『再会と青年』
数字が合っていなかったので、改稿しました。
「見つけた」
病院へと向かっていたリンの前に一人の青年が現れた。高貴な服に身を包み、おしゃれな帽子を被っている。端整な顔立ちで背も高く長い金色の髪が風に靡いていた。
「誰…?」
「覚えてないの?哀しいなぁ。ボクはずっと忘れてなかったのに」
「……???」
「解らないのも仕方ないかな」
「…えっと、いつかお会いしましたか?」
「そうだねぇ…。9年前かな」
「9年前…?ごめんなさい。全然覚えてません」
「其れが普通だよねぇ。まぁ、連絡しなかったボクも悪いしね」
青年は半ば独り言のように呟いた。
「…あの。あたし、急いでるので失礼します」
「何処行くの?」
「病院に…」
「ちょっと君に案内して貰いたい所があるんだぁ。その後でもいいから付き合ってくれる?」
「…はぁ」
良く解らない人だったが、リンは深く気にせず病院へと走った――。
「おや、リンちゃん。怪我でもしたかい?」
病院に着くと慣れ親しい院長が出迎えてくれた。
「アスカは!?此処に運ばれたって聞いて…」
「あぁ…彼ならさっき退院したよ。急いでる様子だったんでね。止める間もなく出ていったよ」
「場所とか言ってなかった?」
「いや…特には」
「そう…ですか」
すれ違ってしまった。アスカは何処へ行った?
「アスカって誰?」
俯くリンに青年が訊ねた。
「…親友なんだ。あたしの所為で怪我しちゃって、ここにいると思ったんだけど」
「会えなかったんだ」
「……いないならまた探すしかない…」
「用は済んだ?」
「うん。案内する。何処に行きたいの?」
「カナンって人ん家」
「…カナンは、あたしの母ですが」
「知ってるよー。だから君に頼んだんじゃない」
意味深な笑みを浮かべながら青年は平然と言った。リンは疑いを抱きながらも彼を自宅まで案内した。家のチャイムを鳴らすとカナンが出迎えた。
「おかえり、リン…」
ドアを開け、娘の帰宅を安堵したカナンだったが、少女の後ろにいる青年に気付いた瞬間、表情が固まった。
「お母さん…?」
「…創葉…」
小さな震える声で漏らした名前。カナンは口元に手を当てながら微かに怯えていた。
「久し振り…とでも言っておこうかな。ね――?母さん」
「えっ…」
リンは驚きながら青年の方を見た。
「17年前、貴方が何をしたか忘れた訳じゃないですよね?」
「…どうして…」
「ボクも大人になったから、戻ってきたんだよ」
カナンは膝から崩れ落ちた。震えは止まらず呆然としていた。
「リン」
「えっ…?」
青年は彼女の手を取り、その場から立ち去った。状況が解らないリンはどうしたら良いのか解らずそのまま青年の後に続いた――。
ふと足を止めたのは、あの境界線の場所だった。フェンスの向こう側にあった収容所は跡形もなく消されていた。
「ボクは創葉。君の実の兄だよ」
「…えっ?」
「17年前、ボクは此処にあった収容所に容れられたんだ」
創葉は先程とは変わって真剣な表情を浮かべながら話し出した。いきなり語られた事実にリンはまだ戸惑っている様子だった。
「どうして…」
「実験材料として」
「実験?」
「此処は人を道具として扱ってた。囚人を地雷の餌食にしたり、何時間も拷問したり、めちゃくちゃな所でさ。ボクも何度か拷問された。でも…君がいたから耐えられたんだ」
「あたし…?」
「そう」
優しげな笑みをリンに向けながら創葉は彼女の頭を撫でた。
「少し、昔話をしようか―」