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ことだまカンパニー  作者: 今神栗八
第五章 仲間
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第五章 仲間(7)


 男はその言葉と共にその場でスッと立ち上がった。カウンターに座っている杏児の方向から見れば、シーソーに座る男女みたいに、美女が座るのと入れ違いに隣で立ち上がったように見えた。


 自信家のがっしりした体格の男の、スーツを、その立ち上がった足元から徐々に上体へと見ていって、万三郎は驚愕の声を上げた。


「あっ!」


 杏児はなぜ万三郎が驚いているのかは分からなかったが、何かよからぬ気配が辺りを支配し始めているのは感じていた。


 男は、万三郎をまっすぐ見つつ、腕を上げて万三郎の胸を指さした。万三郎は、男の指さす先に従って、自分の胸元に目を向ける。


「えっ?」


 そして万三郎は、男の胸元と自分の胸元を交互に見比べた。さらに見やすいように、自分のスーツの上着の襟を右手で裏地から起こしている。そうやって社章の場所を強調していたので、杏児は少し離れていたにもかかわらず、万三郎の社章の、鴨の目から赤い光の輝きがスーッと消えていったのが見えた。


 光が完全に消えたのを見届けて、万三郎は顔を上げる。男だけではなく、ギャル風の女も、万三郎が椅子を引いてやった美女も、三人が万三郎の社章を身じろぎひとつせず見つめている。テーブル席周りの緊張がカウンターにいる杏児とユキにまで生々しく伝わってくる。杏児もユキも固唾を飲んで成り行きを見守っている。


 テーブルの男が再び万三郎に向けて口をきいた。


「お前、ETか」


 万三郎は緊張した面持ちで頷く。そして、男の襟元に光る金の鴨を指さして言い返した。


「あんたも、か」


「そうだ」


 それを聞いた杏児は素っ頓狂な声を上げた。


「ええっ、あいつもET?」


 男は一瞬、杏児とユキの方を向く。


 ユキは男に目線を固定したまま杏児に言った。


「マサヨさんとのやり取りで彼らが金鴨の社章をつけているということだったし、ここを通る時、社章をこの目で確認したわ」


 自信家勘違い男は、ふと優しい顔をユキに向け、それから万三郎に向き直って、杏児とユキが座っているカウンター席にあごをしゃくった。


「あの二人も、お前の仲間か」


 万三郎も応じた。


「そうだ。こちらの二人も……」


「ああ、みんなETだ」


 男はあからさまに警戒の色を隠さず、数秒間黙って万三郎を見つめた。張りつめた空気が周りを取り囲む。


「お食事のご注文はいかがいたしましょう?」


 まったく空気を読まず、いや、読み尽くしてあえてなのか、マサヨがいやに明るい営業スマイルでメニューを持って現れた。しかし、男は万三郎から目を逸らさない。必然的に万三郎も微動だにできない。椅子に座っている二人の女たちも一言も発せず、極度に緊張した場の空気を共有している。


 万三郎は表情を崩さず、男に言った。


「おすすめは、お手製ハンバーグ定食だ」


 男は三秒間の沈黙の後、万三郎から目をそらさず、明るい声で言った。


「ハンバーグ定食、ください」


 すかさず、二人の女の声が続いた。


「うちも」


「わたくしも」

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