第六章 ワーズ(一)(9)
九
ようやく落ち着いた【do麻呂】は、ETたちに向き直った。
「僕がなぜ特別な助動詞なのか、さわりだけ説明するね」
ここはさすがに、みどり組の三人のみならず、チーム・スピアリアーズの三人も、ノートをとるべくペンを構えた。
「助動詞ワーズたちは皆、KCJの契約社員になる条件として、三つの職務を果たすように言われている。『あなた方助動詞の主業務は、一人一人の個性を活かして、正社員である動詞ワーズたちのアシスタントをすることです。クラフトマンが、クライアントからのオーダーに応じて、あなた方の中から適切な人選をして出動を命じることがあります。出動を命じられた時は、
①動詞の前で、ありのままの姿の動詞を守るようにシートレに座ること、
②疑問文の編成時には、疑問詞がいる場合を除いて、進んで文頭に出ること、
③否定文のときには、あなた方助動詞が、必ずnotを身に着けていくこと、
この三つをしっかり守ってください』とね」
そこまで言うと【do麻呂】は思わず話を中断した。六人のETがあまりにも一生懸命ペンを走らせてノートを取っているからだった。彼に限らないが、ローンチング・ステーションでの現場作業がほとんどであるワーズたちが、ゲスト講師として研修に呼ばれて、自分のことを自由に話し、それをノートまでとって真剣に聴いてくれることなどなかなかないことだった。
「うーむ、気持ちいい……」
彼の自尊心は満たされていった。
【助動詞】
・動詞の意味を助ける。
・動詞の前に置く。助動詞の後の動詞は原形。
・疑問文の時は、文頭に置く(疑問詞があるとき以外)。
・否定文の時は、助動詞にnotを後置する。
一番書くのが遅かった、綾目小路奈留美が書き終えて顔を上げるまで待って、【do麻呂】は話を再開した。
「だけど、当時の人事担当者が僕に言ったんだ。『【do麻呂】さん、あなた、普通の助動詞たちの役割に加えて、
④強調のとき、
それに、
⑤否定の命令文の編成のとき
――にも、出動してくれませんかね』と。
僕は難色を示した。なんだって僕だけ、二つも余分な業務を押し付けられなくちゃいけないのか。そこで僕は訊いてみた。『報酬は、その分増やしていただけるんでしょうか』。だが、『いや、申し訳ないけど、それはできません』との答えだった。僕は、『でしたらお断りします』と言いかけたんだけど、『それならあなたはクビだ』と宣言されることを僕は恐れた。だって僕は、同僚の【助動詞 will】くんとか、【助動詞 can】くんみたいに、身を立てていける個性的な能力をあまり持っていなかったから。だけど、没落しつつある東醍醐家の御曹司としては、収入源がなくなることだけは避けたい。そこで僕は駆け引きを試みたんだ。『では、その二つの役割を引き受ける代わりに、私の不得手な、動詞の「意味」を助けることを免除していただけませんか』と。人事担当者はしばらく腕組みをして考えていたけど、ついに笑って、『いいでしょう』と言ってくれた。そういう経緯で、僕には意味がない。だけど、他の助動詞にはできないお役を引き受けているんだ」
【助動詞do】
・動詞の意味を助けない。do自体に意味はない
・疑問文の時は、文頭に置く(ただし、疑問詞がある場合は疑問詞を文頭に置く)
・否定文の時は、助動詞doにnotを後置する。
・否定の命令文の時に、Don’tの形で文頭に置く。
・動詞を強調したい時に、動詞の前に置く。




