表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅳ.加速する闇
42/62

#41

 



 おぼろげな意識の中、奏は暗闇の中でうつぶせに倒れていた。


「(ここは……?)」


 そこはどこにも実在しない、彼女の精神世界だった。


 少女はゆっくり起き上がり、周囲を見渡す。


 ぐるりと一周見ても、そこにはただ真っ暗な海が広がっているだけだ。



 そして彼女は、ここへ来る前の記憶が薄れていることに気づく。

 自分が何をしていたのか思い出せないし、何故自分がここにいるのかもわからずにいる。



 少しでも手がかりを得ようと、奏は立ち上がり、空間の中を歩きだした。

 警戒しながら、おそるおそるあたりを見渡してゆっくりと。


 だが、歩けど歩けど、その場所を特徴づけるものは何もなかった。


 少女を四方から囲う、巨大な壁を除いては。


 彼女は空間をさまよううちに、壁に勢いよくぶつかり、その存在に初めて気づいた。



 じんわりと痛みが広がると同時に、彼女はだんだん泣き出したい気持ちになった。



 ――誰か、いないの?


 少女は声なき声で呼びかけた。


 ひんやりとした空気が、奏の頬を刺すように流れる。


 ――誰か……。


 もう一度呼びかける。


 本当に誰もおらず、ここからずっと抜けられなかったらどうしようと、不安を覚えたその時。



 ――「私はここにいるよ」


 一条の希望の光。

 いつしか聞いた、柔らかく優しさに満ちた声。


 その声は、少女に安心感をもたらした。


 彼女は声の主の名前を呼ぶ。


「ああ、私さ」


 エザムは答えた。


「私は君の近くにいるよ」


 エザムの言葉はさらに奏を安心させた。

 が、次にエザムは、心底残念そうにこう言った。


「けれど残念ながら、その姿は互いに見えないでいる」


 それは、黒い壁が原因だった。


「何故なら今の君は、闇に囚われている状態だからさ」


 ――私が、闇に囚われている……?


「幸い、君の叡珠(わたし)が破壊されずにすんだお陰で、君の命は救われた。ただし、強力な闇の魔力は、君を永遠にここに閉じ込めるつもりだ」


 奏は恐ろしい気持ちになった。

 こんな何もない、暗く寂しい空間にずっと取り残されるのは、当然嫌だ。


「ノイジア……あの膨大な魔力を宿した少年が君を捕らえた」


 エザムがそう言うと、奏の中にかすかな記憶が蘇った。


「(そうだ、あの巨大な怪物で動けなくなって、それで真正面から攻撃されて……)」


 その途中で、奏の意識は途切れていた。


――私、ここからどうすれば……。


 奏は不安を露わにしながら言った。


「君にはまだ、希望の道が残されている」


 壁の向こうのエザムは真剣に言った。


「君を捕らえる闇を払う力が、君には残されている」


 と、エザムは断言した。


 少女は自分の手の平を見つめ、ぐっと握った。


「私も手を貸したいところだが、残念ながら、私が力を貸すことはできない。……つまりこの状況を打破できるかどうかは、君自身にかかっている!」


 優しいエザムの声は力強さを持ち、少女の気持ちを鼓舞した。


 ――「さあ、雨宮奏」


 エザムは少女の名を呼ぶ。



「その手で壁をぶち破り(闇を払い)、私を再び繋がるんだ!」


 奏は全身が震えるのを感じた。

 それは恐怖やプレッシャーによるものではなく、自分の力でこの状況を打破してやるという、武者震いだった。

 彼女はもう、何の取柄もないただの中学生などではない。


 脅威に立ち向かう、精霊の光に選ばれた一人の戦士だ。


 エザムと再び繋がるためにすべきことは、すぐにわかった。


 奏は拳を引き、ありったけの力を壁にぶつける。

 息を弾ませながら、己の意志を絶やすことなく。


 しかし壁は簡単には壊せない。


 二発、三発拳を入れたところで、彼女の手に鈍い痛みが走った。



 ――けど、ここで諦めたら……。


 奏は右手をおさえながら、正面にそびえ立つ壁を睨む。


 息を大きく吸い込み、また拳を引く。


 少女はくじけない。

 壁の向こう側の精霊を信じ、ここから脱出するために、彼女は力を振り絞る。


 私はここから脱出し、魔法少女として戦って、悪を鎮める。

 そして、七つの叡珠を揃えて、親友のために祈りを捧げる!


 ――はっ!


 奏の強い意志は本物だった。


 暗くて目視できないものの、奏が拳を打ち付けた部分には、小さなひびが蜘蛛の巣状にできていた。


 彼女はわずかに手ごたえを感じながら、ふぅ、と息をつく。

 右手がひりひりと痛む。



 ――それ、壊せないよ。


 背後から声がし、奏は振り向く。


 ――どう頑張ったって無理無理。これ以上やったって、もっと痛い思いするだけ。


 そこに立っているのは、黒く染まった衣装に灰色のサイドテールの――彼女自身だった。


 亡霊のように闇の中に浮かび上がる彼女は、光を失った虚ろな目で、目の前の自分をあざ笑う。


 ――ここで待っていれば、あの子が『新しい世界』に連れてってくれるって。


 そうすれば、もう痛い思いなんかしなくて済むし、あんたは永遠に楽しく過ごせるよ!


 奏の幻影は、両腕を開き歓迎するように言った。

 奏は俯いている。



「奴の言葉に耳を貸すんじゃない! それに従えば、君は君じゃなくなるぞ!」


 壁越しに聞こえるエザムの声。


 ――もうこれ以上、何もしなくてもいいよ。


 甘く囁くような、幻影の声。



 それに対する奏の答えは、壁に打ち付けられた拳だった。



 ――私は惑わされたりなんかしませんよ。


 奏は心の中でエザムにそう言いながら、もう一発、壁を叩いた。


 ――何で? 無理だって言ってんじゃん……。


 戸惑う幻影の少女。


 ――そんなの、やってみなきゃ分からないよ。


 壁に向き合いながら、奏は毅然として言った。



 とりあえずやってみる。

 今、ここでできることがあれば、自分から手を伸ばし、やってみる。

 そうすれば、危機的な状況を突破できるかもしれない。


 言い換えるなら、『やらなければ何も始まらない』。

 その後のことは、後で考えればいい。


 それは、ごく普通の少女・雨宮奏が魔法少女に目覚めた時も同じだった。


 とりあえず、やるしかない。

 そう思いながら、水色の精霊に従い、巨大な未知の怪物に立ち向かった。


 もしあの時、彼女が戦う意志を持たなければ、街はもっと壊滅的な状況に陥ってただろう。



 巨大な怪物と戦ったあの夜が、奏の中に蘇った。


 右も左も分からぬまま、魔法少女に変身した奏。

 水色のふわふわした精霊に言われるがまま、未知の怪物に立ち向かって魔法攻撃を繰り出す。


 それでも怪物はすぐには倒れず、今度は、巨大な拳が振り下ろされた。

 魔法で強化されたパワーで跳躍し、鉄槌を回避する。


 謎の生物との戦いが怖かったのも事実だが、この時はほとんど勢いで動いていた。

 

 揺れ動く怪物の腕を駆け抜けて、後ろ側に回り――。


 ――何かこの辺弱そう!


 彼女の直感で、首筋に勢いよく蹴りを入れた。


 怪物は怯み、彼女は続けて二発、三発弱点を蹴る。


 すると怪物は唸りながら、地面に崩れ落ち――。




 壁が壊れた。

 息を弾ませる彼女は、鈍く痛む拳の代わりに、蹴りを二、三発入れることで、壁を崩すことに成功した。


 ――信じられない。


 幻影の少女は不機嫌そうに言った。


 奏は構わず、前に進んだ。


 ――私、まだまだやらなきゃいけないことがあるから。


 奏は壁に開いた穴をくぐり、自身の幻影に別れを告げた。



 奏は自らを捕らえていた黒い箱を脱出した。

 箱の外もまた、真っ暗な海だった。


 左右を見渡すと、すぐにエザムの姿を確認できた。


 安堵感を覚えながら、奏はエザムに駆け寄る。


「君ならできると信じてたよ」


 エザムは慈悲深く微笑み、繊細な手を少女に差し伸べた。


 奏は腕を一杯に伸ばして、その手を握り返した。



 その時、二人の手の中から眩い光が発せられ、二人を覆う暗闇は瞬時に淡いピンク色に変化した。

 奏がエザムの力と融合するときの空間だ。


「君の復活の時だ!」


 エザムが力強く言った瞬間、光の粒子が奏の身を包み、再び、華麗なる戦士に変えた。



 ――私、戦ってきます!


 淡い光の中で、奏は凛としながらエザムにそう誓った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ