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ことだまカンパニー  作者: 今神栗八
第五章 仲間
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第五章 仲間(3)


 ユキが眉をひそめて反応した。


「そんなに死んでほしかったの?」


「いや、そういう訳じゃ……」


 個人情報を訊いている訳じゃないのに、まだこうした話題を口にする時機になっていないのか、それとも人が死ぬの死なないのと、物騒な話題を単に嫌ってのことかわからず、杏児は少し慌てた。すると杏児の肩越しに万三郎が代わりに反論する。


「そうじゃなくてさー、ユキ」


 振り返ると、万三郎はビールグラスを手にしたまま、もどかしそうにユキの方を見ている。酔っているのか? 杏児を挟んで二人の視線が交錯する。


 今、ユキは眼鏡をかけていない。眼鏡をかけていたのは、どじょう掬いを踊った昨夜と、今朝、研修第一日目に遅刻してきた時だけだった。あれは、度の入っていない伊達メガネだったのか、あるいは今は、コンタクトレンズをつけているのか分からなかったが、ともかく眼鏡をかけていない今は、フレームなど遮るものがない分、ユキが眉をひそめたのがあからさまで、ついさっきまで上機嫌だった万三郎は、興をそがれて少し不機嫌になったように見えた。


 場の空気が濁りそうになるのをマスターは機敏に察して、万三郎の気を一時そらせる。


「万三郎くん、ビールお代わりは?」


「あ、そうですね、じゃあもう一杯」


「ラガーで?」


「はい」


「マスター、私が注ぎます」


 隣に待機していたマサヨがそう申し出たので、マスターは任せることにする。


「ありがとう、マサヨたん」


 マサヨはマスターの方を向いてはにかんだ。


 今夜もすでに何度目かになる、マスターの「マサヨたん」に、相変わらず三人は、〇・五秒だけ凍りつく。だが今は、険悪になりかけていた空気がそれでリセットされたのである。今回に限っては、マスターはわざとマサヨたんと言い、マサヨさんはわざとマスターにそう言わせたのではないかとさえ思える、絶妙なやり取りであった。


 杏児は、せっかく修復してくれたデリケートな空気をできるだけ壊さないように気をつけながら、万三郎の発言を引き継いだ。


「万三郎もたぶん同じことを言いたいんだと思うけど、僕も不思議に思うことがあるんだ。大きく分けると三つある」


 すかさずマスターが反応する。


「出た、杏児くんの『スリー・ポインツ理論』」


 場が和むにつれて、マスターは万三郎のことを万三郎くん、僕のことを杏児くんと親しみを込めて呼ぶようになった。ユキの物言いの影響を受けたのかもしれないが、マスターは二回りはゆうに年上だと思われるから、その方が自然だった。


 僕は訊き返す。


「マスター、何それ?」


「いやあ、杏児くんがトイレに行っている時に万三郎くんから武勇伝を聞いたよ。なんでも、古都田社長に果敢に三つ質問をしたそうじゃない」


 僕はちらりと万三郎を見た。彼は平然と、手にしたジョッキのビールを飲み干していた。


 ユキが訊く。


「杏ちゃん、いつも三つ挙げるの? 二つしか思いつかないこととか、四つ思いつくことってないの?』


 ――杏ちゃん……か。


 ユキなりに親しみを込めているのだろう、僕をそう呼ぶようになってまだ一時間。嫌ではないが、少々照れてしまう。僕は目の前にあったピーナッツに手を伸ばしながら答える。


「うーん。たぶん、たくさんある何かのうち、三つだけピックアップしてるんだ」


「じゃあ、大きく分けて三つじゃないのね」


「まあ、カタいこと言わないで」


 お代わりのビールが目の前に置かれるのを見ながら万三郎が言った。


「俺も疑問がたくさんあるんだ。だけど、まず杏児のその三つ、聞かせてよ」


 僕はピーナッツを一つずつつまんで口に入れながら答えた。


「一つ目。なぜ彼らは不死身なのか」


 ポリポリ。


「二つ目。なぜシートレは空を飛ぶのか」


 ポリポリ。


「三つ目。うっ! ごほっ……ふんがっふっふっ」

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