第0話 イリーネスchapter1
そよ風に吹かれて漂ってくる生臭い鉄の匂いと木漏れ日で1人の銀髪の女性は穏やかに目を覚ました。
「起きろ!」
怒鳴りつけるように銀髪の男性が駆けつけ、女性は一気に起き上がった。
部屋を出ると昨日の快晴時とは裏表を返したように一変していた。
日干しレンガの外壁はワインレッドに染り、空気はトマト色に変わり、人々は抵抗する間もなく死体に変えられたのだろう、全てがうつ伏せで逃げるように倒れて臓物を撒き散らしている。
暑い朝から数時間が経過し風が腐敗臭を拡散させ、釣られたハエが飛び交い、ブンブンと大音量で翅音が聞こえる。
「くっっ、」
思わず左腕で顔を覆った。
それからしばらくすると、遠くから足音が聞こえてきた。徐々に大きくなっていく足音は街に入ると止まった。
すると、銀髪を真っ赤に染めた女性と男性は、歩いてきた重武装の戦士の前に立った。
「ミルフレイ首長ご無事でしょうか?」
女性の名はリーム•ミルフレイ、1000人ほどの一族のシルフの首長だ。
「私は大丈夫です、負傷者、、、はおりません、数名を遺して他は亡くなってしまいました、半分は対空警戒を、半分は遺体の収容してください」
「仰せのままに」即答だ。
日が沈む直前に死体の収容が終わり全員が家の近くに集められた。
「これも例の悪魔の仕業でしょうか、、、」
残された数名の1人の女性が口を開いた。
リームは今朝の惨劇を思い出すと、ボーッとして呟いていた。