第二章杏児(3)
三
「江戸、わざわざ出迎えてもらって悪いな」
「いやあ、稲さん、そんなんかまへん。新しいETが来るゆうて聞いとったから、ドキドキやったんや」
白い髭を蓄えた恰幅の良い白人のおじさんが、日本の駅長帽と駅長服に身を包み、江戸というあだ名のくせに関西弁をしゃべっているのは、非常に違和感があった。
友人でもあるのだろう、あだ名で呼び合う部長と駅長。駅長は部長と握手を交わしたのち、僕たちの方を向いて部長に訊いた。
「で、彼らがそうか?」
「ああ」
僕たちはすかさず挨拶する。
「三浦杏児といいます」
「中浜万三郎といいます」
駅長は、ふうんと言って、僕たち二人を交互にまじまじと見つめた。
「えらい華奢やけど、大丈夫かいな」
部長はそれには答えず、駅長を僕たちに紹介した。
「江戸ワード・スミス駅長だ。チンステ全体を統括している」
「チンステ?」
僕が部長に訊き返すと、「ああ、ローンチング・ステーションの略だ。ここのことだよ」との答え。
江戸ワード駅長は、僕たちを見たまま、部長に訊いた。
「社長から、百番線から二百番線でと聞いてんねんけど、ほんまにええんかな」
「うむ。お考えがある。迷惑をかけるが、よろしく頼む」
「ふうむ……」
駅長は厳しい表情でしばらく僕たち二人を見ていたが、「ま、これからのKCJの為やな……」と、誰に言うでもなくつぶやいて、それから部長に向き直って、ニッコリ笑って言った。
「いきなりその範囲は、ほんまに賭けやけどな。ええわ、やらせてみよか」
「すまない」
駅長は襟元に取り付けられたインカム・マイクに口を寄せて言う。
「信太! お前の管轄の中で……そうやな、百番線台で、今、一番でかそうな取引は何番線かな? ……うん。何のディールや? ほう。そうか。二番目は? ふんふん……あ、隣り合ってんのか、そうか……ほんなら、そこ、いこか」
駅長は僕たちを見ながらインカム越しに言う。
「信太、今すぐセントラルビルまで来てくれ。そうや、察しがええな。わしが朝礼で言うとった、あの件や。そうや、マジや。頼むで」
インカムから口を離すと、駅長はまだ僕たちを見たまま、部長に言った。
「稲さん……。社長は、ええ、覚悟や」




