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ランドマイン  作者: 淡月 涙
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『引かれていた線』

街に戻ると其処は閑散としていた。皆、家の中に留まり出てこない。あんな騒ぎが起きれば当然の態度だ。リンはアスカを探しに病院へと目指した――。




病院にはリンの母親・カナンがアスカの見舞いに訪れていた。

「すみません…。俺…リンを守れなかった…」

「アスカは立派よ。逃げないでリンを守ろうとしてくれたんですってね。ありがとう」

カナンは優しく言った。

「その腕…もう動かないみたいね」

「…はい」

諦めかけていたアスカを他所にカナンは何気ない表情で彼の右腕に手を触れた。慰めてくれているのだろうか。右腕には特に何も感じなかった。

「動かしてみて」

「えっ…」

さっきは力を入れても感覚さえなかったのに…。アスカは試しに右腕を挙げようと力を入れた。すると軽々と右腕が動いた。

「何で…」

「これが私の能力―治癒力よ」

「治癒力…」

「黙っていてごめんなさい」

「リンは知ってるんですか…」

「知らないわ。街の人にも教えていない」

「…どうして、今使ったんですか?」

「あんな騒ぎが起きてしまってはもう隠す訳にもいかないと思ったのよ」

カナンは微笑みを絶やさずに話した。

「アスカ」

「はい…」

「リンを守ってね」

そう言われ、アスカは強く頷いた。

「絶対に」

今度こそ、その手を離しはしない――。






 東方面。


 遊音と麗夢は黒服達に囲まれていた。周囲にはまだ多くの店が立ち並んでいる。人々もさっきの場所よりかは少ないが騒ぎを駆け付けて野次馬となっていた。そんな中で能力を使うのには躊躇いが生じる。

「どーするよ?能力使う以外に手はねぇな」

「そうみたいだね。(人々を)傷付けない程度に力を使えばなんとか…」

背中合わせで二人は会話する。黒服達は銃を身に付けていた。一発でも発砲されたらこの場は忽ちパニックになってしまう。

「ガキの都合に付き合ってやる程、俺達は優しくねぇぞ」

一人の黒服が言った。

「最期の話し合いは終わったかい?」

「――あぁ。そうだな、十分だ」

麗夢は口元に笑みを浮かべながら答えた。

「さっさと片付けてやる」

黒服が銃を取り出そうとした瞬間、麗夢が素早く黒服の眼下に移動した。そのままビリビリと電撃を帯びた右手を黒服の顔に押し当てる。シューっという煙とともに焦げた臭いが漂った。

「死ぬ気で仕留めてみろよ」

麗夢の挑発に黒服達は一気に攻撃態勢に入った。銃声が何度も響く。周囲の人達はいきなり始まった戦いに驚き、隅っこに移動していた。麗夢は久々に能力を使ったからか、些かテンションが高い。次々と黒服達を黒こげにしていた。

「本当、手加減無しだよね」

倒れている黒服達を避けながら遊音は飛んでくる銃弾を交わしていた。

「お前も反撃しろよ」

「君一人で十分でしょ?」

一瞬の隙を逃さなかった一人の黒服が遊音の左足を撃った。遊音はバランスを崩し、撃たれた足を庇う。紅い血が止まる事なく流れていく。痛みに気を失いそうになった。

「遊音…っ!」

余所見をした麗夢を近くにいた黒服が、持っていたロープで捕らえた。腕にロープを巻き付けられ、麗夢は動きを封じられた。

「くそっ…!」

「よく見ろ、街の人々よ!こいつらは脱獄を謀った重罪人だ。その証に…」

「やめろ…っ!」

黒服が麗夢の服を捲り背中を見せた。彼の背中には囚人の証である烙印が刻まれていた。それを見た人々は口々に騒ぎ立て、刺すような視線を麗夢に向けた。烙印を見られる事は彼らにとって屈辱でしかなった。

「さっきも見ただろう!こいつの能力。放置したら罪のない者達まで殺してしまい兼ねない。そうならないように我々が保護しているのだと、解って貰えたか!?」

人々は黒服の言うことに頷いていた。これで此処の人達も黒服側の人間。麗夢達に味方はいない。

「連れていけ」





西方面。

戒と愛理衣は平野にいた。夢中で走っていた為、方向性を見失っていた。秋桜が咲き誇る広い地に他の人影は見当たらない。

「何処だろ、此処…」

「さぁ…?でも追っ手は来ないよ」

「そうみたいね…」

愛理衣は溜息をつきながらそのまま後ろに倒れた。身体のあちこちが痛い。足も震えている。

「もう動きたくなーい」

「同感。久々に動くと怠いね」

「あんな狭い所に何年もいたら身体に悪いわ」

「愛理衣さぁ、飛べば良かったんじゃない?」

ふと気付いた様子で戒は呟いた。

「あぁ、そっか!その手があったか…」

言われて愛理衣もはっと気付く。彼女は透視能力に加えて超能力も兼ねていた。能力を使えば宙に浮かぶ事も出来る。

「逃げるのに必死だったから…」

「そうね…」

会話が途切れた。二人とも相当疲れた様で大地に寝転がった。心地好い風が二人を包む。このまま何も無ければ良いと思っていた――。




どれぐらい、時間が経ったのだろう。愛理衣はいつの間にか眠ってしまったらしい。目が覚めた頃、お腹も空いた。饅頭だけでは持たない。

「ねぇ、戒。そろそろ移動す…る…?」

話しかけながら彼がいた方に視線を向けると戒の姿はなかった。

「あれ…?」

その代わりにいたのは無表情な黒服達だった。一斉に銃口を向けられており、愛理衣は咄嗟に両手を挙げた。

「連れてい…」

黒服の言葉を遮るようにして、愛理衣は姿を消した。一瞬の出来事に彼等は戸惑いを隠せない。周囲を見渡しながら愛理衣の姿を探している黒服達の姿を、愛理衣は空の上から眺めていた。

「やっぱ瞬間移動は体力使うなぁ。っていうか、戒は何処行ったのよ」

上から探しても彼らしき姿は見あたらない。

「いないのか…」



ドクン―



心臓が激しく脈打つ。愛理衣は息苦しさを感じ、バランスを保てなくなった。

「やばっ…」

久々に超能力を使った所為で身体に負担を与えてしまった。透視能力と超能力を併せ持って、普通でいられる筈がない。超能力はある日突然芽生えたもの。二つの能力と引き換えに愛理衣は短命となった。いつ死んでもおかしくない。

「でも、今降りたら…っ」

確実に捕まる。彼らが諦めて移動してくれるまでは持ちこたえて欲しい。

「何処に逃げた?」

「今捜索中だ」

「全く気配が消えたぞ」

「…ちっ。他を当たる」

黒服達は静かに去っていった。愛理衣は安堵し、よろつきながら地に降りた。全身が怠い。また横になると鼓動はゆったりになった。

「愛理衣」

ふと名を呼ばれ、彼女は体を起こした。目の前には心配そうな表情を浮かべている戒がいた。

「能力、使ったんだ。動ける?」

「…今はちょっと無理かな…」

「黒服達の姿が見えた。此処から離れよう」

「でも…動けないよ…」

「…解った」

そう言うと戒は愛理衣を軽々と担ぎ上げた。

「軽っ…」

「落とさないでよ…?」

「そん時はごめんね?」

戒は軽快に走って平野から抜けた。追っ手が来る様子もなく、空気は静かだった――。





「着いた」

其処は古びた廃墟だった。

「なに…ここ。廃墟…?」

愛理衣は少しの不安を感じながら聞いた。戒は何も応えず中に入っていく。薄暗い灯り、静まり返った長い廊下。もう随分使われていない部屋が並んでいた。怖い・・・。

「戒…!嫌だ…外に戻って…」

「何で?」

「なんかやだよ…ここ…」

「彼処と似てるから?」

「…うん」

「そう…」

戒の様子もおかしかった。廃墟は結構広く、戒は階段を下りていく。その先に何があるのか知るのも畏怖した。

「――着いたよ」

愛理衣は恐怖を確信した。着いた先は暗い牢屋。あの場所と同じ檻だ。戒は檻の横にある電源に触れ、コード番号を打った。

「戒…何してるの…?」

ピーーっという音とともに檻の柵が開いた。

「麗夢!遊音!」

檻の中には傷付いた仲間がいた。

「何で二人が…」

言いかけた瞬間、戒は乱暴に愛理衣を檻の中へ投げ入れた。

「痛っ…」

「戒!どういう事だよ!」

「どうって?この状況見て解らないの?」

「まさか…お前」

「戒」

不意に現れた人物に愛理衣達は目を疑った。檻の外にいるのは、神流だった。

「この子も容れといて」

彼女が引きずっていたのは全身傷付いた彩弓だった。彩弓は気を失っている様だった。何の躊躇いもなく神流は彩弓を檻の中へ葬った。

「彩弓!!」

愛理衣はすぐに彼に寄り添った。

「ごめんね?少し眠って貰ったんだ。あんまり抵抗するから、あたしも本気になっちゃって…」

いつもと変わらない声色で神流は言った。

「お前ら…グルだったのか!?」

「――仲間だと思ってくれてたの?」

戒の冷めた眼がみんなを捕らえる。

「…そんな…」

「今まで騙してたのかよ」

「そういう状になっちゃったね」

神流は申し訳なさそうな笑みを浮かべて言った。

「僕と神流は君達を監視する為の模犯囚。君達が良い子で助かった。監視もしやすかったし、良いデータも取れた。感謝してる」

「何だよ、それ…」

「逃げ出した罪は重いの。この檻の中でも能力は無意味になっちゃう。でも…そうしたのはみんななんだよ…?大人しく彼処にいてくれたらまだ良かったんだけど…」

神流は言葉を濁す。

「君達の監視は主に僕と神流が請け負ってるんだ。与える罰も僕らが施行する」

「…よくも平然とした表情でペラペラと…。仲間を傷付けても何も感じねぇのかよ!」

「麗夢…」

今にも反抗しようとする彼を遊音が止めた。

「思わないよ。最初から線は引かれていた。君達が勝手に踏み越えて来ただけだろ」

「てめぇ…!」

「あんまり騒ぐと、その口溶かすよ?」

「…っ!」

「大人しく捕まってて」

そう言った神流は哀しげな表情を浮かべていた。

ガシャンと音を立てながら柵が閉まる。戒と神流は静かに去っていった―。

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