぐるみはコロンと後ろに転倒した。


「いやー、これが結構居心地良くてさ。気に入っちまったぜ」


「気味が悪いからダメっ」


 奏は手でバッテンを作りながら言った。長年部屋に飾っている、割りと気に入っているぬいぐるみが動いて喋り、更に虐げられるのは、精神的にもかなり複雑なものがある。


「ちぇー」


 ヤビイはふてぶてしく憑依を解き、元の水色の光に戻った。

 寝起きドッキリのような怪奇現象のお陰ですっかり目が覚めた奏は、朝食が用意されたリビングへと向かった。

 

 部屋を出る前、ふと机の上に目をやると、そこには確かに、ピンク色に光る楕円形の宝玉がぽつんと置かれていた。


 

 彼女がドアを閉め、部屋の中はシーンと静まり返った。


「……魔力の担い手、早速見つけたぞ」


 水色の光る球体は、ぽつりとそう呟いた。



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