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ことだまカンパニー  作者: 今神栗八
第七章 ワーズ(二)
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第七章 ワーズ(二)(12)

十二


 三人目の男は、連れのチンピラ共とは違い、仕立ての良いアイボリーのスーツを着てネクタイを締めていた。ただ、外は夜だというのに、フレームの細いティアドロップ型のサングラスをかけていた。ブラウンカラーのレンズを通して、うっすらと目が見える。男は顔を上げて、声を震わせながら訴えるおやっさんを見ると、その場に立ち上がった。おやっさんは娘を背中にかばいながら男を見上げ、思わず後ずさりする。


 万三郎が目視でおやっさんの身長と比べると、サングラスの男は大きかった。【so太】の胸ぐらをつかんだ【evil】という男と同じくらいか、もっと大柄かもしれない。


 立ち上がった男は、おやっさんに頭を下げた。


「ご主人、申し訳なかった」


 おやっさんの驚いた顔をよそに、男はチンピラたちの方を向いてわずかに声を荒げた。


「おい、お前らもこっちへ来て、謝れ」


「……はい」


 【so太】から手を離した大柄な【evil】と、女の手をようやく離した、目つきの悪い【sinister】が、三人目の男のところへ寄ってきた。

 サングラスの男があごをしゃくると、二人は仕方なくおやっさんに向かって頭を下げた。


「この通り、二度と面倒起こさせませんので、今回は勘弁してやってもらえませんか」


 丁重にそう言ったサングラスの男は、スーツの内ポケットから財布を取り出すと、万札を十枚ほど束ねて、おやっさんの調理服の襟元へそっと差し入れた。


「こいつらが食器、割っちまって……」


 続いて男は【so太】たちのテーブルの方を向いた。


「あんたらにも、すまないことをした。ここの勘定は俺に支払わせてくれ」


 さらに店内をぐるりと見回しながら言う。


「お客さんたち、済まなかった。さあ、食事を続けてくれ」


 客は次第に、この男から自分たちの同席者に視線を戻していったが、喧騒が戻るにはなお時間が必要だった。あちこちのテーブルでひそひそと会話が再開されたのは、おやっさんが男のテーブルを片付けてから厨房に戻り、おかみさんが男たちにビールを運び、五郎八が床に散乱した料理や皿を片付け始めてからだった。


 三人のETは、カウンターから一部始終を見ていたが、その間、【be子】はジョッキを手にしたまま、男たちに丸めた背を向けていた。


 万三郎がその【be子】に声をかける。


「【be子】会長のお友達の【so太】さんたち、災難でしたね」


「シーッ! あたしの名前を言わないで。殴られた【pity(ピティ)】(可哀そうな)、大丈夫そう?」


「えっ、ええ、隣の【babester】さんが、その方の口元の血を拭ってあげています」


「そう。あいつらは、どうしてる?」


「あいつらって、あの三人ですか。今は静かに飲んでますよ。五郎八ちゃんがさらにビールお代わり持って行きました。【be子】会長、もう普通にして大丈夫みたいですよ」


 【be子】は押し殺した声で万三郎を叱った。


「あたしの名前を呼ばないでって言ってるでしょ! それと、五郎八ちゃんの手が空いたら、お勘定してってこっそり言って。大きな声で呼びとめたらダメよ、分かった?」


「わ、分かりました。でも今彼女、忙しそうです」


 【be子】は前を向いたまま失望したように肩をすくめて小さく手を広げた。

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