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link  作者: blue birds
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第一章:夢-side:オルロ—異世界の技術士2

嘘つきの魔法使いと、嘘つきの天使。2人は、嘘が嘘であることを知った上で、それを言葉にします。


けれど、その2人の嘘はかけ離れた場所にあります。

TiPs~あと少しの未来:嘘つきの魔法使いと、贖罪の天使


それが「嘘」であることを、アリスは理解していた。しかし、それが「間違い」であるとは思えなかったのである。故にこそ、アリスは魔法を紡ぐのだ。どれだけ世界から否定されようと、アリスは「それ」を言葉にする。


「幸せに、なれるよんだよ。人は、幸せになれる。そして、人は自分以外の誰かを幸せに出来る」



アリスの口から溢れる「嘘」を、ソフィアは嗤った。アリスのそれは現実を無視した理想論であり、親が子供に読み聞かせる童話の類いと大差がなかったのである。


そう、ソフィアは、アリスが口にする「嘘」を、心の底からくだらないと思ったのだ。そして、涙を流した。アリスの口にした「それ」がどうしようもなく「嘘」であること、そして、自分がそれを嗤えることがーーーそれらの事実が、ソフィアに悲痛を与えたのである。


「私の吐く言葉は「嘘」だけど、「間違い」じゃないよ。そう思えるから、私は言葉にするの。間違いじゃない嘘が嘘なのは、世界の在り方が間違ってるから。だから、私は世界に魔法を掛ける。嘘が、本当になりますようにって。それが、私の魔法なの」



嘘が嘘であることを、アリスは知っていた。そして、それはソフィアとて同様だった。そんな両者の間にあった差異は、たった一点。それはーーー



「私は、アリスみたいに強くないんです・・・・・・・だって! だって、私の「嘘」はーーーー!!!」



第一章:夢-side:オルロ—異世界の技術士2



「さて、二度寝でもするか」と再びパジャマに袖を通したアリスの元に、王子様がやって来た。それは勿論、アリスを優しいキスで起こすためではない。


「・・・・・・なぜ、あなたは再び寝間着を着用しているのですか?」


王子様ーーーもとい、オルロは自身の動揺を表に出さずに、淡々とアリスに質問を投げかけた。しかし、内心は不可思議のそれで一杯である。なぜなら、目の前の少女はさきほど国賓として、自分と共に食事をとっていたはずなのだ。本来なら、目の前の少女の一日はそこから始まるはずなのである。


しかし、現実は理解し難い光景だ。何故か少女は、今朝脱ぎ捨てたはずの寝間着に再度袖を通し、枕をセットしていたのである。もはや彼女がこれから寝るつもりであることを否定する材料は、何一つ見当たらない・・・・・・・のだが、それでもオルロは問うた。動揺を隠して、問いただしたのだ。それが、一国を背負う王子としてのつとめだったのである。



「え? なんでって、寝るんだけど・・・・・・・・ダメだった? だって、わたし、他にすること無いし・・・・・・?」



オルロの目の前で、キョトンとした表情を見せるアリス。

アリスの表情に、オルロは邪気を見いだせずに居た。


幾度の政治的な局面に臨んで来たオルロですら、アリスの表情に「驚き」以外の思惑を見て取れない。アリスは正に、二度寝を止められたことに、驚いていたのである。



「アリス様は、一緒に飛ばされて来たご友人をお捜しになると伺っておりましたが・・・・・違いましたか?」


オルロは朝食の席にて、彼女が王にそう進言したことを確認している。

彼女以外の異界の存在が、この世界に紛れ込んでいる・・・・・・それを、彼女自身が一刻も早く探し出したいと言っていたはずなのだが・・・・・・・



「う〜ん、よく考えたら、イツキさんがいる時点で大事にはならないし、明日でも良いかなって思って。それに、ユーダイクスのことだから、自分の身は自分で守れるよ」


「・・・・・・」



天真爛漫を地で異界の技術士ーーーもとい、アリスという名の少女を前にして、一国の王子であるオルロは、絶句する以外の手段を持ち合わせていなかった。彼がアリスを説得して外に連れ出すまで、あと数刻の猶予が必要である。




第一章:夢-side:ユーダイクス—天使の都2


自分の前をテクテク歩くソフィアという名の少女は、えらく町の住民に愛されているらしい・・・・・・ということが、ユーダイクスに理解出来た唯一無二の事象だった。


「おはよう、ソフィちゃん。 今朝は遅いのね? 昨晩お父さんの怒鳴り声が響いてたけど、何かあったの?」


さほど大きくない通りは、無数の露天で溢れ帰っていた。そのほとんどが食材を扱う店らしいのだが、1つの店あたりが扱う品目は非常に少ない。多くても、3~4品がほとんどだ。そんな露天の中にあって、卵らしき何かを商品棚に構えていた女性が、ソフィアを見かけるなり駆け寄って来た。その顔には、若干の心配の色が見て取れる。


「おはようございます、セラさん。家は別に何もありまんよ? お父さんが怒鳴ってた理由は、分かりません。寝ぼけてたんじゃないでしょうか? あれで、私も変な時間に叩き起こされちゃったんです。おかげで、今朝はちょっと寝坊を・・・・・・」


投げかけられる問いに、「心配をおかけして申し訳ありません」と返すソフィア。その平凡な言葉を信じたらしい女性は、「なら良いのだけれど」と笑みをこぼした。


「・・・・・・」


そんな仲睦まじい光景を、さきほどからユーダイクスは無言で見守っていた。

その結果、ユーダイクスは、目の前の少女がどれだけ町民から愛されているかを知ったのだ。


さきほどから一歩と言わずとも、ソフィアが数歩でも歩けば、多種多様な住人達が、彼女に同様の質問を投げかける。そして、これらの度重なる質問に対し、ソフィアは苦笑と共に無邪気な笑顔で応えていた。


ソフィアに話しかける彼らの見た目は、それを静観するユーダイクスのそれと変わりはしない。上空の天使と違い、無機質な翼を持ち合わせていないように見える・・・・・・しかし、彼らは上空を高速で移動する天使に対し、全くといってよいほどに、興味を示さない。つまりは、目の前の彼らも必要に応じて、翼を展開出来るタイプの天使なのだろうーーーと、ユーダイクスは推測した。



「ところで、そこの坊ちゃんは誰なんだい? 見かけない子だね? ひょっとして、ソフィアちゃんの良い人?」



・・・・・・まあ、ソフィアの後を金魚のフンのようについて回っているのだから、当然のように話題はユーダイクスにも及ぶ。そして、ソフィアとユーダイクスを取り巻く人々の視線がユーダイクスに集中したところで・・・・・・



「・・・・・・親戚の子です。クルフィックスの出身なんですけど、ちょっと事情があって、昨日から、家に遊びに来てるんです」


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」




ーーーーーソフィアの一言で、周囲の喧噪が波を打ったように静かになった。

彼らのことごとくが、ユーダイクスを悲哀のまなざしで見つめている。



(クルフィックス出身と聞いただけで、この反応だからな・・・・・・彼らの言うように、その地は本当に戦時下にあるわけか)



クルフィックスーーーーそれは、この国の最南端に位置する地域の名であった。しかし、それも昔の話だ。聞くところによると、今はこの国領土では無いとのこと。現状においては、三国が入り乱れる戦場の緩衝地帯と化しているらしい。


そんなところから、ふらりと親戚を尋ねて来たよそ者ーーーーユーダイクス。そんなものは、端から聞けば、ユーダイクスという戦争孤児が戦火を逃れてこの町へ来たようにも聞こえる。

さらに言うなら、それだけ南の戦況が悪化しても「仕方の無い状況」であることが、彼らの表情から伺い知れる。


そして、この話題が上がるたびに活気の良かった住民達は心痛な面持ちで本来自分達があるべき場所に無言で戻って行く。



さきほどから、これの、繰り返しだった。

ユーダイクスのことを聞かれるたびに、ソフィアは苦笑とともに、「嘘」を吐くのだ。嘘を吐いて、ユーダイクスの素性を隠してくれる。ユーダイクスが、「異世界の者」であることを、秘匿してくれる。それは、ユーダイクスにとっても非常にありがたいことではあったのだが・・・・・・それにしても、だ。



(息を吐くように、嘘を吐くーーーか。アリスも大概だけど、彼女の方が業は深いな・・・・・・ってか、アリスは大丈夫か? 一刻も早く合流する必要があるけど、この状況ではな・・・・・・)


笑顔で嘘を吐く天使、ソフィアを見てーーーユーダイクスは、自身同様に飛ばされたはずのアリスの身を案じた。純粋に、彼は幼なじみの身の安否を気遣ったのだ。しかし、このときの彼はまだ知らない。当のアリスはとある事情から完全に安全圏にあり、かつ、ユーダイクスの身の安否を気にしつつも二度寝しようと枕を整えていることに・・・・・・







次回は、箱庭の王様のお話です。

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