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ことだまカンパニー  作者: 今神栗八
第五章 仲間
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第五章 仲間(5)


 店の外で待つ客に、マサヨが外まで出て応対する。会話が漏れ聞こえてくる。


「あのー、KCJ提携店のステッカーが貼ってあったんで……」


「はい、当店では、KCJさんの、ゴールド社章をお着けでしたら、KCJさんのツケでご飲食できます」


「そうですか。じゃあ三人、食事で入れますか」


「はい、大丈夫です。どうぞ」


 マサヨは店内を振り返ってマスターに告げた。


「お三方さま、お食事で」


 マスターは杏児と一瞬目交ぜをしてから、新しい三人の客を出迎える。


「いらっしゃいませ」


 マサヨが開け放したドアから、男が店内に顔を出した。ユキは、失礼にならない程度にその男の挙動をそっと目で追う。


「マサヨたん、奥へ」


 マスターの指示に頷いたマサヨは、男が店内に一歩足を踏み入れたところで後ろから声をかける。


「どうぞ、奥の四人掛けテーブルへ。上着、お預かりしましょうか」


「あ、いや結構」


 マサヨの申し出に、店の奥へと歩きかけた若い男は、身をよじって半ば振り返る格好で手を挙げて断った。


 身をよじったところがユキの目の前だった。ユキは小さく押し殺した声で「あッ」と言った。ユキのその声に、頭痛上がりの杏児は鈍く反応して、バーチェアに座ったままユキと並んで男に目を向ける。


 杏児たちと同年代に見える、ライトグレーのスーツ姿の男は、がっしりとした体つきだ。自信ありげで積極的な印象を受けるのは、バーの控えめな照明の下でも分かる、健康的に日焼けした、ごつごつしてたくましい男性的な顔立ちだからかもしれない。


 彼は、ユキが自分をじっと見ていることに気付き、いかにも自信家らしく、わずかに笑みをたたえてユキを見返した。ちなみにその間、隣にいる杏児には一度チラリと視線を投げただけで、その後は全く気にも留めていない。


 そうして、二人の前を通り過ぎる時に、彼はユキにウインクをした。


 ――げっ! まさかのウインク?


 杏児は心でそう思っただけだったが、ユキは実際に小さく「げっ!」と声に出した。


 ウインクで相手を悩殺する……こんな、漫画みたいな恥ずかしい勘違い男が実際にいるんだと杏児は驚いた。しかしユキは、隣りで見ていて滑稽に感じるほど当惑していた。視線の動きが安定していない。ひょっとしたら、理性とはうらはらに、不思議な胸の高鳴りを覚えている自分に気づき、そのことにうろたえているのかもしれない。


 杏児とユキの視線を引きずりながら、男は悠然と店の奥の席へ向かっていった。


 ユキはグラスをカウンターに置いて、両頬を手のひらで挟みながら、視線を男の後ろ姿から入口の方に戻した。そして再び大きく目を見張る。


 ユキの視線を追って、杏児も同じく入り口へ向き直り、ユキ同様目を見張った。


 先行の勘違い男に続いて、二人の若い女性が入店してきたのだったが、先に立つ小柄な女は、濃紺のスーツこそ着ているものの、どう見ても「ギャル」だった。髪は明るい茶髪の巻き毛で、つけまつ毛にこんもりとマスカラを盛っている。その上、目の周囲がシャドウべったりなので、目全体が黒目に見える。明度を落としているお店の照明の下では、彼女がどこを向いているのか杏児にはよく分からなかった。彼女はそのまま、二人の前を通り過ぎていく。


 ユキは杏児だけに聞こえる程度の小さい声で「信じられない!」とつぶやいた。

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