表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドマイン  作者: 淡月 涙
36/50

『皆に逢う為に・・・』

数人の若者達が手枷を付けられて街中を歩かされていた。背中の烙印を人々の目に触れさせるように。一目で奴隷だと解る。連れているのは権力を笠に着て威張り散らしている警察。彼らの身体の傷を見ればどんな仕打ちをされているかなんて明白だ。

「マキ!」

一人の女性が繋がれている少女に駆け寄った。

「お母さん!?」

「何してんだよ、マキ!いつから奴隷に下ったの!?早く逃げなさい!」

「何をしている!」

警察がすぐに女性を引き離した。

「私の娘なんです!返して下さい!」

「其は出来ない。一度奴隷になった者は売られるか死ぬまで働かされるかだ。」

「あの子が何したって言うの!?」

「万引き、強盗、殺人未遂。随分と街を荒らしてくれた悪ガキだ」

「違う!あたしはやってない!」

「黙れ!」

バシンッ――ともう一人の警察が少女を叩いた。

「なんてことするの!?」

「奴隷に意思など無い。反抗すれば仕打ちをする」

「警察だからって許されると・・・!」

カチャッ――

女性の言葉を遮る様に警察は銃を向けた。

「それ以上、調子に乗ったらあんたも殺す」

「待ってよ!母さんは関係ないじゃない!」

「奴隷の身内も罪人だ。繋げ!」

「待って・・・!」

警察が女性に手枷を付けようとした瞬間、不意に現れた影が手枷を奪った。

「なっ・・・!誰だ!」

「あんたらの言い分にはヘドが出るね」

陽の光に照されて影は正体を見せた。中世的な洋服を纏い、金色に近い茶色の長い髪を靡かせ、美少女は手枷を玩具のように指に掛けて回しながら言った。

「お前も罪に問うぞ!」

「撃ってみれば?」

彼女は平然と挑発した。

「死んでも文句言うなよ」

警察の男は躊躇いなく銃弾を放った。瞬間、彼女は姿を消し一瞬で男の眼前に現れた。ニヤッと口元に笑みを浮かべ軽く男の腹部に触れる。すると男は勢いよく後方までぶっ飛んでしまった。壁に激突したのか凄い物音が響いた。

「な、何をした!?」

彼女は笑みを崩さずもう一人の男の手から直接手を振れずに銃を奪い、自分の手元へ飛ばした。

「なんだと・・・」

彼女は銃口を男に向ける。

「あたしはね、人の価値を踏みにじる奴が大嫌いなんだよ。警察だからって許されると思うなよ」

バンッ――バンッ――バンッ――

銃弾はいずれも男の手足を掠めたに過ぎなかった。

「役立たずな脳みそに風穴開けてやろうか?」

「ひっ・・・!」

敵わないと悟ったのか、危険人物だと判断されたのか、男は恐怖の色を浮かべながらその場から逃げ出した。何が起きたのか状況を掴めていない街の人々や奴隷達を他所に彼女は銃を側で見守っていた青年に渡した。

「好き勝手な事をしました。申し訳ございません」

深々と青年に頭を下げる彼女。

「いいえ。貴方の判断は正しかった。よくやりましたね――エリィ」

青年は優しく微笑みながら彼女の頭を撫でた。

「ありがとうございます」

「早く彼らを解放してあげなさい」

「はい」

彼女は早足で若者達に駆け寄り、軽々と手枷を外した。自由になれた彼らは歓喜の声を上げた。

「ありがとうございました!」

女性とマキと呼ばれた少女は二人に礼を言った。

「当然の働きをしたまでですよ」

「でも、警察やっつけて大丈夫なの?」

マキは心配そうに聞いた。

「彼らはもう警察を辞めるでしょう。我々に仕返しするとは考えられない」

「そうなんだ。良かったぁ・・・」

マキは胸を撫で下ろした。

「あなた達はもう自由だ。好きな様に生きて下さい」

そう言うと親子は抱き合いながら笑顔を溢した。他の者達も笑みを浮かべ、その場から駆けて行った――。

「まだ、奴隷制度なんてあるのですね」

青年が哀しげな表情を浮かべて言った。

「一刻も早く彼らを解放してあげたい・・・」

「お手伝いします」

「ありがとう、エリィ。では、先へ進みますか」

二人は街中を散策した後、休みなから人々の群れの中へ消えていった――。






あの日の夜。愛理衣は久住に名もない街へ棄てられた。散々暴力を受けた後だったので、彼女には抵抗する気力もその場から逃げる体力も残っていなかった。商人に売られると覚悟していた愛理衣は逆に安堵していた。放棄された方が自由の身になれる。一度売られた子どもがどんな目に遇ったかを知っていたから。寒い一夜を凌ぎ、怪我も治ってきた時分に進もうと決めた彼女に3人の輩が絡んできた。一人は体格のでかい大男、もう一人は小柄でつり目をした男、最後は中世的な顔立ちの男だった。彼らは愛理衣を見下しながら何かを囁いていた。

「この傷じゃあ、商売にならんて」

「隠せばどーにかなる。さっさと連れてけ」

大男が、まだ疲れの取れていない彼女の腕を無理矢理掴み、強引に歩かせようとした。

「痛っ・・・」

身体を動かすとまだ痛みは完治していなかった。彼らは愛理衣の苦痛などお構いなしに乱暴に連れていく。先程から聞こえる会話で彼らの目的がなんとなく解ってきた。要は、売り物にされるんだ。金稼ぎの道具にされる。折角自由の身になれたのに、また課せられるの・・・?

「さっさと歩け!」

思いきり背中を押されたので愛理衣はそのままバランスを崩して転んでしまった。

「おい!傷増えさすなよ」

「こいつが確り歩かねぇから」

彼らが揉めている最中、愛理衣は誰かに手を差し伸べられた。見上げると綺麗な顔立ちをした青年が微笑みを向けていた。

「立てますか?」

愛理衣は力なく手を取った。立ち上がった際にふらついた彼女を青年は優しく抱き締めた。

「――あんた、何してんの?」

中世的な顔立ちの男が青年に気付き、銃口を向けた。

「女性を痛ぶるなんて最低ですね」

青年は笑みを絶やさぬまま、銃爪を引いた。銃弾は男達の胸を貫き、一人も立ち上がる事はなかった。

「怪我はありませんか?」

優しげな笑みが愛理衣には怖かった。

「・・・怖がらせてしまいましたか。すみません」

「あなた・・・は・・・何・・・」

「私は、刹那(せつな)。審判と呼ばれる者です」

「審判・・・?」

「悪い人達を排除する仕事ですよ」

「警察じゃ・・・ないの?」

「えぇ。あんな野蛮な人達とは別物です」

顔は笑ってはいるが言葉には棘があるように聞こえる。愛理衣は静かに彼に歩み寄った。

「・・・助けてくれて・・ありがとうございました」

「どういたしまして。貴方のお名前を聞いても?」

少女は顔を上げて彼を見据えた瞳で名乗った。







「――エリィ」







生まれ変わった少女は、青年とともに旅をすると決めた。その旅の中で悪を排除しながら、また皆に逢える事を願って――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ