第四章 研修(1)
一
エレベーターを降りて、近代的なオフィスの廊下を十メートルほど歩くと、左手に「第三研修室」と表示が出ていた。
万三郎は、引き戸型の白い扉に手をかけてみて、扉の抵抗感に驚き、思わず杏児と顔を見合わせる。
鍵は、開いては、いた。
ただ、こちら側から見る限り、白く塗装された軽量素材のスライドドアだと思っていたのに、万三郎が力を入れて引くと、扉のコロが砂を噛んだように軋み、やがて止まってしまう。上下に揺さぶる感じでさらに力を加えると、ようやくガクガクとぎこちなく動いた。建て付けが非常に悪い。
開いた扉の向こうには、エレベーターや廊下の近代的デザインとは真逆の空間が広がっていた。こげ茶色からはすでにかけ離れた、薄汚れた黒鉛色に近い板張りの床。人間工学の対極を行く、超四角い一人用の木製の椅子と机。それらが縦五列、奥へ五列と並べられている。
部屋の前方、二人の目の前には、その床より一段高い教壇があり、中央に講演台、いや、昔仕様の「教卓」があった。
教壇に沿った壁には、こちらの端から向こうの端まで広がる暗緑色の黒板。黒板の上には、デザイン性のかけらもない、大きな時計。
部屋の向こう側が、校庭を見渡せる全面窓ではなくて、白壁になっていることと、天井の中央あたりに吊り下げ型の、スクリーンプロジェクターらしき装置が取り付けてあることを除けば、ここは、どこからどう見ても、昭和時代の小学校の教室だ。万三郎は部屋を見渡しながら杏児に確認する。
「第三研修室って、言ってたよな?」
「ああ。ここのはずだ」
入口から一歩入って、一通り部屋の様子を把握し終えた万三郎と杏児は、とりあえず、一列目中央の、隣り合った二つの机を選び、おずおずと席に着いた。
「なんで、こんなに古い部屋のデザインになっているんだ?」
「さあ……」
二人は着席したまま改めて周りを見回すと、浅くため息をついて黒板の上の壁面に掛けられた時計の文字盤を見つめた。
九時きっかりに、扉が「ガ……ガガ」と音を立てて横に動いた。




