第七章 ワーズ(二)(10)
十
「五郎八ちゃん、ごちそうさん」
「はい、【bar-hopper】(飲み歩き好きな人)さま、【juicer】(大酒飲み)さま、またお越しください、お気をつけて! あ、いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「焼鳥いろは」の客足もピークを越えつつはあったが、三組帰れば二組が来店するといった感じで、各テーブルは二回転目の客を迎え始めた。あいかわらず、おやっさんとおかみさんは厨房にかかりっきりになっているし、五郎八も店内を忙しく駆けずり回っていた。
未来の上司たちとはいえ、まだ駆け出しの三人の若者と一緒に、久しぶりに着飾らない時間を過ごしている【be子】の口は滑らかに動き続けた。彼女は、店を変えて今の話題をリセットするつもりはないようだ。
早速【be子】への質問を再開した杏児も、そして他の二人も、リラックスはしているものの、アルコールの量を意識的にセーブしている。今日【be子】から、「あなたたち、あたしの話をもっと聴きたいなら、夕食一緒に食べてもいいわよ」と言われた時から、こんな忙しいワーズと時を過ごせるなんて、またとない勉強の機会だから今夜は酒におぼれまいと、みどり組の三人で事前に示し合わせていたのだ。
「妹たちがうらやましいと思うことも、あるわ。【I介】とラブラブな【am子】以外は、みんな恋多き人生を送ってるもの。あたしみたいに、報われない恋に執着してないもの……」
――いや、あなた。妹さんたちの人格で恋多き人、やってるんですよ!
突っ込みたくてもさすがにそうは言えない杏児や万三郎は、どんな言葉で【be子】を慰めてよいのやら分からずに、ただ【be子】同様、自分のビールジョッキを意味もなく見つめるはめになっていた。
【be子】がため息をついて口を開く。
「あたしが【do麻呂】と一緒に仕事できるのは、本当に限られた時だけ」
男性ETたちより幾分【be子】に共感気味のユキが優しく訊く。
「限られた時って、具体的にはどんな時なんですか」
その時だった。
「きゃああっ!」
テーブルの食器類が床に落ちて料理が飛び散り、女の叫び声が店内に響き渡った。喧騒は一瞬にして静まり返り、【be】子もETたちも店内の他の客も、皆が声の源を見た。




