第五章 仲間(12)
十二
祖父谷がハンバーグを口に入れたまま言った。
「過去を訊くな。気分が悪くなって、せっかくの旨いメシが不味くなる」
「おいヨッシー」
祖父谷は怒気に満ちた顔を万三郎に向ける。
「あ、済まん。それより、お前の社章……」
万三郎に指摘され、祖父谷は自分の鴨の目が光っているのに気付き、驚く。そして万三郎に向き直った。
「中浜、お前の鴨の目もさっき光ってたんだ」
万三郎は、発光していない自分の社章をまじまじと見つめ、それから顔を上げた。
「そうか、分かったぞ。GPSで定期的に現在地情報を本社に発信しているのかも知れない。それでこの店、ティートータラーにいると分かったら、俺たちの給料から飲食代が天引き精算されるって寸法なんじゃないか」
祖父谷が答えた。
「お前、馬鹿だな。そんなくだらない使い方ではなくて、緊急事態に本社に召喚できるように、現在地を把握されているのだろう」
万三郎はふてくされる。
「緊急事態って、なんだよ」
祖父谷は手元のハンバーグの最後のかたまりを箸でつまむ。
「知らんよ」
そう言ってからハンバーグを口に入れる。もぐもぐ口を動かしながら空のグラスを手に取って言った。
「まあ、緊急招集がかかるのはお前ら、みどり組じゃなくて、俺たちだけだろう。すみませーん、水ください」
「チーム・カフェテリアーズか……」
「スピアリアーズやで」
京子が訂正してきた。
「優れた人たちって意味や。英語力、外見、人間性、使命感、行動力、すべての面において、うちらの方が、上や」
そう自慢げに言う京子の鴨の目はもう発光していなかった。
カウンター席から負けず嫌いのユキの声が飛ぶ。
「へえ、まつ毛の長さだけじゃないの? あなたの方が上なのは」
京子はそれを聞いてすっくと立ち上がった。
「な……何よ」
ユキはたじろぐ。奈留美がハンバーグをナイフで切り分けながら澄ました顔で言った。
「ダメよ、京子さんのまつ毛を冒涜するのは自殺行為ですわよ」
「あっ、ダメだ、何するつもりだ!」
席を立ってユキの方に向かっていこうとする京子の前に万三郎が慌てて駆け寄って立ちふさがる。小柄な京子は万三郎を見上げて脅すように言葉を吐いた。
「ちょっとあんた、何カッコつけてんねん。うちら女同士の話、しに行くとこや。のいたって」
万三郎は両手を広げ、かぶりを振った。
「いや、ダメだ。みどり組の仲間がやられるのを見過ごすわけにはいかない」
その時、それまでじっと成り行きを聞いていた祖父谷が、口を拭っていたナプキンを置いて、ゆっくりと席を立った。




