第七章 ワーズ(二)(15)
十五
「あっ!」
振り返った【do麻呂】も、事態を理解して告白を中断し、警戒の表情を浮かべた。
サングラスの男は事態を理解すると、にやりと片方の口辺を吊り上げて、おもむろに席を立った。あれから三十分以上経って、三人にかなりのアルコールが入り、先ほどまでの自制心が保たれているとはもはや信じがたい。
人々はおしゃべりをやめた。店内に再び緊張感が走る。
「ほう、誰かと思ったら、面白い取り合わせの二人じゃないか。好きだの眩しかっただの、えらくロマンチックな言葉が耳に入ってきたが、お前ら、一緒になっちゃ、KCJ的にマズいんじゃないのか?」
サングラスの男はしゃべりながらゆっくり歩み寄ってきた。その後ろに、【evil】と
【sinister】が従う。
「【be子】、お前、またいっそう綺麗になったな」
男の語りかけに【be子】は顔をそむけてそっけなく答えた。
「そう、それはどうも」
【do麻呂】が勇気を振り絞って、【be子】をかばうように前に出て言った。
「おい、あっち行けよ。今、大事な話、してんだから」
だが、サングラスの男の後ろから前に出てきた【evil】が、その【do麻呂】の肩をつかんで強引に横に避けさせた。【do麻呂】は抵抗したが、直衣姿のまま【evil】に羽交い絞めにされて動けなくなった。
「兄貴の話より大事な話ってのは、ない。【do麻呂】、覚えておけ」
サングラスの男はそう言う【evil】を手で制した。
「おい【evil】、手荒な真似はするなよ。さっき、ここのおやじに謝ったばかりだ」
【sinister】は、万三郎ら若い連中を、すごみを効かせて無言で睨め回す。サングラスの男は【be子】の目と鼻の先まで近づいてきて言った。
「【is子】とはしょっちゅう一緒に仕事してるぜ」
「あの子はあの子、あたしは関係ないわ」
恐怖の色を浮かべながらも、【be子】は気丈にそう言って脇を向いた。
男はフッと笑う。
「姉妹じゃねえか。関係なくはねえ。実際、【is子】によく似てるぜ、お前は」
男は【be子】のあごをつかんでクイと顔をこちらにむけさせる。【be子】は喉の奥で小さく「ヒッ」と言ったものの、それでも強がって口ごたえする。
「だからどうだっていうのよ」
「なあ、【be子】、そうつれなくするなよ。一緒に一夜過ごした仲じゃねえか」
男は【be子】のあごから頬へ、そして耳へとゆっくり指を移動させる。【be子】はそれを手で払いのけた。
「だからそれは、あたしじゃなくて、【is子】だって、以前から何回も言ってるでしょ!
人聞きの悪いこと言わないで」
男に食って掛かった【be子】は、身体を押さえられている【do麻呂】の方を向いて、懇願するように言った。
「【do麻呂】、信じて。あたしはそんなこと、してない」
杏児は唇をかみしめて【do麻呂】の様子をうかがう。
――多重人格者の【be子】会長が、【is子】の人格のときに本当にこの男に身を任せたのだとしたら、【do麻呂】先生は、【be子】を許せるのだろうか。
まったく時間をおかずに、【do麻呂】が【be子】に答えた。
「もちろん、君を信じてる」




