表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
link  作者: blue birds
4/9

第一章:夢-side:ユーダイクス—プロローグ

誰かのために、生きる。その危険性を、少年は知っています。

第一章:夢-side:少しだけ、昔の話:ユーダイクス—プロローグ


どこかの誰かのために、命をかけることが出来る人だった。

いつかの誰かのために、その身を捧げることが出来る人だった。

しまいには、居るかも分からない誰かのために、その人は微笑むことが出来る女性ひとだった。


だから、僕は彼女を尊敬していたんだ。

なのに、あいつは彼女にとんでもない言葉を浴びせた。


他人ひとのために生きるって、楽だよね。だって、それって結局、何でも他人のせいに出来るってことだもの。私はーーーアリスは、そんなの、おかしいと思う」



僕の幼なじみは、偉大な魔法使いの崇高な理想を、拙い言葉で切り捨てた。

そんな稚拙な願いを、世界移動の魔法使いは、琥珀色の微笑みで見つめる。



「私たちは、自分以外の誰のためにも生きられないでしょ? だって、私たちが想えることは、私たちが想えることだけなんだもの。私は、私でしかない。私から生じた願いは、どう転んだって私のもの。だったら、その願いが還る場所は、私以外無いはず。」


自身から生じた願いの根源に他人を据えるなと、アリスは言った。

自分の生き方の根本を、他人任せにするなとアリスは怒った。

そう、アリスは怒っていたのだ。他の誰のためでもなく————彼女は、「目の前の他人の幸せ」を願って、怒っていたのだ。


誰かを想って、自分勝手に腹を立てる友人。

その2つは、稚拙な矛盾だった。幼稚で救いようの無い、身勝手な願いだった。

でも、僕は、そんな幼なじみをーーーーーーーーー笑うことが出来なかったんだ。






第一章:夢-side:ユーダイクス—プロローグ


振り下ろされる拳に一切の容赦はなかった。

もう、ぼっこぼこだった。死ぬんじゃないかと思った。

でも、案外人は丈夫だ。その証拠に、僕はまだ、生きている。


・・・・・・簀巻きにされて。


「さて、坊主。今から、俺はお前の親御さんと話をつけなきゃならない。言ってる意味、分かるな? さあ、お前はどこのもんだ? 名前は? 階級は? ほら、さっさと白状しやがれ!!!」



泣きはらした少女は、未だに母親の胸に顔を埋めてすすり泣いていた。

就寝中の身で見知らぬ男にマウント取られたことが、よほど堪えたと見える・・・・・・まあ、そりゃそうか。そりゃあ、そうですよね・・・・・・・


そして、泣き止まぬ少女を胸にかき抱きながら、母親らしき人が僕を睨みつけている・・・・・・こちらも、仕方ない。どう考えたって、僕が悪い。


そしてそして、憤怒の化身が、目の前に。おそらくだが、少女の親父さんだろうな・・・・・・全然似てないけど。



「僕の両親は、この世界には居ません」


一言、ぽつりと呟いた。

瞬間に、ピクリとその場に居る全員の視線がーーー僕に、突き刺さる。


ふいに、泣きじゃくる少女と目が合った。

理不尽男のせいで泣きじゃくったために顔はむくれているけれど、生来はとても綺麗な作りであることが予想された。瞳の色は、アリスと同じブルーサファイヤだ。そんなところだけで、今は彼女に親近感が湧くーーー向こうは、そんなもの望んでいないだろうけど。



「・・・・・・戦争孤児か? なら、保護者で良い。施設を教えろ。西区か? 北区か? どっちから逃げて来たんだ?」



親父さんの怒りの質がーーー変化していた。先ほどのまでの怒りは、明らかに僕に向けられていた。理由は、さも有りなんだ。けれど、今は少しだけ違う。彼が怒っていることに変わりはないけれど、今の怒りは、世界に向けられていた。僕以外の、世界に。この、大きなーーーーどことも知れない、未知の世界に向けられていた。


しかし、それも数刻のこと。なぜなら、真実がそれを許さないからだ。



「西でも北でもない、もっと別の場所から来ました。此処とは違う、世界です。そこに、僕の両親は居ます。もしあなたが望むのなら、僕たちは次元を渡らなかればならない・・・・・・・・」



振り上げられる拳が、さっきより数倍に膨れ上がって見えた。

いや、文字通り、膨れ上がっていた。


そして、親父さんの背中には2対の透明な「何か」が展開されている。

そこから流れ込む「何か」が、親父さんの拳を形態変化させていた。


膨れ上がる血管と、拳。

「あれ」は、致死だ。

「それ」は、許容出来ない。



「歯を食いしばれ、小僧。こちとら最下層民で身分は最低だが、気概まで地べたを這いずった覚えは無い。お前が何階級だろうが、報いは受けてもらう」



振り下ろされる拳に、込められる怒気。

そこに一切の殺意は無いーーーーおろらく、「あれ」は、この世界の常識の範疇なのだろう。しかし、僕はこの世界の例外だ。そう、僕は、この世界の存在では無い。


「あれ」を、僕は受け止めることが出来ない。

「あれ」を受け止められる戦術式を、今の僕は持ち合わせていない。


「起動。彼の者と我は同意。かく在れ」



床を砕く音を背後に、僕は着地した。

ーーーー許容出来ない、目眩がする。本来ならあり得るべくも無い事象だが、ここは見知らぬ世界だ。簡易術式とは言え、空間転移はリスキーだと悟る。しかし、今の僕にはこれ以外の回避手段は無い。これがダメなら、僕は、やるしかなくなるのだけれど・・・・・・




「空間跳躍・・・・・・? あなたはーーーーいえ、あなた様はまさかーーーー」






声が、遠い。遠くで、声が木霊している。

代わりに、僕の意識が沈んでいく。深く深く、まどろみヘとーーー世界は閉ざされ、僕はしばしの眠りについたのだった。




次は、天使の王子様に視点が移ります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ