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彼女の正体は 魔法少女でした  作者: 石榴矢昏
Ⅱ.雨宮奏、魔法少女になる
10/62

#9




 奏は暫く、ヤビイを呆然と見つめていた。

 突然明かされた事実を飲み込むのに少し時間がかかった。


「じゃあ、どうしてこの姿のままなの?」


「こっちの方が楽だし、色々事情があるんだよ」


 ヤビイの声のトーンが途中で低くなったのを感じ、あまり深く訊かれたくないのだろうと奏は察する。

 呪いか何かのせいで、姿を変えられたのかもしれない。


 奏が考えを巡らせていると、水色の光はいつもの声の調子を取り戻して言った。


「でも、ひょっとしたら、真の姿でお前を助けに現れる日がいずれ来るかもな。なんつって」


「出た、ヤビイの天然なのか狙っているのか分からないイケメン発言!」


 そう突っ込みを入れながらも、奏にとってその言葉はあながち冗談に聞こえなかったし、何より、興味が湧いた。

 蛍のようにふわふわと浮いたこの光は、どんな姿に変化するのだろう。



「それより、叡珠を俺に渡せ。変身に使う方だ」


 あのローブの女の物真似かと、奏は冗談で言ってみようと思ったが、本気で怒られそうなのでやめておいた。


 奏はベッドから立ち上がり、机の上から持ってきた叡珠をヤビイの方へ差し出す。


「ああ、ありがとよ」


 するとヤビイは、奏の手のひらの叡珠に乗っかるように密着し、そのままじっとした。


「何してるの······?」


「まあ見てろって」



 しばらく沈黙が続いた。

 ヤビイは無言のままで、あとどれくらいかかるのかと奏が口を開こうとした瞬間、叡珠は淡い光をぼんやりと放った。

 光が止むと、ヤビイはようやく叡珠から身を離した。

 結局何が起きたのだろう、と奏が首を傾げると、ヤビイはこう説明した。



「魔力を回復させて貰った。パッと見じゃわからんが、二回の戦闘で大分消費してたみたいだからな」


 確かに、叡珠の色もワントーン明るくなったように見える。


「これって無限に魔力が湧いてくるわけじゃないの?」


「まあ無限といえば無限だけどな。放っておいても自然に回復するが、時間が滅茶苦茶かかる。だから俺の能力で、この叡珠の魔力を引き出した」


 因みに変身中に魔力が切れても、お前は死なないから安心しろ、とヤビイは付け加えた。

 戦闘終了時と同じように、強制的に変身が解除されるだけらしい。

 とはいえ、大事な戦闘中に戦えなくなるのは魔法少女として非常に困るので、時々こうして魔力を満タンにする必要があるということだ。



 時計を見ると、時刻は既に十時半を回っていた。いい加減に寝ないと流石にまずい。

 奏は部屋の電気を消し、再びベッドに戻った。



*******



「で、あんたは使い魔を連れ出して街に出るも、また邪魔が入って惨めに帰ってきたわけ」


「惨めは余計だ」


 ノイジアが長いまつ毛の目を伏せて吐き捨てると、女はふふん、と笑みを冷たい浮かべた。


「そうかしら? 負け犬みたく、人間界からとぼとぼと帰ってくるその姿にはこの上なくぴったりな言葉だと思うけど?」


「貴様⋯⋯!」


 沸点低ーい、と、女は舐めとるような艶かしい声で、神経を逆撫でする口ぶりで言った。

 そして湿ったような吐息と共に、


「その可愛い顔が怒りに満ちるのも、悪くないわね」


 と言いながら、内面からあふれ出る欲望をどうにか抑えるかのように左腕をさすった。


「もっと、アタシに見せなさい?」


 そう言いながら、ノイジアにひたひたと近づいたと思うと、その顔にそっと手を伸ばした。




 

 ――すると次の瞬間、少年は突然カッと目を見開き、


「僕に触るなっ!!」


 と部屋中に響く怒号をあげた。

 

 それと同時に、まるでその声が殺傷能力を持った武器に変化しかのように、鈍い衝撃が腕に走ったのを感じ、女は小さく悲鳴を上げた。


 

 顔の前でクロスしていた腕を解き、痛む部分を恐る恐る見ると、小さな傷口から、赤紫色の液体が滲み出ていた。


 女の身体を傷つけた当の本人は、しんと張り詰めた空気の中、黒い指ぬきグローブの右手を庇いながら彼女を睨み、肩で息を荒らげている。



「僕に、触るな……」


 少年は後ずさりしながら、喉から絞り出すように再び言った。


 女は一瞬の出来事に驚いたかと思うと、すぐ様無表情になった。

 しかし、身体と共に己のプライドを傷つけられた怒りで、その瞳だけは殺気立っていた。


「⋯⋯やるのね」


 そう言いながら少年にひたひたと歩み寄り、女はロングブーツの長い脚を、顔面に向けて振り上げた。

 少年はギリギリの所でそれをかわす。


「そっちがその気なら」


 再びキックが飛んでくると、ノイジアは後方へ軽く跳躍してそれをかわし、片手でパーカーのフードを外してハーフアップの長い髪を露わにする。

 そしてすかさず、女の顔に向けて拳を繰り出す。拳は空を切った。


「女の顔にパンチだなんて、あんた意外と最低ね!」


「最低?⋯⋯君に言われたくないな!」


 攻防は徐々にヒートアップした。容赦ない拳が、強烈な蹴りが、次々と空を切り、腕でガードされる。

 同胞である事もお構いなしに、最早本気の殺し合いの勢いだった。


「元はと言えば、君が僕に――無限の闇に迂闊に触れようとしたからだ」


 少年は、ポケットからダガーナイフを取り出し、女の喉元めがけて振りかざす。


「無限の闇? ふん、妄言にも程があるわ!」


 女は嘲笑しながら、次々と襲い掛かる刃を避け、隙を狙って脚を振り上げた。


「笑うなら今のうちだ」


 彼はそう言いながら、キックを腕で受け止め、それを押しのけて距離を置いたかと思うと、今度は三本のナイフを取り出した。


 そしてそれらを、目にもとまらぬ速さで女に向けて投げつけた。

 ナイフはそれぞれ直線を描き、壁際に追いやられた女に当たるか当たらないか、ぎりぎりの場所に突き刺さった。


「せいぜい、僕を嗤ったことを後悔するがいい」


 ノイジアは、今までずっと封じられていた切り札を出すかのように、右手のグローブに手をかけた。

 

「あんたのくせに、随分生意気ね……」


 少年がグローブを外し、その白い手が剥き出しになる寸前。


 

 ぱちぱち、と、手を叩く音が二発響いた。

 二人は同時に、そちらに視線をやる。


「醜い争いはよしなさい?」



最終更新日から二週間ほど空いてしまいました……。すみません!

作者は無事に生きてます。そして物語はまだまだ続きます!

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