第六章 ワーズ(一)(4)
四
実は昨日、「チーム・スピアリアーズ」より先にバー・ティートータラーを出て寮に帰る途中、「みどり組」の三人は、あいつらにだけは絶対負けたくないから、勉強の姿勢から変えていこうよと、申し合わせたのだった。知ってることも、知らないことも、初心に返って、聞き漏らさないように熱意を持とうよと、これはユキが提案したことだった。万三郎も杏児ももちろん賛成した。
その「みどり組」の三人が、前列の机で三人並んで懸命にノートを取っているので【be子】は俄然、機嫌が良くなる。
「あなたたち、殊勝じゃない。あたしのこと、もっと聴きたい?」
すかさず万三郎が答える。
「もちろんです、会長」
「か、会長……」
【be子】は少なからず感動した。
「あなた……あたしのさりげない自己紹介で、『あるいるクラブ』会長と言ったひと言をちゃんと覚えてたの?」
「はい、会長」
「ふうん……。おいしそうな顔のあなた、名前は何だったっけ」
「はい、中浜です。中浜万三郎といいます」
「そう、万ちゃんね。あなた、いい子ね。覚えておくわ」
「ありがとうございます、会長」
万三郎はそう言って、屈託のない笑顔で【be子】に応えたので、【be子】は嬉しくてすっかり饒舌になった。
「くっ、おべんちゃら言いやがって……」
斜め後ろの席から祖父谷が万三郎の背中を睨んで、声にならないつぶやきを発する。昨夜万三郎とぶつけ合った後頭部がまだ傷むのがムカついた。
【be子】は滑らかに話し始めた。
「あたしの自宅の住所は、ストーカー対策で言えないけど、あたしは五人の妹たちと同居してるの。今日は来てないけど、【am子】、【is子】、【are子】、【was子】、【were子】よ。西園寺六姉妹って、業界では評判なんだけどね」
杏児は新渡戸の方をそっと見る。新渡戸はかすかに頷く。なるほど、これがさっき部長の言っていた、多重人格なんだと杏児は合点がいく。すると杏児の後ろから四葉京子が口を挟んだ。
「それ、『六姉妹』やなくって『六変化』の間違いとちゃいます?」
「あっ、シーッ!」
杏児は思わず後ろを振り向いて、黙ってと京子にジェスチャーをする。【be子】は自分自身が変身しているのだとは思っていないのだ。
案の定、【be子】は京子を聞きとがめた。
「どういう意味よ、そこの、目が全部黒目の女子?」




