第二章杏児(2)
二
シースルーエレベーターはまだ降下を続けている。僕が中浜から目の前の景色に意識を移してからも、なおしばらくの間、誰も何も言わなかった。中浜と並んで僕はいま、言うべき言葉を知らず、眼下に広がる光景をただ固唾を飲んで見守っている。
見渡す限り、そこは「屋内」だった。ドームのような、向こうが霞んで境界がわかりにくいほど、ひたすら巨大な空間があった。僕たちの足元から「沖」の方に向かって、くしの歯のような、平行な直線が何百本も伸びている。
さらに目を凝らすと、それぞれのくしの歯先から、米粒がいく粒か連なったようなものがゆったりと飛び出して、そのまま「沖」の、さらに遠くの上空にある、隙間のようなところから「屋外」へと出て行く。
この真下から伸びるくしの歯からも、かすむほど遠方のくしの歯からも、その中間辺りのくしの歯からも、それら米粒の連なりがひっきりなしに飛び出していった。エレベーターの中にいると、外からの音は聞こえないが、かなり慌ただしい風景に思える。
――こんなに巨大な施設が、東京の永田町にあるなんて!
それは、ヨーロッパのどこかの巨大ターミナル駅と、製鉄所と、テーマパークのジェットコースター施設が一緒になったような場所……いや、やはり、そのどれとも違うような気もする。
エレベーターが三十階を切ると、くしの歯のように見えたものが何なのか、分かるようになってきた。
レールだ。
そして、くしの歯の付け根にあたる辺りのレールを、今、僕たちは見下ろしているのだった。
だんだん、米粒のように見えていたものの正体も分かってきた。それは、レール上に停止している、ジェットコースターのような、屋根のない列車のようだ。そして、列車に沿ってプラットホームがあって、その列車の周りで、人が慌ただしく働いている。並んで待っている人たちが、ホーム上の別の人の指示を受けて列車に次々と乗り込んでいるように見えた。
今、少し先のプラットホームから、列車が動き始めたのが見える。
――ああ、これはまさしくジェットコースターだ。
僕はそう思った。
ジェットコースターの車両一両につき、一人が座っている。プラットホームの先端近くに立っているメカニックが、手旗を前に倒して「発進」のジェスチャーをしていた。十両ほど連なった車両が動きを速めていく。
ほぼ地上階まで降りてきたエレベーターは、そこでシースルー部分が終わって、黒い壁に入り、減速し始めた。
後ろから新渡戸部長が静かに言う。
「KCJ・トーキョー・ローチング・ステーションだ」
エレベーターの扉が開いた。




