第二章杏児(8)
八
ホーム中央辺りのモニターには、レッドスナッパーズとタイフーンズの試合の中継が映し出されている。レッドスナッパーズの内野陣が打ち合わせを終えて、ようやくそれぞれの守備位置に散って行ったところだった。
――あれからかなり時間が経ったはずだけど、時間の進みが異様に遅いなあ……。
そう、まるで、モニターに映し出されているのは実は中継ではなく、録画されたビデオ動画であって、今まで一時停止か超スロー再生されていたのではないのかとすら僕には思えた。
そこで僕はひらめく。
――あ、ひょっとしたらこれって、訓練シミュレーションなのかな。僕たちはこうした架空のセッティングで試されているだけなのかな……。うん、僕たちに対する事前説明の少なさを考えると、これはきっとそうだ。僕が今やろうとしていることは、シミュレーションに違いない。シミュレーションなら、ゲームと同じだ。失敗しても、どうってことないだろう。よしっ、思い切ってやってやる!
さっき斗南から借り受けたインカム・マイクのイヤホンのボリュームを上げる。球場の大歓声や実況中継のアナウンサーの声が聞こえてきた。
「さあ、この試合一番の見どころと言って良いでしょう。四対三で迎えた七回裏、一点を追うタイフーンズの攻撃、ツーアウト満塁、バッターは四番、ベン・マンズフィールド。前の打席でデッドボールを受けて、一度はピッチャー伊藤につかみかかろうかという形相で激しくののしったマンズフィールド。キャッチャーの山本が間に入って止めましたが、先ほどは両チーム一触即発の不穏なムードになりました。そのマンズフィールド、今、バッターボックスに入りました。ピッチャー伊藤、セットポジションから第一球、投げました。真ん中低め真っ直ぐの球、きわどいところボール、おっと、審判はストライクの判定!」
“Hey, give me a break! Why the fuckin’ strike? Where d’ya have eyes? ”
モニターには、バッターボックスに立つベンが、審判に大げさなジェスチャーで文句を言っている姿が映っている。英語で言っているので審判は理解できていなさそうだ。もし日本人選手があんな感じで文句を言ったら、一発退場を命じられるかもしれない。
「あっ!」
そこへ突然、オーダーが来た。タブレットに日本文が表示される。
「ベン、えらくカッカしてるなあ。首がまだ痛いからかい? まだワンストライクじゃないか」




