表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅳ.加速する闇
44/62

#43

 




 少年の闇の魔力は、冷たい身体の中で激しく渦巻いていた。

 それは火山のマグマのように、また嵐の海のように激しくうねり、自らを覆う身体(うつわ)すらも突き破ろうとしていた。


「おらぁっ!」


 少年は内なる魔力を出し惜しみすることなく、鎌を振り続ける。


 二人は別々の方向に飛び、回避する。


「『プラズマスラッシュ』!」


 ヤビイの華麗な斬撃。

 黒い外套が翻り、攻撃は避けられた。


 その隙に、奏の攻撃魔法。


「『フラッシュ・アローズ』!」


 無数の光が魔法陣から放たれる。

 またしても少年は、攻撃をひらりとかわす。


「クソッ、余裕かましやがって……」


 戦況は明らかに少年がリードしていた。

 ヤビイも奏もなかなか攻撃が当たらず、また、範囲の広い攻撃に耐えるので手一杯だった。


「言ってるでしょう? 君たちをここで潰すって……」


 少年は煽るような口調で言った。

 だが彼は口先だけでなく、本気で光の戦士たちを戦闘不能にしてしまいそうな勢いだ。


 一対の紅い瞳が、カッと光る。


「君たちはここで終わりだよ‼」


 ノイジアが鎌を振り上げた瞬間、彼を覆うオーラが、一瞬だけ爆発するように燃え上がった。


 奏とヤビイは、最大級の攻撃が来る、と身構えた。



 ――だが、巨大な刃は飛んでこなかった。


「う、っ……!」


 少年は大鎌を振り下す寸前、地面にうずくまった。

 苦しそうに胸元を抑えている。


「何が起きてるの……?」


 奏は眉をひそめる。


「あの感じ、魔力切れを起こしたわけじゃなさそうだな……」


 彼はまだ、どす黒い魔力を纏っている。


 ヤビイは奏を制しながら後ずさりする。


 再び、黒い魔力が爆発した。



「むしろ逆だ!」


「じゃあ、つまり……」


 奏は息をのむ。


「ああ。……あいつはさらに暴走しようとしてる!」


 ヤビイがそう言うと同時に、少年はゆっくりと動きを見せた。


「……ぅぅうッ……!」


 地を睨む紅い瞳は、より凶暴さを増していた。


「逃げろ、奏!」


 ヤビイは叫ぶように言った。


「ヤビイも‼」


 奏は高く跳躍しながら、咄嗟に剣士の手を引く。




 ――「ぁあああァアアアァッ‼」


 暴走した影は咆哮(ほうこう)しながら、天を切り裂くように、空中の二人に襲い掛かった。


「ぁあっ!」


「っ……!」


 二人は回避できず、地面に突き落とされた。


「ァア、あアァあぁああ――!」


 暴走状態の少年は鎌を振り上げ、追い打ちをかけた。


 ――かに思えた。


「ァアアッ‼」


 大きな弧を描いた鎌は照準を定めず、全く見当違いの場所を空振りした。

 打ち付けられた地面が、大きく揺れる。


「あいつ……!」


「ゥウッ……!」


 少年はまたも標的を見ず、黒いオーラを纏う大鎌を振った。

 不死身の少年は完全に正気を失ったように、凶暴な魔力を振り撒き続ける。


「あいつ、自分で制御できない状態になってるぞ!」


 少年の闇の魔力は、彼の理性を喰らい尽くし、宿主を獣同然の状態にした。

 巨大な刃を振りかざしながら、空間を暴れ続ける。


「ァアッ‼」


 轟音とともに砕け散る、岩の破片。


「……ッ、ゥウッ……!」


 艶やかな髪を振り乱しながら、少年はまた胸元を抑えた。

 闇に支配される彼は苦しみに喘ぎながら、うずくまっている。


「あんな状態になりやがって……。アイツ、このまま破滅する気かよ!」


「ずっと、あのままなのかな……」


「奏?」


 ヤビイは奏の言葉に引っかかり、視線を寄越した。


「どういう意味だ?」


「あのね、ヤビイ」


 奏は、以前聞かされたノイジアの性質について話した。

 彼が不死身なのが本当なら、彼は永遠に苦しみ続けなきゃいけないのか、と思いながら。



「何だって……? だったらアイツは……」


 ヤビイが真っ先に考えたことは、奏と同じだった。

 どんなに毒を注がれようが、どんなにボロボロになろうが、ノイジアという少年は死なない。


 そんな彼は今、自分で制御できないほどの力に苦しんでいる。

 少年は闇の中で歯を食いしばり、息を荒げている。


「このままじゃ、ノイジアも私たちも危険だよね……。私、止めてみるよ!」


「ああ、ありがとよ!」


 奏は暴走状態の少年にステッキを向け、巨大な魔法陣を浮かび上がらせていた。


「あんなモン見せられたら、こっちまで息が詰まっちまうよ……」


 奏は力強く頷いた。


 少年を支配する魔力を、少しでも和らげられたら。

 そんな思いで、彼女は強い攻撃魔法を発動する。



 ――「『エコーズショット・フルバースト』!」


 強烈な攻撃魔法が放たれ、その反動で彼女は後ろに押された。


 少年の紅い瞳が、奏の魔法に気づいた。


「……ッ!」


 黒いオーラを纏う白い手が、淡い光の砲撃を軽々と跳ねのけた。


 光の残響は、暴走状態の彼には届かなかった。



「そんな……」


「クソッ、だめか!」


 少年がさっと立ち上がり、とうとう反撃に出た。


 少年は大鎌を振り上げながら、逃げる二人に捨て身で飛びかかった。


「ァアアああぁあっ‼」


 慟哭にも似た雄たけびを上げて、鎌を薙ぎ払う。


 二人はどうにか回避し、刃は空を切った。


「クソッ、どうすりゃいいんだよ!」


 このままでは、奏もヤビイも身が持たない。

 かといって、戦線を離脱しようにもその術がない。


 万事休すか。

 二人が同時にそう思った矢先。

 


「――ぁあ、ああああぁ……!」


 突然、少年の咆哮が弱まった。


「なんだ……?」


 奏とヤビイは足を止め、振り向く。


「っ……⁉」


 目を丸くした奏の視線の先。


 そこには、大鎌を手放した少年が地面に倒れていた。

 少年が起き上がる気配はない。




 ――「ここで暴走されると、面倒なのでね」


 その背後には、黒いロングコートを羽織った青年――キールが、指をピストル状にして立っていた。


「テメエ、どうしてここに……」


「決してあなたたちを助けたわけではないので、どうか勘違いなさらずに」


 キールは黒い手袋をはめながら淡々と言った。


「さぞ長期戦になったことでしょうし、今日はここまでにしておきなさい」


「今日は」という部分を強調するように言いながら、キールは指を鳴らして結界を消した。


 死闘を予感させた戦いは予想外の展開に終わり、二人は無事ではいたものの、後味の悪さを覚えながら戦場を後にした。



 *******



 奏は結界に入る前のことを思い出し、友人と別れた――友人にもう一つの姿を見せた場所へと移動した。



 だが、日はすっかり暮れていて、友人たちの姿もなかった。


「やっぱりいないか……」


 すると奏は、ここであることに気づき、背中に冷や汗が流れた。



「ヤビイ、私必殺技撃ってない……」


「……あ!」


 ヤビイも今まで気づいていなかった。


 というより、あまりに予想外な展開が立て続けに起き、そのことをすっかり忘れていたのだ。


「ってことはみんな、私のあの姿、覚えてるってことだよね……」


 ヤビイも眉をひそめた。


「……ああ」


 奏は、友人たちとの今後が心配になった。


 本来ならありえない姿を突然見せられ、皆はどう思ったか。

 不気味がられたり、信頼を失ったりはしていないだろうか。


 コンクールお疲れ様、と家族に労われても、奏はそんな不安に襲われっぱなしだった。


「(なんて言えばいいんだろう……)」


 夕食を終えて自室で携帯を開くと、無料通話アプリ『CONNECT(コネクト)』の通知が届いていた。


 アプリを開くと、吹奏楽部に再入部すると言っていた友人・冨上稜が、今日集まった五人のグループを作成していて、こんなメッセージを送っていた。


『明日、アイス食いに行かね?』

『俺がおごるからさ!』


 彼は決して、奏を仲間外れにはしなかった。

 メンバーのうち、麗音が既に返信し、彼は行く気満々だった。


 奏が返信を打っている間に雅斗も了承していた。


 少しためらいつつも奏も返信し、その数分後に泉美からのメッセージも届いた。

 幸い、五人全員の都合が合い、明日集まることが確定した。


 彼らの中で、今日の彼女のことは誰も責めなかったし、話題にもしなかった。



 後日、五人はコンビニで各々好きなアイスを選び、約束通り稜が全て支払った。


「トガミン、太っ腹ー!」


 と麗音がはやしたてるように言った。


「へへっ。まあなー」


 言われた本人は満更でもない笑みを浮かべた。


 五人は近くの公園で場所を見つけ、そこに座って食べた。


 雑談をかわし、ある程度話題が尽きたところで、奏は切り出した。



「……昨日のこと、なんだけどさ」


 奏は俯きがちに言うと、四人は不思議そうな顔をした。


「昨日のことって……」


 が、四人はそのことを忘れているわけではなかった。


「ああ、あれか!」


 稜はポンと手を叩いた。


「うん。いきなりあんな姿見せられて、みんな怒ってるかなって……」


「はぁ?」


 最初に口を開いたのは麗音だった。


「怒ってるわけねーだろ。あの変な怪物から俺達を守ってくれたってのに。なあ、泉美?」


「そうよ。確かに急に姿が変わったのはびっくりしたけど、私たちを守ってくれたのは事実だもの」


 うんうん、と、雅斗も頷く。


「ていうか俺、未だにあれ夢だと思ってるし」と、稜。


「みんな……」


 それもそうなんだけど、実は前から私は魔法少女で、みんなにずっと隠してたの。

 奏はそういいかけたが、やめた。


 言ってしまうと、孤独感を覚えながら一人で戦っていた、未熟だった頃の自分を引きずり出してしまうから。



 今の彼女は真に覚醒したし、共に戦う仲間だっている。

 人々の見えないところで悪と戦う魔法少女として、誇りを持てる。


「私のこと、他のみんなに黙っててほしいな」


 四人の答えは、当然イエスだった。

 決して上辺などではなく、心から、大切な友人の大切な秘密を絶対に守ると、そこにいる全員が誓った。


「トガミン、うっかり話すんじゃないぞ?」


 と、雅斗がくぎを刺すように言った。


「何で俺なんだよ⁉」


 他のみんなが一斉に笑い出し、あたりは温かい空気に包まれた。


「ありがとう、みんな」


 奏はそう言いながら、魔法少女の自分にさらなる波乱が訪れると、漠然と予感していた。

 本当の嵐はこれからやってくる。と。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ