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ことだまカンパニー  作者: 今神栗八
第七章 ワーズ(二)
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第七章 ワーズ(二)(17)

十七


 今度は、サングラスの男の方がきょとんとした。そして、しばらく正面の【be子】をサングラス越しに眺めていたが、ついに笑い始めたのだった。


「ふっ、ふふっ、ふはははは、あはははは……。


“Don't be so bad!” (そんなに悪ぶるな)か。よくできたシャレだな……。だが俺はあいにく知的なものより、本能的なものに反応するんだ。来いよ【is子】、いや【be子】」


 男はにやけながら【be子】の伸びた手首をつかんで自分のところへ引き寄せようとした。


「やめなさいッ、いい加減になさい!」


 そう言ったのは、【be子】ではなくて、ユキだ。ユキが男の前に歩み出て来たので、万三郎と杏児も慌てて彼女の両横に並んだ。


 脚の痛みをこらえて立ち上がった【sinister】が、怒りに燃えて三人に近づき、因縁をつける。


「なんだぁ、今度はガキどもがシャレを言うのかあ?」


「うっ!」


 そのとき突然、サングラスの男の眉間に皺が寄った。


「ま、まさか……」


 茶色のレンズの向こうで男が目を凝らして見ていたのは、三人の男女の胸に光る金の鴨だった。


「い……ET……か!」


 そして彼は、【sinister】と【evil】に鋭い声色で言った。


「おいっ、お前ら、絶対に手を出すな!」


【sinister】は驚いて動きを止める。


 それから男は、金鴨をつけたユキをにらむようにして訊く。


「あんた、名前は?」


 極度のあがり症のユキは、震えながらも気丈に口ごたえする。


「そそそっちから名乗るのが、れれ礼儀でしょう」


 男はぐっとユキに近寄ったので、周辺の全員がすわと身構える。


「あんた、このほっぺたの字、読めるか」


 男はユキの目の前に自分の頬を近づけ、人差し指で示した。


「【bad!】……」


 つぶやくように言うユキに、男は大きめの声をかぶせて、ユキの目の前に、その人差し指を「!」のように垂直に立てて見せた。


「ベャアーッド、ハッ! だ。『!(エクスクラメーション・マーク)』がついているだろう。これが大事だ。KCJのワーズ社員には俺の他にも【bad】がいるが、この『!』のあるなしで俺と区別する」


 【bad!】はそう言うと、自分でサングラスを取った。切れ長の一重まぶたがピタリと、今度は万三郎の目の上に据えられた。


 【bad!】が低い声で凄みをきかせる。


「この店で俺達がやったこと、人事部にチクったら、あんたら、ただでは済まんぜ」


 万三郎はやっとの思いで【bad!】に答える。


「あ、あなたが、【do麻呂】さんと【be子】さんの関係を、人事部にばらすと言うなら、僕らもあなた方の暴挙を報告します。あなた方が言わないなら、私たちも言いません」


 【bad!】が数秒の間、目を細めてじっとこちらの目を見ている時、万三郎は猫に見すえられたねずみのように、身のすくむような恐怖に襲われていた。だが【bad!】は、ふっと笑うと再びサングラスをかけた。


「よし。取引成立だ。俺は名乗った。あんたら、名前は」


「中浜万三郎」


「三浦杏児」


「福沢由紀」


 【bad!】は三人の目を刺すような視線で順番に見て、静かに言った。


「覚えておこう。次に会う時は、もっと友好的に会えたらいいな」


 【bad!】は意味深な笑いを浮かべつつそう言うと、【evil】と【sinister】を従えて、店の入口にゆうゆうと歩いて行き、そこで凍ったように直立していた五郎八に、胸ポケットから再び札束を数枚出して受け取らせた。


「お嬢ちゃん、済まねえな。またやっちまった。これで許してくれ」


 【bad!】たちはそう言って「焼き鳥 いろは」を出て行った。

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