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ランドマイン  作者: 淡月 涙
35/50

『あの町へ』

「まさか、こんなすぐ出てくるとはね」

夜太は感心しながら支度を始めた。

「丁度、こいつも起きたしいいんじゃね?」

王貴がまだぼんやりしている紅に視線を向ける。二人の前には麗夢と佐月の姿が。此処まで来るのに時間は掛からなかった。

「誰かいるのか?」

スッと起き上がった少年を見て、麗夢は言葉を失った。目の前にいる少年にはもう逢えないと思っていたからだ。

「お前・・・何で・・・」

「・・・ 誰ですか?」

「えっ・・・」

「麗夢、彼は記憶喪失になってるんだよ」

夜太に言われて麗夢は納得した。彼の雰囲気が違うのもそのせいだ。

「何で此処にいるんだよ」

「買い出しに行った時に会って懇願されちゃったんだよ。此処に来れば何か解るかもって」

「そうだったのか・・・」

麗夢は改めて少年を見た。顔の半分に微かに火傷の痕がある。腕や脚にも包帯が巻かれていた。

「怪我・・・平気なのか?」

「時々痛むけど、すぐ治まるから大丈夫」

紅は笑って答えた。

「かなり遠くまで行くかも知れねぇけど、ついてこれるか?」

「行くよ。失くした記憶を取り戻したいんだ」

「――OK。じゃ、鬼の居ぬ間に抜け出すか」

夜太が外までの道を案内しながら、彼らは収容所から脱出した――。






「新しい死刑囚だ。こいつも殺せ」

監守が連れてきたのはまだ幼い少女だった。着ている白いワンピースはもうよれよれで身体にも幾つかの傷があった。

「こんな小さな子が何したっていうの?」

リンは監守を睨みながら言った。

「たった一つのパンを盗む為だけに店員と客を殺害。逃げようとしたが失敗して送られた」

「パンを盗む為だけに・・・人を・・・?」

「それにこいつは囚人だ。あの女と同じ烙印が背中に刻まれていた」

「囚人・・・」

「同情でもしたか?こいつを殺さなければあの女を殺す事にするぞ」

「っ・・・・・・」

「判断し難いか?なら、刑期を延ばしてやる。2週間だ。それまでに決めろ」

監守は強引に少女を連れていった。

リンはどうする事も出来ぬまま座り込んだ。今までの死刑囚達にも同情はしたが躊躇いはなかった。其だけの悪事を働いてきた事を知っていたから。けれど、あの子はまだ幼い。逃げ方を知らなかっただけだ。ただ、お腹が空いていただけなんだ。あんな小さな手で人を殺せる訳がない。囚人だから罪を着せられただけなんじゃないか――?リンは色々な考えが頭の中を巡り混乱していた。とにかく期限内に答えを出さなければならない。

「もっと普通に・・・謳いたかったな・・・」

雲一つ無い青空を見上げると、涙が溢れた――。




神流は露出の多い服を着せられ、暇をもて余した監守達の相手を担っていた。酒を飲みながら愚痴を聞いたり、一緒に混浴したりと主に世話をさせられた。酔いが回ってくると今度は身体のお世話をしなければならない。それも一人ではなく、多い日には5人同時に相手をする時もある。一応、避妊はしてもらっているが、信用出来ない。相手が悪いと乱暴に扱われ暴力を受ける事もある。それが毎日続いた。久住とは違ってガタイも良く神流の負担は大きい。

「おい。休んでんじゃねぇぞ」

体力が限界になっても休息は与えられない。満足させられるまで時間がきても終われない。

「今日は延長かなー?」

監守達はニヤニヤしながら神流を見下す。あと、何人いるのだろう。

「やっぱ足らねぇな!おい、あの子もヤッちまおうぜ。歌わしてるだけなんだろ?」

「声が枯れたら使い物にならない」

「猿轡でもしときゃあ声出せねぇって」

「だが、万が一・・・」

「じゃあ、口は使わねぇ!猿轡だけして身体だけ貸して貰おうぜ」

彼らは次々と意見を飛ばす。神流は疲れを我慢しながらも耳を傾けていた。

「あ!だったらよぉ、新しく来た死刑囚殺せなかったら使おーぜ」

皆、その案に賛成した。その後、監守達の気分は最高潮に達し、神流は耐えられず気を失った――。






「お待たせー」

透韻が店から出てきたのは、アスカ達が男達を捕らえてから小一時間後の事だった。

「確り情報得たんだろうな?」

「そんな怖い顔しないでよ、アスカ。バッチリ貰ってきたから」

「――で?やっぱり知ってやがったか」

「ちょっと腕の栄養分抜き取ったら泣きながら白状したよ。行き方も知ってた」

「ちっ・・・。無駄な労働させやがって」

「結構似合ってるよ、アスカ」

「動きづらい・・・」

「だろうと思ってさ。今日君達が此処で稼いだお金も頂いてきたから」

透韻はお金の入った小袋を見せた。

「抜かりねぇな」

「お金の心配はなくなったね」

「父さん、其であの町へはどうやって?」

待ちきれない様子で創葉が促した。

「組織があるって言ったよね?その組織がさ、収容所の中で怪しげな研究してるんだって。一度入ったら二度と外には出られない監獄なんだよ。しかも、収容所の中には子どもが数人いるらしい。時々、黒い服を着た人達に連れていかれるそうだよ。」

「それって・・・」

「似てるよね。多分、其所に行けば逢えるよ」

「行き方は?」

「地理に詳しい人見つけた」

透韻は笑顔で遅れて店から出てきた少年を見た。

「君達を案内すればいいの?」

「お願いします」

「りょーかい」

少年はアスカと同い年くらいだったが大人びた雰囲気を漂わせていた。

「じゃ、車庫に移動するから付いてきて」






「神流ちゃん!」

その日の夜。神流は身体中に痣をつけながら戻ってきた。明かに暴行を受けた事を物語っている。リンは泣きそうになりながら倒れ込む少女を支えた。

「痛い・・・?」

「ううん・・・傷ほど痛みは無いんだ。ちょっと疲れちゃって・・・」

神流の言葉には覇気がない。

「あいつらがやったの!?」

「そうだよ・・・。やり方・・・間違えちゃった。あの人達、いっぱい注文つけるから・・・」

「こんな・・・酷すぎるよ・・・」

「リンちゃんが泣いちゃダメだよ・・・。あたしね、中にいてもリンちゃんの歌、聴こえるの。だから、逃げないでいられる。そんないっぱい泣いたら、声・・・出なく・・・」

呼吸が苦しくなり、神流は吐血した。

「神流ちゃん!早く・・・手当て・・・」

「寝たら治るから。大丈夫」

微笑む少女にリンは何も出来なかった。其が悔しくて涙が止まらなかった――。






「帰ってきたらもぬけの殻とはね・・・。あの時を思い出すよ――透韻」

収容所に戻ってきた久住は怒りを笑みに変えながら壁に拳をぶつけた――。

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