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こんなはずじゃなかったの。あの子さえいなければ、彼はまた私の方を見てくれるって思ったから。クールで表情が変わらないと有名なエミリオ様。顔はとっても綺麗だけど、ちょっぴり怖い。彼を慕う人は男女問わず沢山いるけれど、近寄りがたいイメージが強い。
だけど、本当に親しい何人にかは表情を見せてくれる。そんな数少ない親しい人に私は入っていた。
「さすがですわ!お優しくてお美しいエリザベス様だからこそエミリオ様も優しい表情をお見せになられるんですわね。羨ましゅうございます。」
周りへの優越感。つのる思慕。
本当は分かってた。私ではなく、お兄様の妹だから優しい顔を見せてくれること。幼い頃から知っているから親しい一人に入っていること。
だけど、勘違いしてもしょうがないと思うの。だって彼が優しい顔を見せてくれる同じ年頃の女の子はずっと私だけ。私はずっと彼が好きだから、エミリオ様の気持ちが少しは私に向かってるって信じたかったの。
それに、きっとあの子さえいなければ人をなかなか好きになれない彼のことだから、お父様からお願いさえすれば私と結婚してくれるんじゃないかって思ってた。
だけど・・・
だけど・・・
怒り、狂っていくエミリオ様。
日に日にやつれていくエミリオ様。
余裕なんてどこにもない。彼らしくなくなっている。
もう少しだけ・・・もう少しだけ時間がたったらあの子の事を忘れ、こっちを向いてくれるんじゃないかって期待していた。
自分の気持ちしか考えていない我が儘な私。
こうなることは薄々分かっていた。
自分がしたことは、必ず自分へ返ってくる。どんな形であれ。
「本日はうかがいたいことがありまして参りました・・・・・・」
あぁ、やっぱり。
きっと二度と私を好きになってくれることはない。
嫉妬さえしなければ、あの子を隠しさえしなければ、親しい一人としてそばに居れたのに。だけど無理だったの。好きな気持ちを抑えて二人の姿や噂話を聞くことが。
泣くな。自業自得。
*
エミリオ様が私の部屋を訪ねてこられた時、私の心を占めていたのは「エミリオ様に嫌われる」ただその一点だけだった。けれどそれだけではなかった。
彼女を彼から引き離した時は嫉妬だけで、彼女の気持ちなんか考えてもみなかった。
「猫である」ということが彼女にどれだけ不安やストレスがあったか。その上、私の我が儘に付き合わせて彼女をひとりぼっちにしてしまった。「ヒト」としてではなく「ネコ」として過ごさざるを得なかった彼女はどんなに辛かっただろう。
「王族」として産まれてきた私。彼女もまた王族として守らねばならない一人の民であったのに・・・私の我が儘のせいで彼女を壊してしまった。
彼女を保護してもらっていた家にいたのは、ヒトであったことを忘れてしまった一匹のネコ。
魔術をもって意思の疎通をはかってみても切れ切れの短い単語が浮かぶだけ。会話が通じない。魔力の色は彼女で間違いないとのことだが・・・
医者によると、過度にストレスを感じ心を守るために「ヒト」であることを捨て「ネコ」だとマインドコントロールをかけたのではと言うことだった。
食事もほとんどとろうとしなかったと言う。まずは衰弱した体を治す所から治療を始めるそうだ。
彼女を壊した張本人なのに私は罪に問われる事はなかった。私ができることは、いい医者を探し、資金を援助することだけ。
エミリオ様はあれからますますやつれてしまわれた。どうかお願い。目をさまして。もう二度と我が儘なんて言わないから。目を見て謝らせて・・・