第三章 由紀(12)
十二
マティーニの一気飲みはやはりまずかった。気分最悪、吐き気旺盛、頭ガンガン、視界チカチカ。
――何やってんだ、私。
「ユキちゃん、それまでだ。もういいよ、充分罰ゲームになってる」
ふらつく私を支えようとマスターが腕を伸ばした。
「ダメッ! 近寄らないで!」
私はマスターを激しく突き飛ばした。マスターは少し後ろによろめいた。
「こここれは、私の、みみみ、禊なの。後ろへさがって、だだ黙って見ていて、お願い」
三浦が言った。
「罰ゲームなのなら、禊じゃなくて、ケジメってことですか?」
私は三浦をキッと睨みつける。
――何も知らないくせに!
その眼力にタジタジとなった三浦は、私から目をそらした。すると今度は中浜が、マスターを振り返って、心配そうに訊いた。
「ねえ、店長さん、この人、すっごい震えてるけど、急性アルコール中毒とか大丈夫なんですか」
私に言われるままに、私が座っていたバーチェア辺りまで下がっていたマスターは、中浜の肩越しに気の毒そうな目で私を見て言った。
「いや、極度のあがり症なんです、ユキちゃんは」
私は頬かむりをしたまま、鼻の両穴に割り箸を差し、反対の端を受け口にした下唇で支えて、ステンレスのお盆を手に持った。
「ふぁふぁ、ふぁにひゃへっへんふぉ! へへ、へひょうひ、ひへ」
私は手拍子のジェスチャーをしてお盆を幾度か叩いた。ジェスチャーに促されて手拍子をし始めた二人のETたちの前で、私は脚をガニ股に広げる。
「ユキちゃん、やっぱり……」
マスターが再び歩み寄ろうとするのを私は手で制し、顔を横に振った。
「ああ、どうしてこんなことに……」
マサヨも顔をそむける。無理もないと私も思う。
――たしかに、これは、笑えないわ……。
こんなに鬼気迫るどじょう掬いは、むしろオカルトかもしれない。お酒に酔って顔が赤いのか、羞恥で赤いのか、彼らには判断できないのが救いだった。ただ、震えについては、やはりどうしようもなく、私はガタガタと震えている。それでもやはり、明日以降のために、私には、禊が必要だと思えた。
――これさえ、これさえ克服できれば……私はまだ、きっと戦える……。
「はああー」
手拍子の中、私は鼻の穴に痛みを感じながら、閉じない口で素っ頓狂な声を上げた。




