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壁の目

最近、部屋の壁が気になってきた。

と言うのも、僕の部屋の壁に小さなシミができていたからだ。

僕の部屋にあるシミ、拳一つほどの、ちょうど僕の腰ぐらいの高さにある黒いシミ。

そのシミは八畳ほどの部屋の押入れの隣にある壁にできている。

その壁の向こうはお隣さんの部屋があるのだろう。

時々、ズリズリと何かを引きずるような音がしていた。

だが、音は聞こえるのだが姿は見たことがない。

ここのアパートに引っ越してきたときに挨拶に伺ったが留守だったのだろうか誰も出てはこなかった。

仕方なく後日に挨拶に伺いもしたのだが、その時も誰も出てこなかった。

僕はその時は空き家なのだろうと思っていたのだが、物音が聞こえてくるのだ、誰か住んでいるのだろう。

きっと僕が伺った時は二回ともタイミングが悪かったのだろう。

それとも多忙なのだろうか? とにかく、お隣さんには引っ越してきてから一度も会ったことがない。

今はこの薄気味悪いシミを消す物を探そう。

僕はそう思い狭い部屋の中から使えそうな物を探し始めた。


・・・・シミって消ゴムでも消えるのかな? 

シミがある壁の近くに置いてある書記机の上に昨日使っていた消ゴムが目についた。

とりあえず、一度試してみよう。

僕は消ゴムを掴み壁と向かい合った。

正面から見てみるとなんだか目みたいに見えてきたぞ。

そんなことを考えてしまったからなのか、背筋から嫌な汗が流れてくる。

僕は腰を屈め力を込めやすいように左手を壁につけた。

壁は壁でも土壁、ゴツゴツした表面に左手を押し付けているのだ、少し手が痛い。

だが、シミを消すためだ。そして、それほどの痛みを我慢できない程、僕は貧弱でもない。

僕は消ゴムを壁のシミに少々乱暴に擦り付けた。


やっぱり、消ゴムじゃ消えないかな? 床にいっぱい消しカスが落ちてはいるが・・・・

少しの間、壁に消ゴム擦り付け、シミが消えたかどうかを確認するため、消ゴムを壁から離した。


やっぱり、消ゴムじゃ消えないか・・・・

壁には変わらず気味が悪いシミが残っていた。

明日辺りにシミ消しを買ってこようか。

今、この部屋にある物ではこのシミは消せないようだ。

そうと分かったらもう寝ることにしよう。

僕は手にある消ゴムを机の上に投げ捨て、天井からぶら下がっている紐を引き電気を消し、引っ越してきてからずっと引きっぱなしの布団に倒れこんだ。暗闇の中で壁にある目のようなシミが僕を見てるのではないか、と考え、壁に背を向けて眠りについた。


翌朝、と言っても朝の10時。

僕が目覚めたと同時に見たものは壁のシミだった。

どうやら寝返りをうっていたようだ。

せっかくの休日、その始まりとも言える景色が壁にある気味の悪いシミだったのだ、しかも壁のシミは昨日の目のようなシミだけではなく変化していた。

シミが増えていたのだ。

目のようなシミの周りには、人間の輪郭のようなシミが新たに浮かび上がっていた。

そんなものを見てしまった僕の寝起きの姿は、きっと滑稽だっただろう。

壁のシミを見張るように見続け、気付けば11時になっていたのだから。

1時間も布団の中で固まっていたことに気付いた僕は、勢い良く布団をはね除け素早く服を着替え外に出た。


本当に気味が悪いシミだ。何かの呪いか? いや、呪いではないだろう。あれはシミだ、ただのシミだ。呪いなんてものがあってたまるものか。

僕はそう、自分に言い聞かせコンビニでシミ消しと雑巾を購入した。

もしかしたら、本当に口に出して言い聞かせていたのかも知れない。

そうだったのならば、僕は狂人だ。

心の中でだけ言い聞かせていたことを祈ろう、きっと口には出していないはずさ。

そんな間の抜けたことを考えながら玄関を開ける。靴を乱雑に脱ぎ捨て、部屋に入り恐る恐る壁を見る。

僕が出掛けている間にまた、増えてはいないだろうか? 

そんなことを考えていたが、壁のシミは朝と同じように、目のようなシミと輪郭のようなシミがあるだけだった。

少し安心した僕は一つ溜め息を吐いて、先程コンビニで購入してきたシミ消しを早速使おうと、雑巾を包装しているビニールを破る。

左手に雑巾を持ち、右手にシミ消しを持ち、さながら掃除業者になった気分だ。

僕は昨日のように腰を屈め、シミ消しを壁に吹き掛け雑巾で拭いていく。

心なしか、シミが薄くなった気がするぞ。続けてみるか。

何度も続けていくうちに、気味の悪いシミはみるみる消えていった。

ほら、やっぱりただのシミだったのだ。呪いなんてものは存在しないのだ。

時計の針が上を指す頃には、シミは綺麗に消えており引っ越してきた当初の頃の壁が目の前にあった。

これで安心できる、落ち着きを取り戻した自室は以前と違いどこか居心地が良く感じられた。

と言っても、もうやることが無くなってしまった。せっかくの休日とは言ったものの、僕に彼女はいないし遊びにいく用事も無い。

暇になった僕はおもむろにテレビの電源を付け、机に座り込んだ。

休日の正午のテレビ番組ほど暇なものはない気もするが、ニュースはちゃんと見ておかないといけないだろう。

すると、ちょうどニュース番組がやっていた、しかもこの近辺で起こった行方不明事件についてだ。


「赤武市の小学校に通う倉橋恵美ちゃんの行方がわからなくなって今日で1週間が経ちました。警察は誘拐された可能性が高いと見て、捜査を続けていますが倉橋恵美ちゃんは失語症であり、誘拐や監禁などされていた場合、助けを呼べないとのことで、捜査が難航しております。行方が分からなくなったときに着ていた服装は、ピンクのワンピース、茶色のランドセル。履いていた靴は黄色のスニーカーとのことです。」


画面にはニュースキャスターと、倉橋恵美ちゃんの写真が映っている。

僕は恵美ちゃんは何度か見たことがある。

僕の部屋の窓側の道路が通学路だったのだろうか、時々帰っている姿を覚えていた。

確かに今時の女の子には珍しく、物静かだったし友達と帰っているところは見たことがなかったが、失語症だったのか。

僕はそんなことを考えながら、ダラダラと残りの休日を過ごしていった。

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