表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
link  作者: blue birds
7/9

第一章:夢-side:アリス—天使の王子1

虚構な平和を守る、天使の王子様。そして、本物の魔法に背を向けた、嘘つきの魔法使い。2人は、1人の魔法使いにより結びつけられます。そのことを、2人は未だ知りません。

TiPs1~無限想歌:真名励起


 真名は、マナとも表記される、命の源泉である。


 多くの場合、真名は不定形であることが多い。これは、その「呼び方」が一定でないという意味であり、つまるところ、「真名」とは、真の意味での、「存在の識別記号」なのである。


 マナを用いて世界に干渉する魔法及び魔術は、その施行が詠唱呪文と独立して成立する。裏を返せば、詠唱呪文を唱えたところで、それが「真名」でなければ、何ら意味はないのである。


 一般的な魔法や魔術は、真の理解がなくとも「真名」へと至ることが出来る。しかし、真の意味の奇跡たる「魔の法」を行使するには、真名へと。つまりは、その存在の根幹へと至らなければならない。


 ……昨今の魔法使いには、言葉自体がまるで魔法そのものであるかのように唱える者が多い。本当に、嘆かわしいことで————








TipS2~原初の魔法:幸せの




 「かなえ、こっちだ!」と、

 七五三のつまらなさにブーたれている私に、父がカメラと笑顔を向ける。





 「かな、猫さんの手」と、

 小学校に上がったばかりの私に、母が炊事のイロハを教えてくれる。





 「木下、放課後職員室に来い」と、

 三日連続で遅刻した私を担任が呼び出した。中学校での、苦い思い出だ。




 「かなちゃん、一緒大学に行けるといいね」と、

 幼稚園来の親友が、ホッカイロをもふもふしつつ、参考書から目をそらしている。




 「かーな、おめでとう!」と、

 従兄弟の優香が生まれたばかりの息子を胸に抱き、祝福の言葉をかけてくれる。





 そして。





 「おい」と、

 相も変わらず無口で無愛想な夫が、そう私に呼びかけ、年老いて足が不自由になった私に、手を差し伸ばしている。

 そんな夫は、苦楽をともにすると誓ったあの日のままーーーだ。

 そして、そんな夫に、私は再び恋をする。








 ……いつからか、私の名は「おい」となった。

 それは多分、死に間際に私が聞くことになるーーー私の、最後の名だ。


 私の人生の中で、私にはいくつもの名があった。

 そしてそれらは、思い出とともに、いいことも悪いことも全部ひっくるめて、今も私の中に。






 だからこそ、想うことがある。







 名をーーー呼ぶということ。誰かの名を、呼ぶということ。

 それは、原初の魔法なのだと。それは、誰かを祝福する声なのだと。




 そう、想えるからこそ、私はーーー




第一章:夢-side:アリス—天使の王子1


城のテラスから臨む光景は、天使の世界だった。

町の住人は、皆が皆当たり前のように半透明な翼を広げ、空の道を通じてどこかへと向かっていた。翼自体は鳥のそれと違い、羽ばたくことはない。遠目には、静止しているように見える。


加えて、道ばたにも人影が見えるものの、彼らは物資を調達する主婦っぽい人たちがほとんどだ。彼女らも、目的の物が手に入るとすぐに、空の道へと帰って行く。


また、彼らの服装は自分たちの世界のそれとは違い、質素なシャツとジーンズがほとんどみたいだ。さらに言えば、どこぞの世界とも違い、やたらと重量感溢れる金ぴかの修飾も、堅苦しいネクタイなんかも無い。シンプル・イズ・ザベストを地でいくアリスからすれば、非常に親近感の湧く世界だった。


しかし、この世界はアリスの世界では無い。アリスの知らない、未知の世界だ。そう、未知の世界。魔法使いの世界ではなく、天使の世界。けれど、どんな世界にも、魔法はある。どの世界に行っても、必ずかけられる魔法ーーーそれが、朝の日差しとともに、アリスの心に掛けられた。


「おはようございます、アリス様。お食事の用意ができました。「早朝の間」へ、お越し下さい。」


振り返ると、昨晩からお世話になっている給使さんの姿が在った。彼女は深々と頭を下げているため、その表情を伺い知ることが出来ない。そのことが、ほんの少しだけ、アリスには寂しく思えた。


けれど、それはそれだ。いずれ、自分は彼女と笑顔で「おはよう」と言える仲になる。だから、今はこれで良いんだと、アリスは自分に言い聞かせる。そして、応えるのだ。


「おはようございます、ルシフェルさん・・・・・・っていうか、様は辞めて欲しいな〜私、ただの流れ者なんだから!」


自身が掛けられた魔法に、アリスはほんの少しだけ嬉しくなる。そして、思うのだ。やっぱり、魔法は良い物だと。


本来、魔法使いは他者から魔法を掛けられてはならない。なぜなら、たいていの場合、そこには「悪意」が込められているから。他者をねたみ、引きずり下ろす。そのために、「魔法」を使う。言霊を、使う。自身を包み込む世界に、「かく在れ」と語りかける。それが、自身の故郷ではびこる魔法だった。少なくとも、アリスよりも遥かに格式高い御家の方々は、口々にその魔法を唱えていた。だから、あの世界ではそれが「本物の魔法」だった。お偉いさんが言うんだから、そうなんだ。そういうふうに、定義されていた。


・・・・・でも、アリスは気に入らなかった。というか、いまいちピンと来なかったというのが、本当のところだ。少なくとも、だからこそ、アリスはうそっぱちの魔法を掛ける。しかしそれは、嘘を生業とする虚言の魔法使いにとって数少ない、本物の魔法でもあった。


「んふふ、おはよう! ルシフェルさん、おはよう!」


頭上から降り掛かる「おはよう」の連発に、給使のルシフェルはそっと目線をあげた。そこには、ニコニコ顔の少女が一人。国賓というにはあまりに礼儀が幼く、少女というには分不相応な笑顔で・・・・・・少女は、朝日を背に微笑みかけていたのだった。




朝食をとり終えたアリスは、むくれていた。それには幾ばくかの理由があるが、それらの仲でも一番の原因は、国王が彼女に求めた「国賓としての在り方」だ。


「私たちが、君に望むことは3つのみ。1つは、異世界の存在であることを悟られないこと。2つ目が、盗みを働かないこと。3つ目が、我が国民を傷つけないことだ。これだけの条件を飲んでくれるなら、イツキ殿同様に国を自由に回ってもらってかまわない」


朝食時に発せられた国王からのお達し・・・・・・まあ、一番最初の頼みは分かると、アリスは思う。自分だって、そんな話を余所の世界で吹いて回るほどアホでは無いーーーーが、問題は、それ以降の2つだ。それはつまり、「盗みを働くな、人を傷つけるな」ーーーそんなこと、言われんでも分かっとるわいと、のど仏まで出かかった言の葉を、アリスは濃厚な牛乳と一緒に飲み込んだ。しかし、このときのアリスは、まさかの初日で自分が「全て」のお達しを彼方にぶん投げる結果になるとは、知る由もない。



「いや〜、でも、よかったね、アリス。昨晩の件は不問に帰せてもらえたみたいじゃない? さっすが、国賓様だね?」


ケラケラとアリスの横で笑う人物を、ジト目でアリスは見つめる。自分よりも頭一個分身長が高い人物ーーー「世界移動の魔法使い、イツキ」に向かって、アリスは恨み言を吐いた。



「イツキさん、絶対バカにしているでしょ。何よ、盗むな怪我させるなって。私、猛獣かなにか!? ねぇ、わたしって、そんなふうに見える? こんなか弱い女の子に対して、おかしいよね? ねぇ? 私が言ってること、おかしい? てか、そもそもこんなことになったのって、イツキさんの所為じゃん! なんで笑ってんの!?」



 自分の頭一個分下でピーチクパーチク騒ぎ立てる小動物を見て、イツキは穏やかな気持ちになる。目の前の小動物は、昨晩何の前触れも無く王族の夕食に乱入し、その場に居た騎士全員を昏睡させた前科を持つ。


・・・・・・本来、一国の王に肉薄するほどの距離にこつ然と現れ、周りに居た兵士達のほぼ全てを無力化した人物を、人は「無害」とは呼ばない。そんな常識を、目の前の小動物は持っていないのである・・・・・・が、しかし、それは他者に対する敵意が小さいことの裏返しだと、イツキは思っている。そして、魔法使いの世界に在って、そう在ることを選んだ目の前の少女を、イツキは誇らしく思う。


まあ、その反面、多少心配では在るのだけれど。



「う〜ん、ていうか、私のせいだけじゃないよ。そりゃ、アリス達を「召喚」したのは私だけど、意図したことじゃなくて、事故みたいなもんだし。それに、アリス達の方が力量が上なら、呼び出されてたのは私の方だったかもよ?」



アリスの恨み言に、素知らぬ顔で返す世界移動の魔法使い。そんな彼女を前に、アリスは再度口を尖らせる。



「イツキさんに勝てるわけ無いじゃん! ユーダイクスならともかく、なんで私が勝てるのよ・・・・・・でも、びっくりしたよ。まさか、召喚術使ってて、自分が呼び出されることになるとは夢にも思わなかったし」



いや〜ほんと心臓止まると思いましたと、アリスは再度口から零した。彼女にしては珍しく、「思いました」である。丁寧語である。これは、普段の彼女からすれば珍しい現象だ。



それに、若干、それを口にするアリスの目は空ろだ。しかし、それも仕方の無いことだろう。なにせ、アリスからすれば「その辺のものを取る」感覚で使った魔術が、自分の戦場に放り込んだのである。流れ来る光玉に、弾ける世界と轟く轟音。いざ魔法を使って自身を守ろうにも、魔法が無いこの世界では、それも叶わない。もはや、それを絶望と言わずになんと言えば良いのか。



「まあ、私もびっくりしたよ。私が召喚術使ったとたん、いきなり城が蜂の巣つついたみたいになったんだから。召喚用のゲートとパス作った時、確かになにかとぶつかった違和感はあったからね・・・・・・まあ、アリスとユーダイクスが作ったパスと思わな方けど・・・・・・何にせよ、ヤバいの寄せちゃったと思って、あやうく夜逃げするところだった。そう言う意味では、アリスで良かったよ。ほんとうに、不幸中の幸いだね」



アリスの前で、カラカラと笑う至高の魔法使い。時と空間を自在に行き来する、生ける伝説。なんで、時空をいじれるのに、夜逃げとかセコいこと考えるんだろうと、アリスは思う。そして、そんな人外を前にして、アリスはため息を漏らした。



「ほんと、魔法使いって自分本位なのが多いけど、イツキさんも大概だよ・・・・・まあ、他の連中に比べたら、何百億倍もマシだとおもけど」


溜息を漏らすアリスに、「おまえもな〜」と内心で呟くイツキ。

結局のところ、彼女ら2人はどこまで行ったところで、魔法使いだったのである。




第一章:夢-side:オルロ—異世界の技術士1


部屋から眺める王都に、異常はなかった。

空に昇る太陽も、昨日のそれだ。テラスに出れば、季節特有の暖かく乾いた是を感じることが出来た。オルロの五感を信じるならば、そこにある世界はこれまで通りの正常だ。しかし、実際問題として、昨日と今日では天と地ほどに、政情が揺れていた。表に出ていないだけで、国の根幹を揺るがす事態は粛々と進んでいるのである。


「・・・・・・」


空に穴があいてるんじゃないかと、オルロは空を見上げた。

いつだって、予想しない物は空から降ってくる。昨晩の彼女にしてもしかり、その前の吾人にしても然りである。そうであるならば、空に穴の1つでも空いていて良さそうなものであるが・・・・・・残念ながら、その様子は無い。



「・・・・・・」



昨晩のことに、オルロは想いを馳せる。自身を含めた王族の三者のみが耐えることが出来た、「あの戦術」。そして、翼を展開すること無く空を渡る——ー空間を跳躍する、「あの異能」。




「魔法使い・・・・・・か。空渡りと、集団催眠。両者が揃えば、現在の戦況は一変する。」



オルロは、決意の瞳で王都を見下ろす。そこには、平和という虚構に満ちた、1つの箱庭があった。その直ぐそばでは、別の国との小競り合いが今も続いている。そして、これから先も続くことになるだろう。


誰かが・・・・・・絶対的な誰かが、「この世界」を1つの意志に治めるまでは。目の前の平和はただの虚構でしかないのだと、天使の王子は自身に言い聞かせたのだ。


嘘つきの次は、罪人達のお話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ