第六章 ワーズ(一)(3)
三
さすがの【be子】も我に返り、おほんと言って、ETたちに着席を指示した。彼らが着席している間に彼女は教壇に上がり、教卓の縁に両手を掛けてETたちに言った。
「あたしの名前を知らない人、この中にいる? いたら手を上げなさい」
六人の誰一人として、手を上げなかった。
「もちろん、そうよね。あたしを知らないETなんて、もぐりだわ」
当然という表情で目を閉じた彼女は、突然くわっと目を見開き、凄みを効かせて早口言葉のように、一気にまくしたてた。
「そう! あたしが、『あるいるクラブ』会長、『ですますクラブ』会長、『進行形制作委員会』委員長、『受身形制作委員会』委員長、株式会社ことだまカンパニー・ジャパン英語事業部傘下ワーズ営業部所属、第一文型課課長兼第二文型課課長、原付免許取得済みの……」
そこまで一気に言うと、彼女は首を一ひねりして長い黒髪をわさっとなびかせた。つややかな髪は、シャンプーのコマーシャルで見るように彼女の頭の周りをしなやかに一回転して、健康的に弾む。ダイナミックでエレガントなキメのポーズを、彼女は自分の名前で締めくくった。
「西園寺【be子】よ」
ポーズに少し余韻を持たせておいて、【be子】は付帯情報を小さく早口で言った。
「講演の依頼やファンレターはプライベートオフィスを通してね。『なさい県、文頭郡、助動詞ノ後町、頻度副詞前一の一 Amisare和津羽一〇四号室』よ」
万三郎たち「みどり組」の三人は、【be子】の前置きのような話さえも、さらさらとノートに書き取っていく。
【be 動詞】
・「ある」「いる」を言うときに使う動詞。
・「です」「ます」を言うときに使う動詞。
・「進行形」を作る形の一部に使う。
・「受け身形」を作る形の一部に使う。
・第一文型と第二文型で使う。
・文頭に置くことで、「でいなさい」という命令文になる。
・助動詞の後に置く。
・頻度を表す副詞の前に置く。




