第七章 ワーズ(二)(7)
七
万三郎が確認する。
「その『好きな男』って……【do麻呂】先生のことですよね」
【be子】は頷いた。
「あたしは助動詞が好き。ありのままのあたしでいられるから」
杏児が首をひねる。
「でも……でも、他の助動詞はともかく、【do麻呂】先生は例外だとおっしゃっていたではないですか」
【be子】は寂しそうに笑った。
「杏ちゃん、【do麻呂】は、『自分は特別な助動詞だ』って言ってたでしょう?」
「はい、『役割はあっても意味はない助動詞だ』と」
「もう一つ特別な特徴があるの。【do麻呂】は、他の助動詞たちと違って、普段は『一般動詞』のワーズとだけ仕事するのよ。『be動詞』であるあたしとは、ほとんど一緒に仕事しないの」
杏児は少し思案する風だった。
「そういう意味でも、例外……」
「そう。あたしは彼とは、ほとんど会えない」
うーんと唸った万三郎が口を開く。
「シートレ編成に出動していない合い間の時間帯に、二人で会うことはできないのですか」
「【I介】と【am子】みたいな調子で、【do麻呂】とあたしが一緒にいるところをもし職場で見られたら大変な噂になっちゃうわ。一緒にいてはいけない禁断の恋だって」
「うーん、そうですかねえ……」
首を傾げる万三郎に【be子】は説明した。
「”~ing” を身にまとうとか、『不定詞の前のto』を伴うとかすれば、仕事で会っているとは思うんだけど、その時は直接顔を見ないから分からない。むき出しのあたしたちが直接現場で顔を合わせることはほとんどないわ。みんなそれを知ってるだけに、下手に一緒にいるところを見られると、すぐ噂になる」
ユキが訊く。
「それで、仕事が終わってから二人でこの店へ?」
「あたしたち、二人とも忙しいの。それでも、仕事が終わってお互いのタイミングが合う数少ない機会に、この店でよく会ってた。この店に来るのは、あたしたちの関係を知っていても、秘密を守ってくれる、信頼できる同僚たちばかりだったから」
【be子】はユキにそう答えて、向こうのテーブルでおしゃべりに夢中になっている【so太】たちを目で示した。
杏児が問いを重ねる。
「さっき、五郎八ちゃんが、長らく【do麻呂】さんを見てないって言ってましたけど……」
「そうね、少なくともあたしとは、もう長い間ここへは来てないわ」
杏児は即座に言う。
「今日、昼間会ったじゃないですか。やっぱり誘えばよかったんじゃないですか」
「彼の顔見たの、久しぶり」
必ずしも杏児への答えになっていない返答の後、【be子】はジョッキを傾ける。【be子】が飲み干すのを待って、万三郎が訊いた。
「今日、ワーズ・トークに呼ばれているということを、お互いに知らなかったのですか」
「あたしは知らなかったわ。おそらく彼も知らなかったのだと思う。登場して、あたしを認めてからのテンションがおかしかったもの。慌てて取り繕ってる感じだった」
「では、【do麻呂】先生も、新渡戸部長に二人の関係を悟られまいとして?」
「そうだと思う。いや、でも……」
「でも?」
「ひょっとしたら、そうじゃなくって、本気であたしを挑発していたのかも」




