第一章:少しだけ、先の未来-side:アリス—プロローグ
虚言の魔法使いは、天使と出会います。
それの、意味を知らずに。
TiPs~希望の生まれでる場所
永遠なんて、どこにも無いんだよ。
たぶん、変わらないものなんて無い。
だからこそ、変えられないものも、同じように無いんだと思う------それが、私の希望なの。
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ーbeginning of beginning ー
「なんでもできるんだよ!」と、彼女は言った。
「じゃあ、何をするの?」と、僕は問いかけた。
「何をするべきかな?」と、彼女は笑った。
ーto the storyー
第一章:少しだけ、先の未来-side:アリス—プロローグ
「繋げるって行為は、とても危険なんだよね。それはある種の、境界を取っ払う秘技にも等しいんだから。だから、ダメ。いくらあなたでも、この件に関してだけは、協力出来ない」
アリスは、自身が魔法使いであることを理解していた。
同時に、目の前の友人が――一国の王族であることも。
そして、それぞれの「護るべきもの」が「異なる」ことも、十二分に理解していた。
「現状を理解した上で、君たちは僕の申し出を拒むのか? 僕らは、異分子である君たちに対し、精一杯の誠実で応えてきたつもりだ。確かに、君たちに僕らを手助けをする義務はない。だが、義理はあるだろう? なぜ、だ? なぜ、拒む?」
場を、静寂が包む。
ピリピリとした空気ではなく、凛とした透明な重圧が、アリスとユーダイクスへと降り注いだ。
アリスは現状から、「殺し合いになるもやむなし」と判断した。
すでにユーダイクスは臨戦態勢に入っている。この時点で、自分達が敗北することはない。
やろうと思えば、殺れる――――しかし、その決断を抑止しているのは、隣にあるもう一人の友人――ソフィアの息づかいだった。
「あなたが望む「空間転移の法」は、単純に「移動に掛かる労力を省く」以上の意味を持ってる。それくらい、理解しているはずだよ。「好きなとき」に「好きな場所へ行ける力」は、境界を曖昧にするの。
それこそ、戦術的に用いれば――――まさに、あなたが望むような戦果が得られる。特に、この世界にない技術なのだから、やられる向こうさんも対処のしようがないしね」
そうしたら、あなた達は戦争には勝利するでしょうねと、アリスは続けた。
そして、滅ぶでしょうねとも、零す。
「滅ぶ? 何を言っている? 今回の戦で敵を制圧出来れば、ひとまずの平穏が手に入る。僕らは、彼らとは違う。温情がある。例え敗戦国の民であったとしても、彼らを蔑ろにするつもりはない。むしろ、共に歩んでいける道を切り開くつもりだ。しかし、それには勝たなければならない。まずは、勝たなければならないんだ! この戦争が終われば、平和が訪れる。そうすれば、君たちの技術を平和利用することだって出来るはず! 何事にも二面性があると言ったのは、君だろう? 技術そのものに、善悪はない。それを持つのは人だ! 正しく使えば、それこそ、この技術を「文字の読み書きと同じように」民へと普及出来れば――――」
声を荒げて、オルロはアリスに詰め寄った。
そこにあるのは民を護りたいだけの、善良な王子の姿だった。
善良な市民を護ろうとする、善良な王子――そこに、一切の間違いはない。
けれど、それとは無関係に、彼らの中に「悪意の苗床」は存在する。
「人は、耐えられないよ。少なくとも、私たちの故郷は――――耐えられなかった。はっきり言って、この世界の歴史は、私たちの世界のそれを、なぞろうとしている・・・・・・この技術を平和利用するって言ったよね? その考え方が、私たちの世界を滅ぼしたの。
民間レベルに下りた「空間転移の法」は、経済から「流通」の概念を駆逐した。言ってる意味、分かる? 私の言う二面性って言うのは、そう言うことなの・・・・・・・でも、関係ないか。切羽詰まってるもんね。でも、だから、渡せない。あなた達には、この技術は――――死んでも渡さないよ」
第一章:お食事中に、こんにちは-side:ソフィア―始まりの夜
お食事中だったということくらいは、アリスにも分かった。
というか、分かったのはそれくらいだった。
それ以上を思考する前に、アリスは、彼女自身が踏みつけたクロステーブルを体重移動とともに蹴り上げるしかなかったのだ。そうでもしなければ、光玉に触れて粉々になっていたのはテーブルではなく、彼女自身だったのだから。
「陣を組め! 王に指一本たりとて触れさせるな!!!」
怒号とともに吹き荒れるのは敵意の嵐。それはもっぱら、自分に注がれている——と、アリスは感じた。
大概のことには無頓着な彼女も、今回のことばかりは「そんなのどうでもいいじゃん」で済む気がしない。
「ちょっと、話し合いましょう。話し合えば、お互いに分かり合えると思うんです!??」
開いた口を閉じる前に、アリスは横っ飛びにその場を離れた。
彼女の元いた場所には、光の剣。どこから投擲されたかも定かでないそれは、石畳の床にぶっ刺さると、爆発した。さっきの光の玉と良い、この世界の住人は爆発が好きだなーと、アリスは思う。
まき散らされる粉塵はアリスの視界を奪い、石の焦げる匂いは彼女の嗅覚を奪う。
耳に至っては爆音の性でキーーーーーンっだ。その不快さに腹を立てたアリスは、お返しとばかりに、手元に転がっていたリンゴっぽい何かを敵の居る方にぶん投げた————結果、だれかにあたったらしい。
次の瞬間、報復の爆発。当たり前である。
「うああ、何も見えない、聞こえない!!! 鼻は曲がるし、髪はドロドロ・・・・・・なんで? 私が何したって言うのよ!!!!」
世の中の理不尽これに極まれりと、吠え猛る少女。
その声は寸分違わず、一人の青年の耳に届いていた。彼の名は、オルロ。
このときの彼はアリスが何者であるかも知らず、またアリスにしても、オルロなんて引きこもりめいた名前の男など知る由もなかった。
「何をしたって、王族の会食に乗り込むだけで、十分に重罪と思うんだが・・・・・・? ましてや、父上に対して、あんな・・・・・・」
オルロ視点から見たアリスの存在は、不可解そのものだった。
なにせ、何もない空中からこつ然と現れ、会食中の王の食器を踏みつけたのだ。
そして、堂々とテーブルの上に立ち、王を見下ろしながら「こんにちは」と一言————もはや、理解の範疇を超えていた。
「ああ、そう。そうなのね!? そっちがその気なら、こっちだってやってやるわよ!!! 魔法使いなめんなよ、異世界人め!!!」
オルロの独白は、アリスには届かない。
あたりまえだが、アリスはキーーーン状態だ。
まあ、そうでなくとも、アリスという人間は基本的に人の話に耳を傾けたりはしないのだ。
なにせ、本人がそれを自覚していて、かつ、直そうとしないのだから、それも筋金入りである。
「沈む現世、浮かぶ隔離世。確たるモノを退け、在れ————起動」
——————言霊が、世界に響く。
けれど、それが世界のマナの歓喜を呼び起こすことはなかった。なぜなら、言葉の力は、この世界の力ではなかったのだ。けれど、それはいくらかの必然と偶然を経て、少女の想いをカタチにした。
そう、とても小さな、しかし、大きな意味を宿す結果として————
全ての兵士が、その動きを停止させた。そう、とても強い輝きを放つ3っつの意志と、アリスを除いて、世界は・・・・・・夢の世界へと、沈んだのだった。
next ユーダイクス
次は、創世の魔法使いのお話です。
二人の魔法使いが、天使に出会った経緯がーーーメインです。