『その仕事』
目の前で人がバタバタと死んでいく。耳を塞いでも脳は破壊され、血飛沫をあげながら断末魔が轟く。
「歌を止めるな。彼女が死んでもいいのか?」
男の声がその場に響く。リンは涙を流しながら歌を続けた。そうしなければ、囚われている神流が殺されてしまうから。
リンと神流が売られた場所は、「コンバスター」と言う死刑囚を始末する閉じられた空間だった。リンは歌声の能力に目を付けられ始末役に任命された。神流はリンが逃げ出さないようにしておく為の枷となった。
与えられる食事はほんの僅かで、それを二人で半分に割らなければならない。
「・・・リンちゃん、食べて。今日もずっと歌ってたでしょ・・・。食べなきゃ声出ないよ?」
「神流ちゃんだって、一日中あの人達の相手してるんでしょ?疲れちゃうよ・・・」
「うん・・・だからちょっと気持ち悪いんだよね・・・。遠慮しないで、食べて」
「神流ちゃん・・・」
いつもより顔色が悪い。遠慮している様には見えなかった。所々に見える痣が辛さを物語っている。
「あ。お水だけ少し貰っていい?」
「うん・・・」
二人が会えるのは夕飯の時間だけ。就寝時間はまた別々にされ、与えられた仕事をこなさなければならない。
「もうやだよ・・・逃げたい・・・」
膝に顔を埋めながら神流は弱音を吐いた。
「神流ちゃん・・・」
「いつか誰かが助けに来てくれるって思ってたけど、もう・・・耐えられないよ・・・。」
「諦めちゃうの?」
「・・・希薄だよ・・・。あたし達の事なんて誰も気付かない。もし助けが来たとしても、あたしは皆の所には戻れない・・・」
「ちゃんと話せば解ってくれるよ。神流ちゃんが本気で人を傷付ける子じゃないって、あの人達は解ってるはずだよ。」
「・・・・・・」
「負けたら、死んだのと同じになる。今は耐えるしかないんだよ・・・。」
「リンちゃん・・・」
「――死のうとか考えないで。絶対、アスカ達が助けに来てくれる。信じて待とう」
きっと、一人だったら耐えられなかった。神流はリンの言葉を信じ、もう弱音は吐かないと誓った――。
「存在しない?」
あれから幾つもの街を歩き回ったアスカ達。 【ツヴァイ】という街を人々に尋ねながら進んでいたが、誰一人としてその街を知る者はいなかった。
「聞いた事ないなぁ。本当に存在するのかい?」
「多分・・・」
「確証ないのー?其れよりさぁ、君達キレイな顔してるねぇ。どぅ?店、寄ってかない?」
若い男は軽い口調で彼等を誘った。背後に見える店は怪しげな看板を掲げていた。
「客はいるの?」
「沢山いるよ。君達みたいな若い子もね」
「そうか・・・。じゃあ、行ってみるか」
「えっ!?」
遊音が驚いた様子で声を上げた。
「なんだよ」
「だって・・・何か怪しいよ」
「情報得るだけだから、大丈夫だって。いざとなったら創葉が助けてくれっから」
「何気に人任せだね、君」
冷静にツッコミながら創葉も行く姿勢になっていた。
「・・・二人が行くなら」
遊音は断るのをやめて渋々二人についていった。若い男に案内を任せ、三人は店内へ足を踏み入れる。
「宝来サン、客っスか?」
派手な格好をした少年が三人を迎えた。
「あぁ、新入りだ。可愛がってやれよ」
「えっ」
男に聞く暇もなく、アスカ達は不意に背後から現れた男達に腕を掴まれ、動きを封じられてしまった。
「何すんだよ!」
「此処に入ったのは君達の意志だよ?客はいるって言ったけど、君達を客として迎えるとは言ってないからね。誤解しないでくれよ」
「っ・・・!ふざけんな!放せ!」
アスカは思いきり振りほどこうとしたが、男の力には敵わなかった。
「今日はツいてるなぁ。キレイな子が三人も捕まえられて。足を踏み入れた以上、逃がしはしないよ」
「くそっ・・・!」
「さっさと仕度させろ」
男達は彼等を連れて奥の部屋へと入った。そこには沢山の服が用意されており、メイク道具等もあった。
「此処が控え室だ。好きな服を選べ」
「・・・はぁ?おれらまだ働くなんて・・・」
「アスカ」
口答えしようとした彼を創葉が止めた。
「・・・なに?」
「ここは言う通りにしよう。情報得られたらすぐに逃げればいいんだから」
男達には聞かれないように小さな声で耳打ちする。
「でも・・・」
「入るって決めたんでしょう?君が迷ったら遊音だって折角着いてきてくれたのにまた惑わせるよ」
「・・・・・・解った。最初は従うか」
アスカ達は適当に服を選び、男達にメイクも施して貰った。手慣れたもので彼らは一瞬にして美女に変身した。あまりのクオリティの高さにアスカは女になった自分に見入ってしまった。
「すげぇな・・・」
遊音と創葉も完璧に女性と化していた。
「さっすが、美少年!こんなに化けるとは大したもんだね」
宝来という男が満足気に入ってきた。
「君達には女性として客をもてなして貰うよ」
「何で女装な訳?」
「そういう趣味の店だから。」
「じゃあ、客は変態って事かな?」
「正解。売上良かったら其なりの金は払うよ」
正直、ずっと歩き続けていたので所持金も少くなっていた。これから移動するにはお金が必要になる。
「要は、満足させりゃ良いんだろ」
「そう。客なら君達の探してる町も知ってるかもよ」
「――じゃ。情報収集といこうか」
意外と乗り気なアスカと創葉に対し、遊音は仕方なく溜め息をついた――。




