第二章杏児(10)
十
血の気が引く思いだった。
別のスピーカーから、「ビーッ、ビーッ」という、危険警報みたいなのが、拡声器の警報に重なって鳴り出した。
――なんでこんなに音で焦らせるんだ!
僕はパニックになりかかっている。
「で、三浦さん、俺はどこに乗るんです?」
僕は放心状態で【Ben】に訊き返した。
「ど、どこがいいと思いますか」
【Ben】がついにブチ切れた。
「あんた! 俺を呼んでおいて、『どこがいいと思いますか』はないだろう! シートレ編成はあんたの仕事だろうが。俺たちワーズには反論や意見は許されてないんだよ、早く決めろ、このタコ!」
僕は涙目になって言う。
「い、一番前に……お願いします」
【Ben】は、「ケッ」と言って、一番前の車両に座った。
次に到着したカートには、【You】、【mad】、【pain】など、今しがたタブレット画面で召集したワーズの連中が連なって乗っていた。
【you】や【the】など、一部のワーズは「斗南さんは?」と訊いてきたが、他のワーズたちは、今日このホームは初めてのようで、特に僕に対して違和感を持たず、指示を仰いできた。彼らは僕がETであることには気付かなかったようだ。僕はやぶれかぶれで各ワーズたちに着席順を指示していった。
「え、私、こんなとこに座っていいの?」
「なんで俺、呼ばれたんだろう、狂ってる。【angry】の方が適任じゃないのかな」
「俺とあんたが前後でつながるなんてことは、余程のことじゃないのかね」
「おい、こりゃまずいっしょ!」
指示通り座ったワーズたちが、ET同様、クラフトマンには直接意見を言えないのか、前後で顔を見合わせ、ガヤガヤ騒ぎ始める。だが僕にはもう再考する心の余裕などない。
ウォンウォン、ビービー、けたたましいアラーム音の中、先頭車両に乗った【Ben】が僕に叫ぶ。
「準備できたら、『ゴー』って言って手を振るんだ」
僕は言われるままに「ゴー!」と言って手を振った。
「おい、どうなっても知らないぞぉー」という、乗車したワーズの一人が発した声が僕に近づき、そして遠ざかっていった。僕が編成したシークウェンス・トレインは、加速しながらレールを離れ、宙を飛んで、やがてドームの隙間から外の世界に消えていった。
こちら側のアラーム音がようやく鳴り止んだ。だが、同じホームの向こう側に向いた拡声器からは、まだアラーム音が鳴っている。
ふと気がついて目をやると、中浜が涙目でタブレットを操作していた。




