表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドマイン  作者: 淡月 涙
32/50

『久住』後編

時は流れ、少年は青年へと成長していた。何かを研究する事が好きだった少年はある研究施設へ配属された。其所は『異能』を持つ子ども達を研究し預かる施設。居場所のない彼らを養い、能力について様々な研究を行っている。あの時は、逃げる事に必死だったから殺すには至らなかった。だが、能力者を預かっているならきっとあの少女もいるはずだ。ミアを殺した憎い相手。絶対自分の手で殺すと決めていた。

「博士。今日から此処で働く事となった久住だ」

紹介され、にこやかに挨拶をする女性。

「初めまして。此処の管理者及び博士のカナンです。宜しくお願いしますね」

「久住です。こちらこそ宜しく」

此処での研究はカナンが全て内容を決め、研究員達が手際よく実行していた。

「カナン。新しい研究員が来たって?」

同じ博士の称号を持つ透韻が興味津々に聞いた。

「久住ですよ」

「どうも」

青年は軽く会釈した。

「初めまして。俺は透韻。宜しく」

「宜しく」

透韻とはすぐに意気投合し、青年はすぐに施設に馴染んだ。研究内容も素早く飲み込み打ち解けていった。だが此処での研究は青年にとっては物足りない気がした。

「もっと詳しく調べる?」

ある時、青年は透韻に話を持ち出した。

「昨日も一人受け入れただろう。もう此処に何人の能力者がいる?このままだと溢れ返るぞ」

「・・・うん、でも・・・此処の管理者はカナンだからね。彼女の意向じゃないと動けないんだよ」

「だったら直談判しに・・・」

「君が行ったら二度手間になるよ。オレが話してみるから。久住の考えにはオレも賛成だしね」

「透韻・・・。すまないな」

「いいって。じゃ、結果は連絡するから」

「あぁ」

それから1週間後――

透韻の説得によりカナンは研究内容を少しばかり変える事を所員達に伝えた。其でもまだ生温かったが青年も納得しながら研究に励んだ。そんなある日、青年は所要で遠くの街まで出張に行った。そこで、彼はまた出逢ってしまった。地雷撤去の為に犠牲にされる子ども達の姿。あれからもう何年も経った。今更捕まる筈はない。怯えながら地雷を探す子ども。結果は見えている。運良く助かったとしてもまたいつか犠牲にされる。選ばれた時点で命はないようなものだ。青年は見過ごして帰ろうとした。

「助けないのか?」

不意に声を掛けられ、青年は振り向いた。

「――あの時のガキだな」

其所にいたのは以前と変わらぬ姿をした少女。あの時から全く成長していない様だ。

「こんな所にいたのか」

「私は此処を離れる訳にはいかない。」

「――何故、その姿なんだ?あの時は私と同い歳くらいだった。もう何年も経つのに・・・」

「変わらないのが私の能力。私は不死身だ」

「不死身・・・」

「この姿のままもう二度と成長する事も死ぬ事もない。枯れない命、永遠の世界を手に入れた」

それまでその少女には殺意しか抱いていなかった青年はその話を聞いて興味を持った。

「では、君の心臓を食べると私も不死身になるか?」

「心臓なんて食べれるもんじゃない。まぁ、エキスを飲めば能力は引き継がれる」

「そうか――。其は面白い事を聞いた」

「私の能力が欲しいか?」

「当然だろう。今度、頂きに来るよ」

「手ぶらでは渡さんぞ」

「まさか。土産を与えるよ」






カナンの退職が決まった。其は青年にとっての好機だった。最後まで気付かれぬ様、平然を保ち別れを惜しむ。

「お元気で」

「研究の方はお任せ下さい、博士」

「ありがとう、久住。透韻と一緒に頼むわね」

「はい」

何気無い笑顔で彼女を見送る。

「其れじゃあ、宜しくね」

青年はこの時を待っていた。管理者は透韻に引き継がれたが、青年も特別な役職を貰った。彼は虎視眈々と自分の目的を果たそうとしていた。

「明日から出張だね、久住」

「あぁ。良いデータを持ってくるよ」

「期待してる」

透韻は何も疑わない。それだけ青年を信頼しているのだろう。青年は怪しまれないように着々と準備を進め、暫くの出張にでた――。






「土産を持ってきたぞ」

あの少女に差し出したのは保護していた異能を持つこども達だった。青年が彼等の能力を伝えると少女は笑みを溢し、受け取った。

「では、私も能力をくれてやろう」

「まさか、こんなにスムーズにいくとはな」

「――久住。私を殺せ」

「お望みのままに」

何の躊躇いもなく彼は少女にナイフを突き刺した。

「・・・これで・・・やっと・・・」

少女は笑みを浮かべながら静かに目を閉じた――。

「約束通り、お前の能力は貰っていく」

売ったこども達にはもう目もくれず、青年は目的を果たしてその場から立ち去った。




その日から、青年は別人の様に変わった。




低脳な能力を持つ子ども達を連れ出しては無理な実験を強いて残虐な仕打ちを与えた。最初は様子見をしていた透韻も見るに耐えられず何度か青年にやめる様促したが聞き流されるだけだった。

「どうせなら、高い能力を持っている奴等を抑えておけば良い研究データが取れるだろう?」

「久住!こんなやり方間違ってるぞ!あの子達だって人間だ。お前の道具じゃない!」

ある日、研究員の一人が青年に言い放った。それが火種になり他の研究者達も青年をバッシングした。乱雑な言葉が飛び交う中、青年は呆れた様子で視線を逸らしていた。

「――聞いてるのか!?」

一人の研究員が青年に掴みかかった。

「あぁ、済まない。随分と低脳な発言だったから良く聞き取れなかった。悪いが整理して言ってくれないか」

澄ました表情で青年は返した。その態度に研究員達の怒りは更に増した。

「いい加減、ウンザリなんだよ!お前みたいな奴に仕切られるのは!」

「だったら、出ていけばいい」

冷めた瞳で研究員達に言った。その突き刺さるような眼光に彼らは躊躇した。

「――放せ」

青年に掴みかかっていた研究員は静かに手を離した。一瞬にして空気が変わった。

「透韻。私と彼ら、どちらが正しいと思う?」

いきなり振られた透韻はすぐには答えられなかった。

「・・・透韻?」

「――ごめん。ボクだけの判断なんて出来ない。この研究は皆のものでしょう?意見があるのは良いことだと思うけど揉めてまで続ける意味は無いかな」

「ここまでこいつの好き勝手にさせて良いのかよ!」

「確かに、最近の久住のやり方には目に余るものがある。少し改めて欲しい」

「・・・なら、やり方を変えよう」

青年は素直に受け入れた。

「久住。君の考えを明日までにまとめておいて」

「承知した」

それで多少は丸く収まったかのように見えた。だが、その頃から体調を崩していた透韻が休みがちになってしまった。収容所の管理者は青年が代理を務める事となったが、研究員達は納得していない様子だった。

「――また、揉めてるの?」

透韻の見舞いに行った時、彼は青年の様子から察したように聞いた。

「どうも私は好かれていない様だ。やり方を改めはしたが其でもまた口を出してくる。君がいないと言いたい放題だ」

「完全に敵になっちゃったねぇ」

「まぁ、どうせ低脳な奴等だ。私が何をやったとしても態度は変わらない。今は無駄な争いを避けるので精一杯だよ」

「・・・ごめんね。ボクが収めなきゃいけないのに。殆ど丸投げしちゃったから・・・」

「透韻は何も気にする事はない。今はゆっくり体調を治さないと。――あぁ、それから」

青年は思い出した様に鞄から薬品を出した。

「この間の出張先で買った薬だ。腕の良い医者が調合したから心配はない」

「・・・貰っていいの?」

「あぁ。何かの時に使えればと思って買っただけだ。君の為なら惜しくはない」

「久住・・・」

「食後に水と一緒に飲むと良い。効果は保証する」

「・・・ありがとう。早速今夜飲んでみるよ。久住にも仕事があるのに態々来てくれて感謝してる」

「見舞いならいつでも来てやる。では、そろそろお暇するよ」

「気を付けてね」

それが、青年に向けられた最後の笑みだった――。




数日後。

青年がまた出張に行っている間に透韻が復帰した。以前より若返った風貌で。研究員達は透韻の変わりように動揺し空気はざわついていた。

「博士?何を・・・」

「此処にいる全ての子ども達を解放する。もう以前とは環境も違うんだ。能力を翳して仲間を得る術だってある。研究はもう終わりだ」

「そ、そんな事したら久住が暴れますよ!」

「知った事かよ。今まで彼奴の好きにさせたんだ。もう我儘は聞き入れない」

そして、透韻は異能を持つ子ども達を解放した。久々に外に出れた彼らは喜び合いながらそれぞれの道へと歩き出した。ただ、透韻は気付いていない。地下室に取り残された神流達の存在を。青年は研究員達にも気付かれないように神流達を地下室の牢に容れて監視を行っていたのだ。

それから二日後に青年が戻ってきた。変わり果てた環境を目にし、言葉を失った。自分の研究材料が全てなくなっている。研究員達の姿も見当たらない。空っぽになった収容所には冷たい空気が漂っていた。

「――おかえり」

何の気配もなく背後に現れた透韻に青年は肩を震わせた。振り向いた先に映った透韻の姿は女性と見紛う程の美しさを放っていた。

「体調、治ったのか?」

「お陰様で」

「それはよかった・・・」

「久住!」

いきなり大声で呼ばれ青年はまた震えた。

「・・・なんだ?」

「確か、ボクに渡してくれたのって良薬だったよね?君の言ってた通り、効果は絶大だったよ。見ての通り、若返った。まぁ、見た目に文句はないんだけど。問題はこの身体。怪我をしてもすぐに治るんだ。血も出した瞬間に止まる。おかしいよねぇ?それから、植物に触れたら何故か枯れてしまったんだ。もう水分を絞り取ったみたいに。――何が言いたいか解る?」

その殺気立った笑顔に青年は圧されていた。

「透韻・・・」

「あの薬は何?ただの薬品じゃないよね?」

「・・・・・・毒だ」

「えっ」

「君に渡したのは・・・不死鳥の心臓から取り出した液だ。それを飲めば、不老不死になる。永遠の美貌と命を得られるんだ・・・」

「――解ってて飲ませたんだ?」

「あぁ・・・。これも実験の一つさ!」

「開き直らないでよ・・・」

「透韻。私からも良いかな?」

「なに?」

青年は今までに見せた事のない表情を浮かべた。

「子ども達を、何処へやった?」

その雰囲気から恐怖が漂う。透韻は何も屈せずに正直に答えた。

「解放したよ。これ以上此処にいてはいけない」

「――研究員達は?」

「辞めさせた。皆、君には付いていけないって・・・」

「お前の判断で決めたのか?」

「もうボクしかいないでしょう?君に抗えるのは。だから久住。君にも出ていって貰うよ」

「なっ・・・!?」

「当然の判断さ。此処はもう閉じる」

「勝手過ぎるぞ、透韻!」

「君に言われたくないな。此処の権利はボクにある。どうしようがボクの勝手だよね?」

「透韻・・・!」

「君は所詮、ただの研究員にしか過ぎない。博士であるボクに逆らえると思ってるの?」

透韻は完全に青年を見下していた。

「――何してるの?さっさと出ていきなよ」

半ば強制的に青年は収容所から追い出されてしまった。透韻にとっても青年にとっても互いの行動は裏切りでしかなかった――。




そして。

青年の足はカナンの家へと向かっていた。何も疑う事なく出迎えたカナンに対し、青年は透韻が呼んでいると告げた。しかし、子どもを連れてはいけないと拒んだ彼女に何の躊躇いもなく銃を放った。怪我を負わせた上に長男を実験材料として連れてきた青年。その事実を知った透韻はすぐに長男を返してくれる様、青年に懇願したが彼は聞く耳を持たず、更に透韻を幽閉した。

それからというもの、収容所は完全に青年の私物と化し、また異能を持つ子どもを集めては実験と拷問の繰り返し。もう誰も青年を止める者などいなかった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ