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ランドマイン  作者: 淡月 涙
34/50

『証明と烙印』

「随分、賑わってるね」

同じ頃、透韻とイズもアスカ達のいる街を訪れていた。 今まで沢山の街を歩いてきたが、手掛かりとなるような情報は得られていなかった。

「少し休もうか」

「お腹空いた・・・」

イズは空腹に耐えられずふらついていた。

「――ねぇ、おねえさん達!」

ある店の前で立ち止まっていると男が声を掛けてきた。服装から見て普通の店ではなさそうだ。何故、男なのにチャイナ服を着ているのだろうか。そして透韻はまた女性と間違われている。

「良かったら寄ってかない?今日、綺麗な子いっぱい入ったんだよ」

「高くない?」

「おねえさん、綺麗だからサービスしちゃう」

「本当?なら、入ろっか」

「うん・・・」

イズは考える間もなく賛同した。空腹は限界にまで達し、食事が出来るなら何処でも良かった。二人は男に案内され店内へと入った。

「2名様入りまーす!」

指定された席に腰かけメニューを見る。怪しげな雰囲気の割にはメニューはしっかりしていた。

「イズは何食べる?」

「・・・パスタ。種類は何でもいーや」

「オッケー。じゃあ、ボクは・・・」

「失礼しまーす」

透韻が真剣にメニューを選んでいると二人の女性が席に座ってきた。

「あぁ、どうも・・・・・・」

その瞬間、透韻の手からメニューが落ちた。相手の女性達も彼らを見た瞬間、動きが止まった。

「・・・創葉?」

「・・・父さん・・・何で・・・」

女装している創葉は透韻にそっくりだった。流石は親子だと一緒にいたアスカは感心していた。

「・・・意外と似合ってるね」

「褒められても困るんだけど・・・」

「どうしてそんな格好?」

「ここ女装バーだからさ。看板見なかったの?」

「いや・・・イズがもう空腹だったから」

「イズ?」

アスカはテーブルに臥せている少年に気づいた。

「イズ」

声を掛けると少年は顔を上げた。

「・・・アスカ?」

「お腹空いてるの?」

「・・・また、会えた」

イズは安堵の笑みを浮かべながら彼に寄り添った。

「何か頼んだ?」

「まだ・・・」

「じゃ、とりあえずおれが頼むよ」

慣れた対応で創葉はボーイに注文した。

「父さん達も、【ツヴァイ】って街を探してるの?」

「【ツヴァイ】?」

「みんなが別れた街だよ。おれ達、そこ目指して歩いててさ。情報収集がてら働いてるの」

「――何か得られた?」

「まぁまぁ。でも、行かない方が良いみたい」

「何故?」

「危ない組織がいるからって」

ボーイが飲み物とパスタを運んできた。イズはパスタを見ると喜んで食べ始めた。

「組織?」

「詳しいことは解らないんだよね」

創葉も飲み物を口にした。

「此処から遠いの?」

透韻は話が気になる様子で先を促す。

「うーん・・・行き方さえ解ればこんな所すぐに出られるんだけどねぇ・・・」

「名前と場所が解っても手段がないのか」

「そゆこと」

創葉はイズにおかわりを頼むか声を掛け、ボーイに注文した。

折角、手掛かりを掴めても辿り着けないのでは意味がない。透韻は悩んでしまった。

「――此処には二人で来たの?」

手前にあった飲み物を取りながら、透韻はアスカに聞いた。

「いや、もう一人いて・・・」



ガシャーン



アスカが答えようとした時、後方の席が騒がしくなった。あそこでは遊音が接客していた筈だ。周囲の人々も何事かとざわめき立てる。

「何で囚人がこんな所にいるんだ!」

相手の男は恐怖と怒りの感情を遊音に向けていた。遊音は頭から水をかけられたのか全身が濡れており、尻餅をついていた。

「何の騒ぎかな?」

「宝来さん!」

騒ぎを聞き付けた彼が現れた。

「あんた店長か?こいつ囚人の烙印があったぞ!何で囚人なんか雇ってんだよ!」

「――へぇ。君、囚人だったんだ。って事は、一緒にいた子達もそうなのかな?」

宝来は創葉とアスカに視線を向けた。

「ちっ・・・!まだ初日だってのにクビかなぁ」

アスカは何気に皆を守りながら戦闘体勢に入った。

「本当に囚人なのか確めなきゃね」

「えっ・・・やっ・・・!」

宝来は乱暴に遊音の髪を掴んで立たせ、片腕を封じながら服を捲り上げた。綺麗な背中には似つかわしくない奇抜な烙印が刻み込まれていた。烙印を見た客達は動揺し、化物でも見るかのような目を向けていた。この街に限らず、この世界では「烙印=囚人」であり「囚人=能力者」となり危険人物扱いだ。同じ烙印が創葉にもある。更に問題提供させるのは避けたい。

「ふぅん。これが烙印ねぇ・・・。じゃあ、能力持ってる訳だ?」

宝来は遊音に興味津々で離そうとしない。

「マズいな・・・」

アスカ達は下手に動けない。

「――ボクが行くよ。あいつを惹き付ける間にアスカは皆を連れて逃げて」

「父さん・・・」

創葉が心配そうな表情を向ける。

「大丈夫。懲らしめるだけだから」

「――解った」

透韻は女性の様に振る舞いながら宝来に近付いた。

「すみません。少し御伺いしたいんですが」

「なに・・・」

振り返った宝来は透韻のあまりの美しさに絶句してしまった。その瞬間に遊音は彼から離れる事が出来、すぐにアスカ達と一緒に店から出た。

「父さん・・・大丈夫かな?」

「まぁ、あの人死なないし大丈夫だろ」

イズは食べたばかりだったので体の調子が悪く、しゃがみ込んでいた。

「イズ」

遊音は弟に気付いていたらしく優しく声を掛けた。

「・・・にぃさん?」

「無事だったんだね。良かった」

そう微笑むとイズは思いきり遊音に抱きついた。

「にぃさん!」

「ごめんね、一人にして」

「あ、にぃさん大丈夫?さっきの・・・」

「平気。水かけられただけだから」

遊音は乱れた格好を直した。

「さてと。捕まる前に逃げるか」

アスカか先を見据えなから言った。

「父さんを置いていくの?」

「後で追い付くだろ?」

「でも・・・」

迷ってる時間などなかった。店の男達が逸速く追い付き、あっという間に囲まれてしまった。

「あーあ。結局こうなる訳」

「イズ。少し離れてて」

遊音は弟に小声で指示した。イズは黙って頷き、後方へと移動した。

「囚人は捕らえるか、殺すかの命令が出ている。お前らはどっちがいい?」

「どっちも嫌だっての」

アスカは早速、男達の身体を浮かせた。いきなり宙に身体が浮いたので男達は慌てふためいた。

「いきなり能力出してどうするの」

創葉は良く思わないらしく不機嫌そうに言った。

「何言ったって無駄なんだろ?だったら実力行使」

「僕も賛成」

遊音はアスカに便乗し、浮いている彼らを水の玉で包んだ。捕らえられた彼らの足元から水が徐々に増えてくる。自由の利かない格好ではどうする事も出来ない。

「その水が満タンになったら、玉は破裂して床に叩きつけられる」

水に気を取られている間に、いつのまにか高さも上がってきていた。

「今の内に逃げるか」

「アスカ達は先に逃げて。ボクは父さんを待つ」

「そんなに心配なの?」

「またバラバラになるのは嫌だから」

その意見にはアスカも反対ではなかった。折角再会出来たのだ。此処ではぐれたらまた面倒になる。

「――解った。待とう」

アスカ達は仕方なくその場で待機した――。






「麗夢!」

戻ってきた麗夢を佐月が迎えた。

「・・・お前、一人・・・?」

「愛理衣が・・・連れ出された」

「えっ・・・」

「もうおれ一人でさ・・・麗夢帰ってこないし・・・怖くなっちゃって・・・」

佐月は震えていた。こんな所に一人きりにされたら怖くなってしまうのも無理はない。

「愛理衣が何で・・・」

「久住を殺そうとしたんだ。不意討ちを狙ったみたいなんだけど、失敗して久住の怒りを買ってそのまま・・・。多分、売りに出されたんだと思う」

「・・・あの子は?」

「えっ・・・」

「リンって子」

「あぁ・・・。彼女も同じ。久住に抵抗したら殴られて神流と一緒に連れて行かれたよ」

「神流まで?」

「久住にとっては都合の良い人材だったのかもね」

「――二人なら、いけるかも知れない」

麗夢は唐突に話を変えて呟いた。

「なに?」

「さっき、黒服の奴等が協力するって言ってきた。逃げるなら手を貸してくれるって。今ならおれらしかいない。久住もいない今なら・・・!」

焦って話している間に麗夢は声が大きくなっていた。

「落ち着いて、麗夢。声でかいよ」

「・・・あぁ・・・。悪い・・・」

佐月に促され、彼は冷静さを取り戻した。

「・・・此処から出るんだ!また、あの町に行けば皆に逢えるかも知れねぇ。」

「・・・信じていいの?敵だよ?」

「嘘を言ってるようには見えなかった。あの眼は、本気だった」

「・・・・・・解った。でもどうやって?」



――カチャン



麗夢は簡単に手錠を外し、床に落とした。

「その黒服の奴等から鍵、貰った」

「――さすが」

佐月も手錠を外ってもらい、腕の感覚を確めた。

「あとはこの檻か」

「能力利くのかな?」

何気無く佐月が檻に触れると何の音も立てずに檻は消滅してしまった。

「悩む必要も無かったな」

「さっさと行っちゃおうか」

二人は周囲の様子を窺いながら出口へと走っていった――。

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