第一章:夢-side:アリス—天使の王子2
あり得ない幻想を、カタチにする。
TiPs~世界の修復機構と、幻想励起
夢や幻といった虚構の類いは、在りもしない「存在」である。
どの世界にあっても、それを「それ」として観測したモノが居るはずも無い。
しかし、実際問題として、「それ」は在る。
「在り得ないから、望まれた。在りもしないから、語られた。だって、それが人の業だから。」
・・・・・・・そう、在り得ないが故に、「それ」は望まれた。
望まれた「それ」は、在り得ないが故に、虚構である。しかし、だからと言って、「それ」を想うことは、間違いなのだろうかーーー?
「無い物ねだりをするのが、人間って生き物なの。今此処に無いモノを、何時かの何処かに望むーーーそれが、人の在り方だと、私は思う」
厳粛なる世界を相手に、アリスは嘘をつこうと思う。
在りもしないものを、さも在るかのように語るのだ。そう、そして、「それ」に手を伸ばす。誰のためでもなく、自身が望むが故に。
「世界の調停者たる御身に、異議を申し立てる。この世界の在り方は、本来のそれで在りうるか?
ーーー惑え。あり得ざる虚構の成就を、今此処に。対価は、我。我の時を対価に、現世を沈めよーーー起動せよ、幻想励起の法!」
第一章:夢-side:アリス—天使の王子2
2度寝を阻止されたアリスはオルロに連れられ、城の中庭に降り立った。その際に「かったるい」とアリスが零したことは、ご愛嬌である。
そして、そんな2人の目の前には、半透明のブレードを生やした馬が三頭ほど荷馬車に繋がれていた。アリスからすると、「なんじゃこら?」である。
「さて、行こうか。行き先は、さきほど伝えた通りの、オルゾフ学院。この国が誇る優秀の教育機関だ。学者である君にとって、今日一日は十二分に実りある物になるだろうよ」
そう言いながら、そっとアリスの手を差し伸べるオルロ。彼の仕草は、いたって紳士的だ。しかしながら、アリスはそう言った形式張ったものが嫌いである。
とはいえ、アリスとて先方の申し出を無下にするわけにも行かない。
なぜなら、天使の王子様であるところのオルロ曰く、アリスが美人すぎるために、今回の学院一日体験入学を急遽取りはからってくれたとのこと。
その上、自らエスコートしてくれるとまで、言ってくれている。アリスからすれば、頼んでもない怠いイベントではあるが、一国の王子が、そこまで言ってくれるのだから、悪い気もしない。
それに、よく見るとオルロの顔面偏差値は高い方だと、アリスは思う。しかも、天使だ。元の世界に帰った時、酒の肴くらいにはなるだろうと、アリスはぼーっと考えていた。
しかしながら、困った話だとも、アリスは思う。異世界に飛ばされてそうそうに、こんなにモテモテでは、絶賛行方不明中の幼なじみに申し訳が立たないじゃないかと、アリスはーーーー?
「君の奇術に対抗出来る者が王族以外に居ないのは・・・・・・仕方ないとして、何故に俺なんだろうな? 母上も父上も、俺が第一王子であることを忘れてるんじゃないだろうか・・・・・・?」
・・・・・・天使の王子様に見初められた美少女ーーーアリスの妄想は、空気を読まない無骨な男のことばによって中断を余儀なくされた。
白けた視線を、アリスはオルロに向ける。
その視線に気づいたオルロは、「何だ?」と短く問いかけた。
「いえいえ、一国の王子様にしては、言葉遣いがなってないなーと思いまして?あとあと、単純に、あんたの態度が気に入らない。だいたい、私の二度寝止めて外に連れ出したの、王子様じゃん。なのに、張本人が何でやる気ないの?」
「堅苦しい言葉遣いは、君が辞めてくれと言ったはずだが? あと、他人は自身の鏡とも言う。俺の振る舞いを見て思うところがあるなら、君自身の襟を正すのが先じゃないのか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ふむと、アリスは思う。
アリスは、自身が非常に自己中心的な人間であることを自覚していた。もちろん、他人にそれを指摘されたからと言って、襟を正す気など、さらさら起こらない。
しかしながらアリスにとって、彼女の性悪を初対面から指摘する存在は、中々に希有なものだった。特に、アリスが魔法使いに認定されて以来、初めてのことである。
これを機に、アリスはオルロという存在を認識するに至ったのであった。
次回は箱庭師のお話。