第七章 ワーズ(二)(9)
九
ユキが共感してくれて嬉しかったのか、【be子】は、手元の竹筒に束になって入っていた、自分たちが食べ終えた焼鳥の串から一本引き出すと、串の根元を軽く指でつまんだ。そしてユキの手前にいる杏児に向け、手首のスナップを効かせて、串をクイッと前後に動かす素振りをした。
「彼も酔ってたからそんな風に言ったのかも知れないんだけどね。でも、売り言葉に買い言葉、ついにあたしもカッとなってしまって、串をプスリと、こう……」
「『プスリと』って、刺したんですか!」
串先を向けられた杏児が素っ頓狂な声を上げる。
「あたしも、仕返しに刺されたわよ」
【be子】は笑いながら、髪の上から自分の頬に串を刺すようなジェスチャーをした。
「ほ、本気で?」
【be子】は笑いながら、そんな馬鹿な、と手を振った。
「ふふふ、昔の話よ。やめておくわ」
しかし、杏児はユキを振り返って感慨深げにつぶやいた。
「なんか、誰かさんと同じ匂いを感じるなあ」
「な、何よ!」
ユキは、眉を吊り上げて杏児に喰ってかかった。
「終わったことを蒸し返すんなら、割り箸ででもペンででも、また刺すわよ」
ユキはそう言って、再び手にしていたペンを顔の横に立てて握って見せた。依然眉は上がっていたが、いくばくかの笑顔が混じっている。
「やめてくれ。僕にとっては、嘘が上手い女より、刺す女の方が怖い」
【be子】とユキは声を揃えて笑った。
反対側から万三郎が訊く。
「じゃあ、もう何年も経った今でも【do麻呂】先生は【be子】会長に嫉妬を?」
【be子】はため息をついた。
「分からない。今日のあの態度。どうなんだろう。今もまだ、そうなのかしら……。もし、そうだったら、あたし、どうしたらいいのか、分からない……」
そうつぶやいて、【be子】は寂しそうに微笑みながらカウンターに頬杖をついた。
万三郎は、そんな【be子】越しに杏児やユキと顔を見合わせた。
――【be子】会長、まだ【do麻呂】先生のことを……。
昼間の派手な振舞いからはおおよそ想像がつかない、【be子】のウブで一途な側面に触れて、三人は痛感していた。
――ワーズたちを深く知るには、しっかり語り合うことが必要なんだ……。
そこへ五郎八がビールを持ってきた。
「【be子】さん、おまちどおさま」
「あ、五郎八ちゃん、ありがと」
【be子】は表情から寂しさを消しきれないまま、五郎八を振り返って礼を言った。




