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ランドマイン  作者: 淡月 涙
31/50

『久住』中編

その街には不思議な伝承があった。自分の名前を最も信頼している人に託すという意味で名前を交換し、ある期間まで何事もなく続ける事が出来たら、二人は一切の困難に遭わず、幸福だけが訪れるという言い伝え。とても昔の事なので今、試そうとする者はごく僅かだった。そんな伝承に興味を抱いた久住と叶多は互いの名を預り、その名前で暮らす事にした。

「・・・随分と楽しめたよ、叶多。ありがとう」

少年は親友の死体を山奥に埋めた。



それから1週間後――。

少年は4人を殺害した罪で街を追放された。送られた場所は罪人だけを扱う監獄所。そこで少年は一人の少女と出会った。

「お兄ちゃん」

初対面でそう呼ばれ、どこか幼さを残す少女に少年は惹かれた。

「・・・誰?」

「ミアだよ。お兄ちゃん、ミアを助けに来てくれたんでしょ?」

「えっ・・・助け・・・?」

「違うの?」

少し哀しげに首を傾げる少女に少年は違うとは言い切れなかった。

「――あぁ。そうだよ、助けにきた。お兄ちゃんも一緒だからもうそんな表情するな」

「うん!」

少年は少女の兄になった。今更、罪悪感など感じない。その日から二人は絆を深めていった――。



罪人だけの監獄。ミアにも罪は課せられていた。彼女は実の兄を殺害後、双子の姉を殺害しバラバラにして遺棄した。自ら此処に来たまさにその瞬間、彼女は不意に倒れ其から2年間昏睡状態だった。3年の月日が経った日、彼女は何の前触れもなく目を覚ましたが、此処にくるまでの5年間の記憶を喪っていた。

監守からその話を聞いて、少年はやっと納得した。幼さ過ぎる言動と自分を兄呼ばわりする事にずっと疑問だったのだ。

「安心しろ。どうせ二人とも死刑だ」

監守は二人を嘲笑しながら言い放った。



刑が執行される日、少年とミアは監獄の中で実況放送をみていた。その時間になると自動的に電源が入り、嫌でも他の犯罪者の刑を知る事になる。

「お兄ちゃん、あれなぁに?」

ミアは何もない平野を指差して聞いた。

「ただの原っぱだよ。特に何があるって訳でも・・・」

だが、その地を歩く犯罪者は怯えていた。何をそんなに怖がっているのか少年には解らなかった。

「もっと早く歩けばいいのにね」

ミアは普通に楽しんで見ている。犯罪者は徐々に歩くペースを上げていった。

「まさか・・・」

少年が気付いた時、画面が激しく光った。其と同時に大きな地響きも耳についた。突然の事にミアは怖くなり少年にしがみついた。

「・・・嘘だろ・・・?」

画面が戻った時、辺りは焼けただれ、犯罪者の焦げた片足だけが映されていた。

「お兄ちゃん、あれなに?」

「・・・人間の脚だよ」

「さっきの人は?」

「死んだ」

少年は冷たく答えた。これは、地雷だ。それに触れたら死は確実。少年も直に知るのは初めてだった。

「怖いね・・・」

「あぁ・・・」

もし、自分の刑があれだったら・・・。そう考えただけで身体が震える。其だけは絶対に嫌だ。




「お兄ちゃん。ミア、お兄ちゃんの事大好き!ずっと一緒にいようね」

少年が監獄に容れられてから一年が経った頃、ミアは唐突にそんな事を言うようになった。

「いるよ。俺はミアを守る為にいる。離れたりなんかしない」

「うん!ミアも!」

全てが楽しかった訳ではない。理不尽な拷問で気が狂いそうだった。其でも彼女がいるから耐えられた。

「お前達の刑が決まった」

遂にその時がきた。

「地雷撤去の刑だ」

それを聞いて少年は愕然とした。まさか自分が当たるなんて・・・。

「二人一緒にあの世で仲良くやれや」




少年とミアは地雷が埋められている地へ送られた。廃れた町。絶望しか秘めていない人達が踞っている。もうすぐ終わりが近付いてくる・・・。

「さぁ。どちらから行こうか?」

監守は愉しげに聞いた。二人は答えず顔を背ける。

「・・・お兄ちゃん・・・」

不安げに見上げる少女。死なせたくない。けれど犠牲になるのも嫌だ。

「――ミア!!」

少年は一か八かに賭けた。監守の油断した隙を見計らって少女の手を握りながら走り出した。突然の行動に監守は動きが遅れ、慌てて追いかける。

「お兄ちゃん・・・」

「絶対、手離すな!」

「うん」

二人は足元に気をつけながら逃げた。不安定な地面に脚を取られながら必死に駆ける。

「逃げられると思うな!」

監守が何か合図した。すると二人の前に一人の少女が現れた。

「・・・?」

不審に思いながらも脚は止めない。少女の横を通りすぎても何も起こらなかった。

「お兄ちゃん・・・」

「なに?」

「いつか言ってた・・・楽園まで、逃げられたら・・・結婚しようね」

「――あぁ」

その時だった。何の音もなく突然淡い光がミアを包み込んだ。

「ミア!!」

固く握っていた手は離れ、光は破裂しながら大きな地響きを起こした。

「嘘・・・」

ミアの姿はもう跡形もなく、その場には彼女が着けていた髪飾りだけが落ちていた。

「ミア・・・ 」

「あとはお前だけ」

少年の前にはいつの間にか少女が立っていた。冷たい眼差しで見下しながら少年に手を伸ばした。

「・・・殺す」

隠していたナイフを手に取り、少女に突き刺そうとした。だが、動きは少女の方が格段に上で軽々と交わされてしまった。

「無駄な事。抵抗しなければ楽に死ねる」

「煩い・・・!」

少年は諦めずにナイフを振るった。油断しながら避けていた少女は思いがけずバランスを崩し、腕に傷を負ってしまった。意外に深く刺さったらしく血が止まらない。少女が戸惑っている隙に少年は走り出した。ミアの髪飾りを握りしめながら・・・。

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