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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅱ.雨宮奏、魔法少女になる
2/62

#1



 人工の光に照らされた、静まりかえった夜道。

 茶色がかったサイドテールを揺らし、右手にコンビニの袋を下げて歩く少女・雨宮奏は、塾からの帰りだった。

 彼女はスクールバッグを肩に掛け、緑色のリボンのついた紺色のセーラー服を身にまとっている。



 彼女は勉強の出来がとりわけ悪い訳でもなかったが(数学に関しては例外と言っても良いのかもしれないが)、勉強そのものが苦痛という訳でもないので、来年には高校受験も控えているからと親に勧められ、何となく通う事にした。


 とはいえ、やはり疲労は溜まるものだ。奏は吹奏楽部に所属し、楽器はフルートを担当しているが、朝練の為に六時には起き、授業を受け、夕方六時までの放課後練習を五時半に自主的に引き上げ、そして休息を取る暇もなく、そのまま隣の駅へ直行。部活は、テスト期間を除いて毎日ある。

 おまけに時間帯も時間帯なので、睡魔もつきものだ。今日の講義でも途中でウトウトしてしまい、危うく話を聞き逃す所だった。


 ここまでざっくりと普段の彼女について述べたが、結局は、何処にでもいそうな、将来の夢もやりたいことも見つからない、ごくごく普通の女子中学生だ。友人にも恵まれ、それなりに充実した学校生活を送っている。



 そんな彼女の疲れを癒すのが、最寄り駅から自宅の途中にある、展望台である。

 帰り道から逸れ、緩やかな坂を上り、少し奥へ進んだ先でそびえ立っているそれは、こげ茶色の木で出来ており、造りはそこそこしっかりとしている。造られてから、それほど年数も経っていない。

 

 展望台のてっぺんからの見晴らしは良く、先客がいることは滅多にない。

 雲が少なく、星のよく見える日には、彼女は駅から自宅に帰る途中でここへ寄る。

 大人達がこの事を知れば、危ないから真っ直ぐ帰れと目を三角にして言うかもしれないが。


 展望台の周りは、建物の多い帰り道とは違って光の数がぐっと減り、光源といえば、二、三台ほど設置されている外灯くらいだ。

 

 さらに展望台の奥には、鬱蒼とした森が広がっている。夜闇に覆われたそれは、何かが飛び出してきそうな不気味さを漂わせ、奏を何となく不安な気持ちにさせる。

 

 不気味なら見ないようにすればいい話だが、奏はなぜか、此処へ訪れる度にその森に視線を奪われ、それをじっと見ずにはいられないのだ。

 まるで、人を惹き付ける魔力がそこに込められているかのように。



 階段を上がり、一息ついた所で、奏は袋からメロンパンを取り出した。塾帰りの展望台で空気の澄んだ星空のもと、コンビニで買っておいたパンやら肉まんやらを頬張るのも楽しみの一つであり、彼女なりの疲れやストレスの発散方法でもある。人目を気にする必要もない。

 ばりっ、と軽快な音を立てて袋を開け、早速一口目に入ろうとした、その時。


 


 視界の端で、何かがぼんやりと光っている事に奏は気づいた。

 疲れているのかな、と思い、目をゴシゴシと擦ってまた見ても、その光はまだある。

 

 民家の明かりや街灯にしては明らかに近い。

 

 まさか、懐中電灯を手に持った見回り中の警察?

 そう思って恐る恐る光の方へ首を捻る。


 


 夜の暗闇の中で、見たことの無い、水色の光がぼんやりと浮いていた。




 ――これはもしや、人魂?


 背中に悪寒が走った。


「ひっ……お化け!!」


「おい誰がお化けだ!」


 ピンポン玉サイズの謎の光が、小さい雲をプスンと発しながらつっこむ。


「ひゃああ喋ったーー!!」


「あのなあ!……まあ無理もないか」



*******



「まあ、その、なんだ……なんか美味そうなモン持ってんなと思って、つい見つめてしまったわけだ」


「卑しい人魂め!」


「人魂じゃねぇよ!」


「幻覚! 最新型のおもちゃ!」


「何なんだよ次から次へと! 俺はどれでもねぇ!」


 じゃあ何なのよ、と奏は訊いた。


「精霊だ」


 精霊(?)はキッパリと答えた。表情は見えずとも、ドヤ顔を決め込んでいるのが伝わる言い方だ。

 しかし、最新型のおもちゃや人魂以上に非現実的で、奏は疑わずにはいられない。


「本当に?」


「本当だ」


「まあ、嘘とは言わないよね……」


 大半の人間ならば、空中に浮いた得体の知れない生物と会話をしている状況そのものに疑問を抱くだろう。彼女もそうだったが、とりあえず、目の前でフワフワしているものを精霊だと思うことにした。


 この精霊は、どうして此処にいるのだろう?

 今まで何度もこの場所には訪れたが、精霊の姿は一度も見かけなかった。正体不明の生命体と出逢うこと自体、生まれて初めてだ。


 すると奏の脳内に、ふと、幼い頃の記憶が蘇った。

 テレビ画面の中で、主人公である中学生の少女がある日突然、現実離れした謎の生命体と出会う。

 そして不思議な力が秘められた謎のアイテムを授けられ――。

 

 頭の中で、幼い頃に見ていたアニメの元気な主題歌が流れる。

 アナログの腕時計が示す時間も、今日は普段より早く塾の講義が終わり、(午前、午後は違えど)偶然、八時半過ぎだ。



「ひょっとして、魔法少女でも探してるの?」


 と、奏は冗談半分で精霊に尋ねた。

 すると、


「……よく分かったな」


 と、感心したように精霊が答えた。

 何だよそれ、とゲラゲラ笑われるのを想定していた奏を大きく裏切る反応だった。






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