『終音』
大丈夫。
そう思えたのは、神流がいたからだ。神流と出逢わなければ父に会う事も兄と共に旅をする事もなかった。声の能力に気付いて独り泣いていたあの日々が薄れていく。大好きだと言ってくれた神流を独りにはしない。絶対に――。
「ほぅ。大した女だな」
地雷を踏む事もなく家に辿り着いたリン。部屋に入ると一人の青年が座っていた。
「こんにちは」
「・・・どうも。貴方が、夜太さん?」
「あぁ。そうだよ」
青年はにこやかに微笑んだ。
「此処から出よう。麗夢が待ってる」
「麗夢?」
「知らないの?」
「――あぁ。そうか、こいつ(・・・)の仲間か」
「えっ」
「お前は誰をお望みだい?父親?母親?きょうだい?」
突然訳の解らない事を言い出す青年に戸惑うリン。
「・・・貴方、夜太って人じゃないね?」
「気付いちゃった?彼は死んだよ、私に殺されてね」
「何者なの?」
「ただのはみ出し者だよ」
「彼の姿になって何する気?」
「特に何も。ただ、若い男の身体を借りたかったんだ」
「其れだけの為に夜太を殺したの?」
「殺さなければ肉体は手に入らない」
「人の命をなんだと・・・」
「あぁ、それ!キミに命を語る資格あるの?」
「え・・・」
「コンバスターで何人死刑にした?直接手は触れずとも人殺しだよね?」
「っ・・・!」
「私達は同類だよ。人殺しのね」
「違う!」
「何が?」
「あたしは・・・殺りたくて殺ったんじゃない!あいつらが・・・!」
「でも殺った事に変わりないじゃん」
「違うの・・・!あたしはただ・・・神流を守りたくて・・・」
「ふぅん?じゃあ、その神流がキミに人殺しさせたんだ」
「・・・えっ・・・?」
「神流さえいなければキミには拒否権はあった筈だよね?人質にでもされてたんでしょ?だから、殺らざるを得なかった」
「・・・・・・」
リンは何も言い返せなかった。
「私はキミの敵じゃない。早く立ち去りなさい」
「でも・・・」
「夜太は母親と帰ったと言えば良い。何よりも母を欲しがっていたからな。私は裏の扉から姿を消すよ。もう二度と会う事もない」
「・・・・・・」
「――あぁ、そうだ。久住にキミの声はもう効かないよ。私が施術したからね」
「じゃあ・・・どうしたら・・・」
「キミは久住をどうしたいの?」
「・・・あたし・・・は・・・」
「ただやっつけたいだけなら勝てないね。あいつは手強いよ?」
「・・・でも、神流達はあいつに散々苦しめられてきた。だから・・・」
「キミの復讐じゃないよね?」
「友達の為に一緒に戦うのは悪い事じゃない!」
「確かにそうだよ。でも、自分の為じゃない復讐なんて後味悪いだけだ」
「うるさい!」
青年は激しい頭痛に襲われた。
「そのまま・・・割ってあげようか」
「・・・大した能力だね・・・。でも、私はまだ死にたくない。悪いが退散するよ」
カチッ――
その瞬間、家は爆発し、地響きが起きた。様子を窺っていた神流は力なく膝をつき、小さくその名を呼んだ。
「・・・リンちゃん・・・」
家は燃え上がり、その勢いでまだ残っていた地雷にも火がつき、焔に包まれた。
「遊音!早く消化しろ!」
「解ってるよ」
すぐに遊音が水を操り、消化を急ぐ。
「何人か捲き込まれたか・・・」
近くにいた子ども達は爆風に吹き飛ばされ強く身体を地面に叩きつけられていた。
「神流!落ち込むのは構わねぇが、久住見失うなよ!」
麗夢は焔が収まった1ヵ所を見つけそこからリンを捜しに出た。
「くそっ・・・!めちゃくちゃだな」
家は跡形もなく破壊され、人を捜すのは困難だった。
「麗夢、いた!?」
消化活動を素早く終えた遊音も加わった。瓦礫が足場を悪くする。
「・・・麗夢!あれ・・・!」
何かを見つけた遊音が叫んだ。木片の下から腕が見えた。
「すぐ退かすぞ」
二人で持ち上げれば大した作業ではなく埋もれていたリンの姿があった。
「――大丈夫。息はある」
「よし」
麗夢がリンを背負い、その場から立ち去る。急いで神流の元へ戻ると、事態は急展開していた。
「くっ・・・!」
胸元から血を流し、神流に凭れかかる久住。彼の背中から刃先が見えていた。
「・・・か・・・んな・・・」
「あんたの所為だ・・・!全部あんたが・・・!」
「・・・それで・・・いい・・・」
神流は怒りに任せて刃物を抜いた。久住はそのまま地に倒れ、血が溢れ出す。
「神流!」
麗夢が声をかける。リンの姿に気付いた神流は刃物を捨て駆け寄った。
「リンちゃん・・・」
「意識を失ってるだけだよ。でも、早く治療しないと」
「一旦彩弓達の所へ戻ろうぜ。手当て出来るかも知れねぇ」
「そうだね」
「遊音。先に行っててくれるか?」
麗夢はリンを彼に託し促した。
「まだ息があるな」
「こんな痛みじゃない・・・!あたし達はもっと痛かった!辛かった!あんたがめちゃくちゃにしたんだ・・・!」
神流は泣きながら久住を罵倒した。
「こんな・・・簡単に死ぬなんて許さない!」
「もういい、神流。」
「麗夢・・・」
「これで死ねるとか思うなよ」
麗夢は冷たい視線で久住を見下した――。




