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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅳ.加速する闇
43/62

#42

 



 闇に覆われていた少女の身体が、宙に浮いて激しく光った。


 死闘を繰り広げていた剣士と少年は、同時にそちらを見、少女の復活の時を目に焼き付けていた。


 霧が晴れるように、少女に纏わりついていた闇が消えてゆく。


 胸に飾られた石から光の魔力が湧き出し、(けが)れが払われるように、黒い衣装が徐々に淡いピンク色に変化した。


 燃え尽きた灰の色をした髪も、きらびやかな金色に戻ってゆく。


 しおれていた花が光を浴びて、再び華やかさを取り戻すように、少女は闇から完全に復活した。


 激しい光が止み、浄化された少女は目を覚ました。



「あれ、私……」


 奏は静かに地に足を着けた。


 精神世界での記憶はおぼろげで、奏はしばらくきょとんとした様子だった。


「私今まで……」


「奏!」


 ヤビイは彼女に駆け寄る。


「わ、っ!」


「よかった……。本当によかったよ奏……」



 ヤビイは感極まり、思わず彼女に正面から抱き着いた。


「え、何? 何かあったの……?」


「……危うくマズいことになるところだったよ」


 ヤビイは彼女にショックを与えないよう、婉曲(えんきょく)な表現でそう言った。


 その声はいつもよりくぐもっていて、ひどく落ち着いていた。


「ヤビイ……?」


 奏は不思議そうに、ヤビイの顔を見上げる。

 ヤビイは顔を背けながら抱擁を解き、嬉しさと安堵感で溢れ出たものを必死に隠した。


「……あんまり俺の顔見るな」


 精悍な光の剣士は、決して涙は見せない。

 ヤビイは手の甲で目元を拭うと、軽く咳払いした。



「……何でだよ」


 少年の不機嫌を露わにした声が、喜びに包まれた空気を叩き割った。

 真っ黒なオーラが、燃え盛る炎のように彼を包んでいる。


「……何で、そうなるんだよ。あと一歩だったのに!」


 ヤビイは警戒する。

 厄介なものが来るぞ、と。



「そんなの一言も聞いてないんだけど!」


 少年は喚くように言った。


「……もういい」


 ノイジアは後ろ手に、巨大な細いシルエットを顕現させる。


 白い手がそれをがっちりと掴むと、その正体が明らかになった。


「あれは……?」


 巨大な鎌だ。

 長い柄の先端に鋭く重厚な刃を持ち、一振りでかなりの範囲に斬撃が当たる。


 それを持った少年は、魔王でもあり、また死神でもあった。


「お前ら、まとめて潰してやる!」


 憎しみに満ちた声で言いながら、鎌が振られた。


「危ない!」


 ヤビイは急いで、奏をかばいながら回避する。


 それでも鎌は、首を狩るかのごとく光の戦士たちを追い続ける。


「消えろ!」


 紅い瞳がギラリと睨む。

 奏は振り向き、白いステッキを向けながら詠唱した。


「『パレスウォール』!」


 城壁をかたどったバリアが現れた。

 透き通っていながらも強度の高い、奏の防御魔法。


 が、ノイジアは構わず大鎌を振り下ろす。


(もろ)いんだよ!」


 バリアはあっさりと破られ、透明な破片が空間に散らばった。


「だああもう!寄越すモン寄越したんだからとっとと帰せよ!」


「黙れッ!」


 ヤビイは煌めく剣を構え、少年の鎌に対抗した。


「黙んねーよ!」


 刃の切っ先がぶつかり合い、ガチャンと鋭い音を鳴らした。


「ヤビイ!」


 刃がひっきりなしにぶつかり合う中、奏が不安そうに叫ぶ。


「なに、俺なら心配いらねえよ!」


 剣士は隙を見つけ、一歩引いた。

 剣が振り上げられてから技が繰り出されるまで、ほんの僅か。


 精霊の剣は刹那、魔力によって攻撃範囲が大幅に広がった。


 ――「精霊、ナメんなよ!」


 ダイナミックな斬撃。

 水色の光で拡張された巨大な刃は、かすかに少年に当たった。


「チッ……!」


 少年はすぐさま体制を立て直し、再び大鎌を構えた。


「僕に勝てると思うな!」


 鎌が振られ、闇の衝撃波が音速で空中を走る。


「がは、っ!」


 ヤビイはよけきれず、地面に崩れ落ちる。

 起き上がりながら武器を再び構えるヤビイに、襲い掛かる黒い影。


「滅べ!」


 追い打ちをかけるように、ノイジアが鎌を振り上げた瞬間。



 ――「『エコーズショット』!」


 光の砲撃が当たり、少年は怯んだ。


「奏……」


「ヤビイが戦うなら、私も戦う!」


 と、奏はヤビイの傍へ移動しながら凛々しく言った。


「相手がとても強いのは分かる……。けど、私だけが逃げているわけにはいかないよ」


 奏が白いステッキを構えながらそう言うと、ヤビイは嬉しそうに、目を伏せて微笑んだ。

 やっぱり、お前を魔法少女に選んだ俺は間違っていなかった。と。


「ああ……。お前はすっかり一人前の魔法少女だ」


 ヤビイは奏の隣で、剣を構える。


「本気でぶつかるぞ、奏!」


「うん!」


 二人は肩を並べ、凛々しい瞳で、目の前の強敵を真っすぐに見た。


 華麗なる光の魔法少女と、煌めく光の剣士。

 それぞれの淡いピンク色と水色のオーラは、今まで以上に輝かしく、神々しく。

 


「お前らまとめて潰してやるよ……!」


 そんな彼女らを前に、大鎌の悪魔は、より闇のオーラを増す。


 これが今までの中で一番の死闘になるだろう。

 この時の光の戦士たちは、そう確信していた。





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